91 およそ主人公に似つかわしくないような必殺剣
「そんなもので!」
私の放ったエーテルショットの雨を、ルイスは光の障壁を生み出し防ぎきる。
「防御魔法!?」
「そうさ。僕の本領は防御にある。姉さんを守るために磨いた術さ」
にやりと笑って、ルイスが言った。
黒いマッシュルームカットの美少年は、私とそう変わらない歳だと思う。
「じゃあ、どうしてイムソダなんかの言うことに耳を貸したの!?」
「僕は優秀な魔術士だからね。やつがどんなに大きな存在か、肌で感じ取ることができた。やつに逆らうなんてまったく合理的じゃない。やつのことが気に入ろうと気にいるまいと、膝を屈して従うしかないのさ。凡人にはそれがわからない」
私はさらにエーテルショットを放つ。
ルイスの障壁にヒビが走った。
「へえ、君はたいした魔術士らしいね。やつがほしがったのもうなずける。
でも、邪魔だよ。僕は姉さんにもあのかたのもとに来てほしい。一緒にあのかたの下で働いて、来るべきあのかたの王国で、枢要な位置をともに占める。
好むと好まざるとにかかわらず、それが僕たちが幸せになれる、唯一合理的な道なんだっ!」
私はエーテルショットを放ちながら、黒鋼の剣を片手に持ち、ルイスに向かってダッシュする。
私のエーテルショットがルイスの障壁を砕いた。
その破片を切り裂くように私は走り、ルイスに剣で斬りつける。
「おっと」
ルイスは私の剣撃を、すばやく剣を抜いて受け止めた。
「これでも騎士志望だったものでね。姉さんほどではないけど剣も使える」
ルイスは私の剣を弾き、鋭い突きを放ってくる。
私は左手に握った無念の杖でその突きを払い、右手の剣で斬りつける。
その剣が、ルイスの肩のあたりに発生した障壁にぶつかった。
「剣も魔法もなんて、なかなか器用な冒険者だ。クレティアスが一敗地にまみれたのは偶然ではないらしい。
いいよ、姉さんも忙しいみたいだし、僕は君と遊んであげよう」
私は飛びすさり、牽制のエーテルショットを放つ。
ルイスはそれを障壁でやすやすと受け止めた。
「シェリーさんがクレティアスに負けるとは思わないの?」
「僕の姉さんが、あんな考えなしのうぬぼれ男に負けるとでも?」
「考えなしのうぬぼれ男ってとこには同意する……かな!」
再び斬りかかってみるが、ルイスに剣でさばかれる。
(純粋な剣の技術なら、ルイスのほうがちょっとだけ上かな)
向こうは騎士流の剣で、こっちは盗賊士の短剣術の延長だ。
まともに撃ち合えばこっちが不利だけど、そもそもまともには撃ち合わないのが、盗賊士の剣の心得だ。
剣は総合的に見て五分、魔法はきっちり防がれる。
このままだと、私とルイスの戦いは膠着しそうだ。
でも、
(クレティアスに魔法が効かなかった反省はちゃんとした!)
