13話「無意識の計画」
ちょっと短いです。
一つ目の分隊は徐々に減らされる形で壊滅。二つ目は入り口からある程度進んだ地点で壊滅。三つ目の分隊は二つ目と大体似た様な場所で壊滅。
その全てをダンジョン最下層、【ダンジョンコア】が映し出す映像で見ていたレイジ達は何とも言えない表情をしていた。
「⋯⋯あれ? うちのダンジョンこんなやばい場所だったの?」
「⋯⋯これはゼーレも予想外だったよ」
「⋯⋯私の⋯⋯でばん⋯⋯なかった⋯⋯」
「銃とは⋯⋯何でしたのでしょうかぁ?」
「⋯⋯まともな出番はありませんでしたわね」
各々が口に出した感想は先程まで殺る気に満ち溢れていた者とは思えないものだった。
異世界ではほとんど見られなかったダンジョンの脅威。それが今やちょっとしたリアルホラーになってしまっていたのだ。こうして見るとどれだけ異世界と地球に差があるか浮き彫りになっていた。
「あれ? これどうするか。こっちからは出ていけないし、かと言ってここに居ても多分問題無いし⋯⋯ある意味手詰まりか?」
「貴方様が外に出て人間共を壊滅させることはしないのですね」
「それやっても良いんだけど⋯⋯」
パンドラが言った様にレイジ自身が外に出て溜まっている軍を壊滅させる、という考えは確かにあった。しかし、レイジの中でそれはマズイと警鐘が鳴らされて居た。頭によぎるのはあの大尉。まだ何かある、そう感じてならないのだ。
「⋯⋯」
「ま、まぁ、いいのではないですかぁ? ある程度死ねば人間達も分かるのではないですかぁ? ここがどれほど危険な場所だってことがぁ」
「⋯⋯ん⋯⋯そうすれば⋯⋯にんげん⋯⋯こない⋯⋯?」
「そうですわぁ! その後ゆっくり外に出ても遅くはないと思いますよぉ」
「それもそうですわね」
「⋯⋯そうだな」
どこか楽観的な雰囲気。カチャカチャと物音がすると思えばミサキがお茶の準備をし、ボフボフと何かを置く様な音がすればゼーレが座布団を並べている。
今か今かと次の侵入者をスポーツ観戦の様に眺め始めるこの光景はある意味では嵐の前の静けさだったのかもしれない。
「よし! 準備完了!」
テーブルと座布団が五枚、お茶が入ったカップは六個用意されて居た。
「⋯⋯んじゃまあ、座るか」
先を促される様に見られたレイジは何とも言えない感情を抱きながらも画面がよく見える位置に座った。
「じゃあ、ゼーレはーーー」
レイジが座ったその瞬間ゼーレは動いた。その瞬時の判断と行動力はレイジを含めた全員が目を見張るほどだ。そして、その目の先は当然ーーー
「⋯⋯させない」
ゼーレの進行方向先⋯⋯レイジの膝の上を目指す進行方向を遮る様にこの中で最速の女、ミサキが両手を広げ現れた。
「くっ! 流石ミサキちゃん⋯⋯そこを退いては⋯⋯?」
「⋯⋯だめ⋯⋯お姉ちゃん⋯⋯さっきも⋯⋯けいこく⋯⋯むしした⋯⋯」
「⋯⋯成る程⋯⋯実力行使ってわけねっ!」
不規則な左右のフットワークでミサキの脇を抜けようと試みるゼーレ。その動き⋯⋯まさに◯キの様だがミサキの方が一枚以上上手だった。
「⋯⋯お姉ちゃん⋯⋯じゃあ⋯⋯私を⋯⋯ぬけない⋯⋯」
左右にブレるゼーレを鏡写しの様に追うミサキ。一歩たりとも後ろに下がらないその動きは最速の冠は伊達ではなかった。
「⋯⋯私はこちらで良いですわ」
「私はこちらでぇ」
ゼーレ達が乱闘を繰り広げる中涼しい顔で座ったのはパンドラとエイナ。
二人は争うことなく、パンドラはレイジの左隣、エイナはレイジの真正面に陣を構えた。
「な!? パンドラちゃんは何となくそんな感じはしてたけど⋯⋯エイナちゃんが動かないだとっ!?」
