48 ポポロ、ポロポロ
アビスワームが、すぼまっていた口を開きながら、私に向かって落ちてくる。
いや、正確には呑み込もうと首?を突っ込んでくるだけだが、「落ちてくる」ような迫力があった。
だが、その動きはむしろ遅い。
ビギナーモードだからだ。
「あはははっ!」
私はノームをつかんだまま、余裕を持って攻撃をかわす。
そして、
「エーテルショット!」
地面に突っ込んだアビスワームに、再び極大のエーテル弾を撃ち込んだ。
ぐるるぎゃああああお!
アビスワームがチューブ状の身体のどこからか声を出す。
HPバーは⋯⋯白の下に紫が見えた。
(ええと、紫は五本目の色だったから、紫、白、灰色、銀で確定だね。
最大HPは770。現在のHPは590くらい)
「あははっ。削れなくはないね」
いまのように、避けてからエーテルショットをくり返すだけで、アビスワームをハメられる。
私は次の攻撃に備え、身がまえた。
が、アビスワームは、地面に食らいついたままだ。
いや、
「潜ってる︎」
胴体がずるずると、地面に向かって波打ちながら動いてる。
最初に現れた穴から、いま頭を突っこんだところに向かって、長い胴体が果てることなくスクロールしていた。
あまりの長さに、私はあっけにとられて見入ってしまった。
「って、攻撃しなきゃ!」
あわててエーテルを集め、ショットを放つ。
アビスワームの潜ってるあたりが爆発する。
だが、
「⋯⋯逃げられたね」
ショットを放つ直前、アビスワームの尻尾が見えた。
ショットが直撃するより早く、尻尾は頭を追って地中へと潜りこんだ。
ショットは瓦礫の山を吹き飛ばしただけだった。
盗賊士としての感覚やミニマップを使って確認するが、アビスワームはそのまま遠くへと逃げていった。
「ふぅ。なんとかなったけど」
私はそう言って、つかまえたままだったノームを地面に下ろす。
ノームは、興奮しきった顔で私を見上げた。
「す、すごいではないか! なんたる大導師! まさか、アビスワームを撃退してしまうとは!」
「あはは。大導師はやめてよ」
「では、なんとお呼びすれば?」
「ミナトでいいよ」
「ミナト殿か。申し遅れた。わが名はポポラックだ」
「殿もいらないけど⋯⋯まぁいいや」
言っても聞きそうにないので、私は早々にあきらめた。
「――ミナト殿。折り入ってお願いがございまする!」
真剣な顔になって、ポポラックが言う。
(あー⋯⋯うん。流れでわかるね)
私が頬をかいてると、ポポラックは続けた。
「しかし、ここではいつやつが戻ってくるかわかりませぬ。われらが郷へお越し願えまいか」
「あははっ。いいよ。お願いはともかく、ここにいてもしかたないし。
でも、どうやって行くの? 横穴は埋まってるよね?」
「その点は心配ご無用。われらはノームゆえ」
ポポラックは、とてとてとてっと転げるように歩いて、穴の底の壁に近づいた。
「ポポロ、ポロポロ、ポポラック。岩もポロポロ、土もポロロ、ポポラックはいま、大地の隧道を往かんとす」
呪文――ではなかった。
(エーテルの流れは見えなかったね)
にもかかわらず、ポポラックのまえに、ぽっかりと丸いトンネルが空いた。
「すごい!」
おもわず叫んだ私に、ポポラックが胸を張る。
「われらノームにとっては当然のこと。ノームは地の精、すなわち大地の精髄なり。大地はわれらが身体に等しい。それはダンジョンだろうと同じことなのだ」
「へええ」
「では、われらの郷に案内しよう。ついてきてくれ」
「わかった⋯⋯けど」
「む? どうした? なにか不都合でも?」
「あはは、いや、穴が小さくて通れないだけだよ」
ポポラックは謝って、トンネルを広くしてくれた。




