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不幸少女は二度目の人生でイージーモードを望む。  作者: 天宮暁


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49 ノームの郷

 ノームの(さと)へは、ポポラックの造ったトンネルを通って行く。


 トンネルは、通過した私の後ろ側で閉じてくので、後ろからモンスターが入りこんでくるような心配はない。


「アビスワームも地中を潜るゆえ、われらの郷は、やつに万一にも襲われないような場所へと移動した。すこし遠いが我慢してほしい」


「いいよ、べつに」


 グランドマスターの加護のおかげもあって、いまの私はけっこう体力がある。


 ポポラックの造るトンネルは、ダンジョンの十六層からやや下に向かって伸びてるようだ。


 数十分ほど歩くと、不意に視界がひらけた。


「着いたぞ。われらが郷へようこそ」


 ポポラックがそう言って、「郷」のほうを示す。


 といっても、直径15メートルくらいのドーム状の空間だ。

 地の精らしく、ドームの壁は、土を掘って作ったらしい浮き彫りの壁画で覆われていた。


「へええ。綺麗だね」


「ここと同じような小房が二十数個つながっている。それぞれに一家族が暮らしているのだ」


「家族⋯⋯ノームに雌雄ってあったの?」


「ご賢察の通り、われらに雌雄の別はない。仲の良いもの同士が交接して子をなすだけだ。

 交接せず、単独で子をなすこともできるが、病んだ家系を生み出しやすいので、なるべくならパートナーを見つけたほうがよい。

 ダンジョンマスターとなってしまった同胞も、何代か単為生殖をくり返したことで精神に異常をきたしたのかもしれない」


「なるほどね」


 私はドームのはじっこに、数人のノームがうずくまってることに気がついた。

 私の視線に気づいたのだろう、ポポラックが言う。


「アビスワームのせいで、われらが郷はこのところ空気が沈滞気味なのだ」


「そんなときにお邪魔してよかったのかな?」


「むしろ、このような時だからこそ、客人が来るのはありがたい。ノームは客人をもてなすのが好きなのだ」


「それなら⋯⋯よかったのかな」


「難しい話はあとにしよう。まずは、ミナト殿をもてなしたい」


「あははっ、い、いいのかな」


「我をアビスワームから救ってくれたのだ。もてなさねばノームの沽券にかかわる。これでも、この郷の長は我なのだからな」


「ええっ! ポポラックはここの長だったの?」


「単に、馬齢を重ねたにすぎぬがな。ともあれ、今日はゆっくりしていってほしい。寝床も用意しよう」


「あはは⋯⋯それはありがたいかな」


 早く帰らないとシズーさんやアーネさんが心配しそうだが、実際、疲れているのも事実だった。

 ずっと神経を尖らせたまま浮遊魔法で十六層まで降りてきたからね。


 ポポラックは私を新しく造った「客室」に案内すると、「宴までしばし休んでいてほしい」と言って姿を消した。


(って、あははっ⋯⋯う、宴? うう、パーティとか宴会とか苦手なんだけどなぁ)


 自分の誕生日パーティですら落ち着かない。

 自分なんかのために集まってもらっていいのかなって思っちゃう。


 もっとも、私の誕生日パーティが開かれたのは一回だけだ。

 母が珍しく上機嫌だった年で、思いつきでパーティを企画した。友だちと言っていいのかなという微妙なラインのメンバーが集まり⋯⋯予想通り、パッとしない誕生日会になってしまった。

 ――なんであんたはもっと幸せそうな顔ができないの。

 そんなふうに怒られたっけ。


 私は一抹の不安を抱えながら、あてがわれた部屋で宴の準備を待つことになった。







「ポポロポロポロ、ポポラック~⋯⋯やっつけられたアビスワーム!」


 ポポラックが地の精の力を使って土の像を造り、私の「活躍」をみんなに説明してる。


 それを、上座に置かれた私は、気まずい思いとともに眺めてる。

 手には小さな盃に注がれた乳白色の飲み物。

 口に含むと、溶けるように舌に広がってく。

 眼前の光景からの現実逃避のために、()がれた飲み物をちょびちょびと啜る。


(うん、芸はすごいよね。親戚のおじさんの宴会芸なんかとは比べものにならないね。演目が私の英雄譚じゃなければなぁ⋯⋯)


「お代わりをどうぞ、ミナト殿」


「あはは、ありがとう」


 若いノームが、空になった盃に飲み物を注いでくれる。


「これ、美味しいね」


 乳白色の飲み物は、飲み口が軽く、のどの奥で蒸発するように消えてしまう。味も、私好みのすっきりした甘さだ。


 私の言葉に、若いノームが胸を張る。


「そうでしょう! われらが郷で(かも)された、自慢の酒精(しゅせい)でありますれば!」


「カモす⋯⋯? シュセイ⋯⋯? って、なんだっけ。

 あはは、疲れてるのかな、なんか頭がふわふわして気持ちいい⋯⋯」


「酒精は酒精でございます。人間の造る酒も、なるほど美味しゅうございますが、ノームの造る酒精は、雑味を徹底して排した究極の酒。濃いのに飲みやすく、たちどころにして酔えると評判なのです!」


「あ~そうなんだ。お酒かぁ、どおりで頭がふわふわすると⋯⋯って、お酒ぇっ⁉︎」


 私、未成年なんだけど⁉


 昔、正月に親戚のおじさんに飲まされて⋯⋯そのあとの記憶がさっぱりない。

 いったいなにをやってしまったのか、誰も教えてくれず、私には絶対酒を飲ませるなってことになったらしい。

 ⋯⋯いや、子どもに酒を飲ませるのは立派な児童虐待ですって話なんだけどさ。


「うーあー。これ、マズいかも。美味しいからすんなり飲めちゃったけど、ビールなんかよりずっと強い⋯⋯」


「ミナト殿? どうなさいました? まさか悪酔いされましたか?」


 若いノームの声が、どこかとても遠いところから聞こえてくる。


「ぅあ、む⋯⋯」


 襲ってくる眠気に抗しきれず、私の意識はそこで途絶えた。




 その後、しばらくの記憶は残ってない。




 酔いから覚めて起きてみると――


 どういうわけか。

 ノームたちは歓迎の宴以上のどんちゃん騒ぎをしていた。

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