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二話「世界は広い」

「世界は広い」


 その言葉で一括りにしていいモノか。いや、それ以前の話だろう。私は勇者****。国王陛下より魔王討伐の任を受け、昨日旅立ったばかりの駆け出し勇者だ。


「ああ、なんだ、その」


 私は浅慮だった。腕自慢が集う場所と聞いては居た、聞いては居たが、あれは酷い。城壁の外に出て弱い魔物と戦ってみろと言われたところまではいい、そして私が大きな鼠を餞別として贈られた剣で倒すところまでは。


「こ」


 これで良いだろうかと振り向いた私が見たのは杖を振りかざした魔法使いの女性と、燃えさかりながら落ちてくる複数の岩だった。


「ちょ」


 魔法使いの視線からすると落下地点は少し離れた所だろうが、そんな場所にあんな大きなモノが落ちたら私達とでただでは済まない。


「逃げ――」


 今から逃げて間に合うとは思えない。だが、少しでも予測落下地点から離れるべきだと声をかけようとして、気づく。私以外の誰もが平然としていることに。


「どうして」


 逃げないのかと尋ねる時間は残されていなかった。炎の尾を引いて地表に衝突した岩は大爆発を引き起こし、私が剣で仕留めたのと同じ魔物を複数一気に吹き飛ばし。


「え」


 迫る余波と衝撃波は覚悟を決め、それでも目は閉じなかった私を素通りした。その後、ツナールサと言う廃村に連れて行かれた私は土をかき分けて這い出てきたゾンビと一緒に猛吹雪に巻き込まれたり、風の刃で切り裂かれたりした筈なのだが、身体は何ともなって居らず、彼らの行使する魔法が味方は一切傷つけないというモノであることに漸く気づいた。


「私が居る必要はあるのだろうか」


 その時点で私の目はひどく遠くを見ていた。廃村のゾンビ達から感じたプレッシャーの様なモノは城の門の前に立っていた衛兵と同じかそれより上の様な気がしたのだが、私に協力してくれた者達の反芻は雑草でも刈るかのようにゾンビ達をあっさり打ち倒し、その後に連れて行かれた廃城では出会ったとたんに絶望と死しか感じなかった半透明の兵士達を一方的に殲滅してのけたのだ。


「亡霊なのに壁抜け出来ないわ、近接攻撃オンリーだわって……ねぇ」


「城壁の上からなら遠距離攻撃さえあればレベル1でも勝てるよね。前、やったことあるわ。効率悪くて全然美味しくないし、ここに連れてきて貰う護衛が居るけど」


 ちなみにこの廃城の亡霊達はレベルに直すと50台後半から60台前半らしい。彼らはこの城の主となった大鎌を持ち浮遊する不気味な骸骨の魔物さえ私を護る片手間といわんがばかりにかなりの余力を残しながら倒し。


「あ、そろそろ時間だからあたし落ちるね。おつかれさまー」


「「おつかれさまでした」」


「風呂はいってらー」


 急に立ち止まった魔法使いの女性が挨拶すれば他の者達はまた半数以上が声を揃え手を振るったのだが。


「風呂? この廃城の風呂か?」


「じゃあねー」


 そう訳がわからず混乱する私の前で手を振っていた魔法使いは突然消滅し。


「は?」


 私は固まった。人が急に消滅するなどあり得ない。


「亡霊……」


 ここは亡霊と化した兵士達が彷徨う城。彼女もまた亡霊で生前この城に住まう魔法使いだったというのだろうか。


「いや、おそらく先程倒した魔物がこの城を滅ぼした元凶の筈、だが彼女は明らかにあの魔物より強い」


「さてと、一人減ったけどどうする?」


「納品マラソンまだだし、そっち行こうぜ」


 それに、私以外の者達はまったく動揺する様子も見せず平然と次の予定について話し合いを始めていた。時折理解出来ない単語が混じるが、もう今更だ。


「納品マラソンするなら持ち寄った方が良くない?」


「下手に負担者増やすと輝石出して無い奴の肩身が狭くなるだろ?」


「もう何があっても驚かないぞ、私は」


 決意を込めてと言うよりも世界が信じられなくなってぼそりと漏らした私は未だ話し合いの決着を見せぬ彼らを眺め朽ちかけた壁にもたれかかったのだった。


・次回用の覚え書き


 うっかり全裸(転職)

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