40 やっぱり階段がない。ないものはない。
一層の終わりにキャンプができ、冒険者たちはダンジョン前広場とキャンプを行き来しながら、二層へも足を踏み入れるようになった。
一層の迷路もギミックの全容が解明され、キャンプは補給の不安もない。
探索はすこぶる順調だった――すくなくとも表向きは。
一方、私はというと、
「阻め、鉄の盾よ!」
ストーンゴーレムの大ぶりの攻撃を、左手に魔法で生み出した即席の盾で受け流し、
「貫き穿て、鉄の杭!」
右手から大質量の鉄の杭を放つ。
鉄の杭はストーンゴーレムの分厚い胸板を粉砕した。
がらがらと音を立てて崩れるストーンゴーレムから距離を取り、私は小さく息をつく。
「ふぅ。ベリーハードのストーンゴーレムもオーケーと」
ドロップアイテムは⋯⋯おお、ゴーレムの動力コア。レアドロだね。
かなり重く、かさばるアイテムだが、大丈夫。
「ええと、ゴブリンシーフの風呂敷を広げて⋯⋯」
一層でごくまれに出現するゴブリンシーフを難易度インフェルノ以上で倒すと、包んだアイテムの大きさと重量を劇的に小さくする「ゴブリンシーフの風呂敷」をまれに落とす。
一層ではヘル、ノーフューチャーでもなんとかなるようになったので、この便利アイテムのためにゴブリンシーフは数え切れないほど狩った。
風呂敷で動力コアを包むと、みるみるうちに風呂敷が縮み、おにぎりくらいのサイズになる。
私はそれをリュックに収める。リュックの中には、おなじようなサイズの風呂敷包みが大量に詰まっていた。
「いろいろ用途がわからないアイテムが増えたな⋯⋯。でも、つい集めちゃうんだよね」
レアドロどころではないアイテムも増えた。
シズーさんに見せたりしたら卒倒しそうなものもたくさんある。
「装備品も手に入ったし」
盗賊士のナイフ、クロークをはじめ、魔術士用のマントやサッシュ、ローブもある。
一応、盗賊士ということになってるので、装備は盗賊士準拠で、部分部分魔術士の装備をつけている。
いまだメインで使ってる無念の杖は、ゴブリンシーフの風呂敷に包んでポケットの中。
いまのストーンゴーレムくらいの相手なら、杖なしでもどうとでもなってしまう。それなら、手は空いていたほうが安全だ。
いまのお気に入り装備は、足音の消えるブーツと、ゴブリンの煙玉と同じ効果を持つ盗賊士用のクロークかな。
火が出る剣とか、風を起こすナイフとかもあるけど、魔法を使ったほうが威力があるので、リュックの肥やしになっている。
「でも、あんまりいいアイテムを装備してると目立つんだよね」
いいアイテムは目立たないよう服やクロークの下に隠して装備したり、いろいろ工夫が必要だ。
「ハクスラは順調⋯⋯かな」
アイテムも集まってるし、魔法も増えたし、敵を倒して見違えるほど強くなった。
二層でも、難易度インフェルノまでなら安定して戦える。
面白いようにドロップするので、ついつい狩りすぎてしまう。
「マップもそろそろ埋まる⋯⋯んだけど。
あははっ。困ったな」
二層の探索もだいぶ進んだにもかかわらず、私はいまだに下りの階段を見つけられていなかった。
「他の人たちはようやく二層に取りかかったところだから、まだ時間はあるんだけど⋯⋯」
フレイムリザードは普通の冒険者にとってはかなりの難敵らしく、少なからぬ被害が出てるらしい。
ましてサラマンダーなんて、目にした瞬間に逃げ出すしかないレベルだという。
⋯⋯私はけっこう安定して狩れてるんだけどな。
「フレイムリザードに対抗するには強い魔術士が必要で、
ストーンゴーレムの相手をするには攻撃力の高い戦士が必要。デビルテンタクラーは魔法耐性が強くて、ぬるぬるした触手のせいで物理攻撃も効きにくいから、盗賊士の罠も重要。
うーん⋯⋯言われてみればひどい配置だね」
三士が揃って強いパーティはあまりないって話だ。
人間、似た者同士でつるみやすいから、別方向の個性がひとつのパーティに収まるのは奇跡なのだという。
そんななかで成果を挙げているのは、
「クレーマー騎士とレイティアさんのチームなんだよね」
アクの強い二人が組むとは驚きだが、戦力的には理にかなってる。
ただ、盗賊士の技量がやや不満らしく、レイティアさんはいまだに私のことを勧誘してくる。
そのしつこさには、なにか必死なものを感じた。
「焦ってるっていうか⋯⋯不安、なのかな。一獲千金狙いってだけじゃない執念を感じるよね」
最近は特派騎士まで一緒になって勧誘に来ることがあるので、私はキャンプでも常時気配を消している。
「でも、レイティアさんたちも、私がここまで進んでるとは知らないはず」
昨日になってようやく、レイティアさんたちは階段の崩落現場を発見したらしい。
昨夜はギルドまで巻き込んで、たいへんな騒ぎようだった。
もちろんギルドは私の報告でとっくに事実を把握してたのだが、特派騎士がうるさいので気づかれるまで教えてやらなかったらしい。
私に渡した二層の地図の写しすら、紛失したと言い張って渡さなかったというから徹底してる。
「そのあいだに三層への階段を見つけたかったんだけど⋯⋯」
私は自分でマッピングした地図を片手に道を進む。
一縷の望みをかけていた通路は、あっけなく行き止まりになった。
「あははっ。ダメかぁ」
二層の地図を完全に埋め終えた私は、がっくりと肩を落とした。
――三層への道は、遠い。




