33 困った人たち
「シズーさん、昼間は助かりました⋯⋯」
レイティアさん一行がダンジョンに向かった頃を見はからい、私はシズーさんのところに顔を出した。
もちろん、酒場でのお礼を言うためだ。
シズーさんは買取所ではなく盗賊士ギルドの出張所のほうにいた。
私のお礼に、シズーさんが苦笑しながら言った。
「どういたしまして。まったく困ったものよね。お嬢さまグセが抜けないっていうか⋯⋯」
「あれ、お知り合いだったんですか?」
「仕事で何度も顔を合わせてるけど、向こうはこっちのことなんて覚えちゃないわ。彼女、ロフトの街では有名人だから」
前もそんな話を聞いたような。
「そうなんですか?」
「ええ。だって、街の領主であるロフト伯の娘なんだもの」
「ええっ⁉︎」
「ただし、妾腹の娘らしいわね。
よその貴族に嫁がされそうになったんだけど、相手の顔が気に入らないなんて言い出して破談。
ロフト伯に縁を切るぞと脅されて、それなら冒険者になると言って家を飛び出した⋯⋯という噂だけど」
「は、はぁ⋯⋯」
らしいというかなんというか。
「でも、政略結婚っていうのはちょっと気の毒ですね」
「そうかしら? 相手は仁政を敷いてることで有名な青年侯爵で、イケメンってほどではないけど、まぁ、いいお相手だったはずよ。
それを、こんな退屈そうな相手とは結婚できない、顔も全然好みじゃない、と、王都で催された舞踏会の席上で言ったそうだから」
「う、うーん。断るにしても断りかたがありますよね」
「そもそもロフト伯のほうから持ちかけた縁談だったから、ロフト伯のメンツは丸つぶれ。そりゃ、怒りもするわよ」
「冒険者としてはベテランなんですよね?」
「一応、ね。パーティメンバーの出入りが激しいことで有名ではあるけれど。メンバーはみんな彼女の愛人だと言われてるわ」
「み、みんなですか」
さっきも男性戦士も、あれくらいのことで剣を抜きかけてたくらいだから、かなりレイティアさんに入れあげてるんだろうな。
「今回も、コカトリスの嘴を手に入れて、王子様に近づくんだって言ってたわね」
「は、はぁ⋯⋯」
なんというか、たくましい人だ。
「でも、めずらしいわね。彼女が女性に目をつけるなんて。ミナトはよほど気に入られたのかしら?」
「や、やめてくださいよ⋯⋯」
シズーさんの指摘に、私はおもわず身震いした。
そこで、職員らしき人が息を切らせて飛びこんできた。
「し、シズーさん! すみませんが、買取所のほう、お願いします!」
「ど、どうしたの? トラブルでもあった?」
シズーさんが言って、立ち上がる。
(ていうか、シズーさんってけっこう偉い?)
気さくだから、勝手に現場の人だと思ってた。
「そ、それが⋯⋯近衛騎士団の特派騎士を名乗る人が買取所にやってきて、押し問答をしてるんですよ! コカトリスの嘴を出せ、と」
「は、はぁ?」
「まだコカトリスを狩れるほど攻略は進んでないと言っても、王子の病状はいまも進んでるんだぞ、王国の民なら命を投げ出してでもコカトリスの嘴を取ってこい、と⋯⋯」
「⋯⋯むちゃくちゃね。わかったわ。すぐに行く。
というわけで、ミナト、悪いけど⋯⋯」
「あ、気にしないでください。お礼に寄っただけですので」
私は、慌ただしく出張所から出て行くシズーさんたちを見送った。




