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不幸少女は二度目の人生でイージーモードを望む。  作者: 天宮暁


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36 再会

「ちょっとだけ、二層を見てきてもいいでしょうか?」


 私の言葉に、アーネさんは呆れた顔をした。


「たいしたもんね。ここまできて疲れてないの?」


「すこし休めば大丈夫です」


「まぁ、それなら止めはしないわよ。っていうか、行けるなら見てきてほしいわね。

 ――そうだ、それならこれを貸してあげるわ」


 アーネさんが懐から巻いた紙を取り出し、私に渡す。


 広げてみる。


「これは――」


「二層の地図よ。コカトリスの報告をしたパーティがマッピングしたものね。もっとも、妖精の導きで半ば強引に進んでるから、穴だらけなんだけど。一応、三層に下りる階段までの順路が記されてるわ」


「いいんですか?」


「本当はかなりお高いものなんだけど、偵察してきてくれるならただで貸してあげる。その代わり無茶はしないこと」


「わかりました。ありがとうございます」


「うん。気をつけてね。あたしはここで待ってるわ」


「じゃあ、あまりお待たせしない範囲で見てきます」






「あははっ。緊張するなぁ」


 私は笑いながら階段を下りる。

 階段はけっこう長かった。地球の建物数階分はありそうだ。


「キャンプができたら他の冒険者もここまでは来るんだもんね。先に探索しとかなきゃ」


 コカトリスの(くちばし)さえ手に入れば一番乗りである必要はないんだけど、私の戦うところを他の冒険者に見られたくはない。


「さて、二層だね」


 階段を下りると、フロアの雰囲気が変わっていた。


 石壁や天井が濃い色になっている。

 その壁に、紫色の苔のようなものがびっしりと張り付いていた。


「エーテルを感じるね。岩にエーテルが染み込んで、それを苔が吸ってるのかな⋯⋯?」


 私はアーネさんにもらった地図を広げる。


「ええと、あっちか。

 って、この反応は⋯⋯?」


 進もうとした矢先、私のミニマップに緑色の光点が浮かび上がった。


「赤ならモンスターだけど⋯⋯」


 緑色っていうのは初めてだな。

 街にいる人間は、赤にも緑にも光らない。

 だからてっきり、敵だけを示すレーダーマップなのだと思ってた。


「あははっ。確認してみる、かな」


 どちらにせよ進行方向だ。


 数分もいかないうちに、ダンジョンの奥に覚えのある気配を感じた。

 もうすこし近づくと、紫色の大きな背中が見えてくる。


(あれはやっぱり⋯⋯)


 近づく前に、私はオプションで言語を変更しておく。


 もう2ブロックのところまで近づくと、毛むくじゃらの背中が振り返った。

 高い位置にある鷹の頭が私を見る。


「おお、誰かと思えばミナトではないか」


「ベアノフ」


 そこにいたのは、以前一層で死闘を繰り広げた鷹頭熊(たかとうぐま)――正式名称・アドベンチャラー・キラー・ホークヘッド・グリズリー(長い!)のベアノフだった。


「どうしたの? こんなところで」


「うむ。一層では最近冒険者と出くわすことが増えてな。俺はいいのだが、仲間のなかにはヒトの相手はまだできんものもいる。だから二層へと越してきたのだ」


 ああ、最近はレイティアさんやら例の特派騎士やらが活発に動いてるからな。

 その尻馬に乗る形でダンジョンに潜る冒険者もいる。

 特派騎士は冒険者たちに蛇蝎のように嫌われているが、実力はちゃんとあるらしく、一層のモンスターなら問題なく倒せるらしい。


「うん、そのほうがいいと思うな。今度一層の終わりにキャンプができるし」


「むう。俺たちのすみかが狭くなるな」


 ベアノフ、思案顔になる。


「そういえば、そもそもなぜ、ヒトはこのダンジョンに積極的に潜っているのだ?」


 ベアノフが、かなりいまさらなことを聞いてきた。


「王子様が石化熱になって、その特効薬になるコカトリスの(くちばし)を探してるんだよ」


「コカトリスの(くちばし)だと。つまり、コカトリスを狩るということか。なかなか無謀な話だな。まぁ、ミナトならばあるいはと思うが」


「コカトリスってそんなに強いの?」


「強いわけではない、ただやっかいなのだ。近づく前に見つかれば石化させられるのだからな」


「そもそもだけど、石化ってどうなるの? 一瞬で石になっちゃうの?」


「いや、そこまでではない。コカトリスの視線による石化は、身体の表面をどこからともなく現れた石のようなものが覆っていくというものだ。一方、石化熱は身体そのものが石と化す。コカトリスの石化は一瞬だが、石化熱のほうは半年以上かかることがある」


「へええ⋯⋯」


 よくゲームの状態異常で「石化」があるが、そんな簡単に石化したり解けたりするものだろうかと思ってたのだ。


「表面が石と化すだけだから、俺なら力づくでそれを打ち破り、近づくこともできなくはない。ただ、コカトリスが複数いればそれも無理だ」


「ベアノフでも無理なんだ。『視線』っていうのはどこまでを含むの? 視界に入っただけでアウトなのかな?」


「ううむ。試したことはないが、真っ正面から睨まれれば確実に石化をくらうな。視界の隅くらいならすぐには石化しないかもしれぬが、俺とちがってやつらの目は横についている」


「視界が広いってことか」


 肉食獣である鷲の頭のベアノフは、目が前を向いている。

 コカトリスがニワトリっぽい見た目だとすると、目は横についていて、視界はかなり広いはずだ。


「参考になったよ。ありがとう」


「なに。ミナトも王子とやらを助けたいのか?」


「ううん。私は別件。顔も知らない王子様なんてどうでもいいかな」


 王族として何不自由ない暮らしを送ってる人が、たまたま難病になったところで、わざわざ助けてあげる気は起きない。

 そういうのは、特派騎士みたいな人たちがやればいい。


(冷たいのかな?)


 ベアノフのこともそうだ。


 ベアノフはモンスターだから、冒険者と出会えば戦闘になる。

 ベアノフは生きていくためにヒトを殺して因子とやらを奪う必要があるという。


 つまり、ベアノフを生かしておけば、遠からず冒険者が誰か殺される。

 でも、一獲千金狙いの見知らぬ冒険者とベアノフをくらべて、どちらの命を優先するかは、私にはよくわからない。


(そもそも、私が判断することじゃないよね)


 サバンナの動物を取材するドキュメンタリーの撮影班が、ライオンに食われるシマウマを助けたりしないのと同じことだ。


(でも、ゴブリンの餌食になった女性冒険者はかわいそうと思ったんだよね)


 われながら基準があいまいな気がするけど、共感できるものには共感するし、できないものにはできない、それだけのことだ。


「じゃあ、私はこの先を見にいくから」


 私がベアノフに別れを告げると、


「この先か? なにもないぞ」


「えっ」


 ベアノフが気になることを言った。


「正確には、なにもなくなったというべきか。せっかくだ、案内しよう」


 というわけで、私はベアノフの案内で二層を進むことになった。

修正:×(わし) ○(たか) 他にもやらかしてるかも


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