私は、黒鋼の剣に、無念の杖をそわせた。
クレティアスが剣に左手をそわせるのとそっくりな動作だね。
そして、呪文を唱える。
「無念をかこつ亡霊よ、剣に宿りて我が敵を斬り裂き、怨みを慰むよすがとせよ」
呪文とともに、私の手にした剣がどす黒く染まった。
剣からは、人間の持つ負の感情が陽炎のように立ち上ってる。
「――なにっ!?」
さすがにこれには驚いたか、ルイスの動きが止まった。
私は亡霊剣でルイスに斬りかかる。
「ぐぅっ!?」
ルイスはとっさに剣で受けた。
鍔迫り合いになれば、筋力の差で私が不利――と考えるのがふつうだ。
が、
「なんだこれは!? 僕の剣が蝕まれて――!?」
そう。ルイスの言った通り、鍔迫り合い状態になった亡霊剣からルイスの剣へと、黒い「何か」が流れていく。
適切な言葉がなかなかないが、しいていえば「瘴気」だろうか。
人間の濃縮された負の感情が、まるでカビが食べ物を蝕むように、じわりじわりと広がっていく。
「くっ!?」
ルイスが強引に剣を弾いて飛びすさる。
そこに、
「――エーテルショット!」
忘れずに追撃を入れる。
障壁で魔法を防いだルイスにさらに駆け寄り、亡霊剣で斬りつける。
ルイスは亡霊剣を障壁で防いだ。
「な、なかなか厄介な芸を持ってるね……」
「そっちほどじゃないよ」
私は亡霊剣でたたみかける。
ルイスはそのすべてを障壁で防ぐ。
いや、そうせざるをえないのだ。
(もし剣で受けたら、金属だろうと『腐る』からね)
ルイスの判断は正解だ。
だが、魔法を防御のみにまわしてしまえば、私を攻撃することはできなくなる。
ルイスは苦しまぎれに、亡霊剣を障壁で防ぎつつ、片手で剣を振ってくる。
集中力の関係か、剣撃としては軽すぎる。
左手の無念の杖で、やすやすといなすことができた。
「くそっ、前座ごときが手間を取らせる……!」
いらだたしげにハンスがうめく。
こっちの攻撃も防がれる以上、こっちも攻めきれないのだが、
(私としてはこれでもいい)
ベアノフは、もうすぐ騎士二人を制圧しそうな勢いだ。
シェリーさんも、クレティアスの猛攻をかろうじて凌いでた。シェリーさんが危なくなるたびに、風羽の弓を持ったハインラインさんがクレティアスを牽制してる。
騎士二人を倒したベアノフが、私かシェリーさんの助けに入れば、形成は一気に傾くだろう。
私は膠着状態を維持したままそれを待ってればいいだけだ。
(ルイスを一気に攻めて倒すこともできないわけじゃないけど……シェリーさんのことを思うとね)
イムソダの情報も聞き出したいし、できれば殺さずに捕らえたい。
私がそんなことを考えてるあいだに、
「ベアアアアッ!」
「ぐぁっ!」
「ぐはぁ!」
ベアノフが、覚醒騎士二人をまとめて吹き飛ばした。
余力があれば生け捕りという方針だったので、爪ではなくタックルで、ダンジョンの壁に打ちつけたようだ。
(あの勢いじゃ死んじゃいそうな気もするけど……そのときはしょうがないね)
私はべつに人道主義者じゃない。
手加減しすぎて無力化に失敗し、あとで痛い目を見るような展開はごめんである。
ベアノフは油断なく、騎士二人が意識を失ってることを確かめてから、他の戦場に目を向けた。
クレティアスとシェリーさんの戦いは、騎士の剣技のぶつかるめまぐるしい展開になっていて、爪と巨体が武器のベアノフには、割って入るのが難しい。
ベアノフは、ルイスへと目を向けた。
ルイスは、私に亡霊剣とエーテルショットでがちがちに固められて動けない。
そこに、ベアノフが襲いかかればどうなるか。
「なっ!?」
ルイスのほうもベアノフの視線に気づき、狼狽する。
「いまっ!」
チャンスを見逃さず、斬りつける私。
「くぅっ!?」
肩口を狙った亡霊剣が、ルイスのローブを斬り裂いた。
ルイスは血がこぼれる肩を押さえながら大きく下がる。
そこにベアノフが突進しようとして――動きを止めた。
同じく追撃をかけようとしてた私も、おもわず足を止めていた。
どころか、シェリーさんと切り結んでたクレティアスまでもが、剣戟をやめ、シェリーさんから距離を取ってルイスを見た。
チャンスになったはずのシェリーさんも、やはり動けず、磁力に引きつけられるようにルイスを見る。
「ふっ……くくっ……時間切れだなぁ、ルイスよ」
そうつぶやいたのは、他でもないルイスだった。