「私もお兄様のお膝元は憧れますけどぉ⋯⋯こちらの方がお兄様をずうううううっっっっっっっっと見てられますわぁ」
ゼーレの驚きを他所にエイナはウットリとした目でレイジを見つめる。レイジもまた居心地の悪さを感じながらお茶を啜るがその一つ一つの動作が何を刺激するのかエイナの顔は恍惚とし始める。
「う、裏切ったなっ!?」
「⋯⋯」
乱戦を狙ったのかゼーレはエイナも参戦することを考え、その隙を突いていたようだ。そして、それを知ってか知らずかミサキはあることを確認した。
「⋯⋯ん」
「え?」
ミサキは突然ゼーレを相手取るのを止め、次の瞬間にはレイジの右隣に現れて居た。
そして、突然にマークを外されたゼーレは唖然とした。
「あれ? ミサキちゃん? いいの?」
「⋯⋯私は⋯⋯もう⋯⋯とめない」
「ッ! そうなの!? ついに⋯⋯ついにゼーレを赦してくれたんだね!?」
ミサキの諦めた様な勝ち誇った様な表情を見たゼーレは疑問に思いながらも歓喜した。遂に認められたのだ。その喜びを全身で表現するかの様にガッツポーズを天に捧げ、ゆっくりとレイジの元まで歩いてきた。
「これが勝者の道⋯⋯これがシルクロードッ! いざ、行かん!」
ゼーレの目に映っているのは桃源郷。願いを叶えた⋯⋯否、叶える場所しか写っていなかった。そう、もっと重要な事が映っていなかったのだ。
「お兄〜ちゃん! 膝の上にのっけ⋯⋯」
「⋯⋯無理だな」
「いやいや〜、拒否したって無駄だよ? ゼーレはそんなことを気にしないからっ!」
「⋯⋯いや、そうじゃねえから」
「あ、照れてる? ゼーレの様な究極美少女が膝の上に乗っかることに照れて⋯⋯」
「⋯⋯いやだから⋯⋯」
そしてゼーレは目にしてしまった。桃源郷とは幻想郷であり、人の夢の様に儚いものであったことを。理想と現実の差を。積み上げたものは崩れる最後しかないということを。そこには⋯⋯
「⋯⋯先客がいるから」
「パパっ! あ〜んっ!」
手に持っていた甘い甘いチョコレートの一欠片をレイジの口に持っていくテトラの姿があった。当然場所は⋯⋯レイジの膝の上。その小さな体はスッポリとレイジの膝の上に収まっていた。
「⋯⋯」
「⋯⋯ゼーレ?」
「⋯⋯い」
「は?」
「ひどいっ! ゼーレの純情を弄んだねお兄ちゃんっ!」
「弄んだってお前⋯⋯」
「せっかく⋯⋯せっかく用意したり戦ったりして頑張ったのに⋯⋯こんなのあんまりだよっ!」
「いや、お前完全に早い者勝ちみたいな感じだったろ? それならテトラの努力が勝っただけだろ」
「あ、パパあ〜ん」
「あ、うん」
「〜〜〜ッ」
地団駄を踏みながらテトラとの対応の差に抗議をするゼーレ。しかし、現状は覆るどころか悪化していた。
「そもそも、ゼーレ様はまだ刑が途中ではなかったではないですか?」
「うっ⋯⋯」
「そうですわぁ。お姉様はまだ反省のみであるのにぃ⋯⋯ここでお兄様のお膝元を取りに行くのは間違いではないですかぁ?」
「ぬぅ⋯⋯」
もはやぐうの音も出ないと言った状況。しかし、ここで下手に抗議の声を上げれば折角忘れかかっていた刑が再度執行されてしまう。しかし、ここで許せばテトラに色々なものを盗られてしまう。
グルグルと考えを巡らせゼーレは悩んだ。ここでは一体何が最適なのか。何が正しいのか。そして⋯⋯どうすれば元通りになるか。
そしてその答えは⋯⋯
ーーービビビーッ! ビビビーッ!
新たな侵入者。先ほど入ってきた軍人とは一風変わった人間達の中にあった。
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