30 私の嘘はすぐバレる
私が話すあいだ、マリアーネさんはじっと目をつぶり、ただ黙って聞いていた。
「⋯⋯という状態でした。死体を持ち帰るのは無理だったので、ありあわせのものでなんとか火をつけて、そのう⋯⋯」
「焼き払った。荼毘に付してくれたのね」
「は、はい。そのままにしておくのがしのびなくて」
「死者の霊魂を、まるで生きた人間のそれのように感じることができる。あなた、魔術士にも向いてそうね」
「はぁ、その、適正はあったのですが、街にギルドがなかったもので」
「魔術士は数が少ないからね~。じゃなきゃ、あたしがここまで出張ってくることもないんだけど。
――それより」
マリアーネさんが真剣な顔になって私を見た。
「ありあわせのもので燃やしたって言ったわよね?」
「え、ええ。まずかったですか?」
「いえ、それ自体はいい判断よ。死者を悼む方法として、魔術士が好む方法でもある。ダンジョンの中に死体を残すとアンデッドになることもあるから、現実的な対処法でもあるの。
だけど――」
ひたっと私の目を見るマリアーネさん。
「嘘をついてるわね」
「えっ⋯⋯あははっ、なんのことですか?」
「とぼけてもムダよ。あたしもダンジョンでやむなく死体を焼いたことがあるけど、あれはかなり大変な作業なのよ。人間の死体を灰にするには、相当な火力がいるわ。そこそこの魔術士が火炎の魔法を使っても手間取るくらいよ。ありあわせのもので着火してどうにかなるようなもんじゃないわ」
冷静なマリアーネさんの指摘に、私は顔を青くする。
「それから、あなたが背負ってるその長物。盗賊士が罠の探知に使う竿に見せかけてるけど、エーテルの流れを感じるわ。杖なんでしょう、それ」
マリアーネさんが、私の背中を指さして言った。
私の背中には、例の無念の杖がある。
私の背丈くらいある長い杖だ。
マリアーネさんの言った通り、布を巻いて、盗賊士の使う竿に見せかけてきたのだが、あっさり看破されてしまった。
「そ、その⋯⋯」
私は手のひらにじっとりと汗をかきながら言葉を探す。
が、マリアーネさんはぱたぱたと手を振った。
「⋯⋯なんてね。冒険者なんだもの、秘密のひとつやふたつはあるでしょ。ただ、死んじゃった子のことに関しては、隠しごとはなるべくなしにしときたいのよ。もちろん、ここで聞いたことは口外しないわ」
今度は、私がマリアーネさんを見る。
(嘘はついてない、かな。よほどのことがない限り、秘密は守る人だと思う)
私は小さくため息をついて言った。
「⋯⋯わかりました。ここだけの話ということなら」
「ギルド所属の冒険者を悼むために労をとってくれたのだもの。約束は必ず守るわ」
真剣な顔でうなずくマリアーネさんに、私は事情を説明する。
「⋯⋯なるほどね。これは、うかつに話せないわけだわ」
マリアーネさん――もとい、アーネさんがそううなる。
カウンターでは人が来るかもしれないので、話の続きは天幕の奥にあるスペースでさせてもらった。
なお、この魔術士ギルド出張所にはアーネさんしかいないらしい。
(ワンオペとか、大丈夫なんだろうか)
私がそんな心配をしていると、アーネさんが言った。
「魔術士ギルドに忠誠を誓ってないのに魔法が覚醒した。それも、死体を短時間で灰にするほどの強力な火炎。ふつうだったら法螺を吹くなと言われるわね。黙ってたのは正解だわ」
「やっぱり、そうなんですか」
「相当に適正が高いんでしょうね。適正倍率を教えてくれる気は?」
「⋯⋯ごめんなさい。どこから漏れるかわからないので秘密にしてます」
「ううむ。そこまで言うからには相当なんでしょうね。
でも、まぁ、それはいいわ」
「いいんですか?」
「ズバ抜けた適正の持ち主はたまにいるわ。そういう人ほど、適正を隠す傾向があるわね。いらぬ嫉妬を買いたくないもの。とくに魔術士なんて、陰湿きわまりないんだから⋯⋯」
「そ、そうなんですか」
「魔術の威力は適正でほぼ決まっちゃうんだもの。
人は、自分が手に入れられないものを持ってる人を妬むのよ。
だから、あなたが適正を隠してるのはいい判断だと思うわ。だいたい、中途半端な適正の持ち主ほど、適正をひけらかしたりするものね。
そんなわけで、あなたが魔術士としてのとんでもない適正を持ち腐れにしてる件は、まぁいいのよ」
「は、はぁ」
「それより、あの子の杖が燃え残ってドロップアイテムになったことのほうが驚きね。それをドロップアイテムと呼んでいいものかどうかわからないけれど」
もちろん、難易度変更で確認した情報のことは言ってない。
アーネさんのことだから、何か隠してると疑ってるかもしれないけど、直接聞いてはこなかった。
「あまりないことだったんですか?」
「英雄の所持品が強力なアイテムになって遺された、なんて伝説はないこともないんだけど、あたしの知る限りでは思いつかないわね」
「この杖も、魔術士ギルドに預けたほうがいいんでしょうか?」
「いえ、その必要はないわ。ドロップアイテムは手に入れた人のもの。それを取り上げる権利は誰にもない。あの子が、あなたへのお礼のために遺したのかも知れないしね」
アーネさんが肩をすくめる。
「もう一度、見せてくれる?」
私は無念の杖をアーネさんに手渡す。
「⋯⋯うーん。お礼の品っていうには、雰囲気がなんか禍々しい気がするんだけど」
「ですよね」
「とりあえず、呪いのたぐいはかかってないわ。エーテルの走りがとんでもなくよくて、魔術士の杖としては一級品ね。大枚叩いてでもあたしに売ってもらいたいくらいよ」
「ええと、それは⋯⋯」
「あぁ、冗談よ。あの子も、あなたに持っててもらいたかったんでしょうし」
わりと本気で言ってるように見えたけど、アーネさんは首を振った。
「それも十二分に驚いたけど、そのあとのことも重大よ」
「そのあと、ですか?」
「ええ。ジェネレーターを破壊してモンスターハウスを消滅させたんでしょう? これまで他の冒険者が突破できないでいたモンスターハウスを、よ」
「あの⋯⋯このことはどうか内密に」
私はそうお願いする。
⋯⋯なんか、万引きがバレた主婦みたいになっちゃったけど。
「それはもちろん。約束は守るわ。
もっとも、そ知らぬ顔で調査隊を出して、『モンスターハウスがなくなってる! いったい誰がやったんだぁっ⁉︎』って小芝居くらいは打たせてもらうけどね。
じゃないと、バカな冒険者が、『俺がモンスターハウスを片付けてやったぞ!』なんて言いだしかねないから。
でも、あなた、本当に盗賊士向きの性格をしてるわよね。魔術士向きでもあるけれど。明術より暗術系なのかしら」
「暗術⋯⋯ですか?」
「そ。単純な攻撃よりも搦め手を得意とするタイプの魔術士ね。
もっとも、あなたは強力な火炎魔法があるんだから、明術も強そうなんだけど。
うわっ、そう考えるととんでもない才能だわ」
アーネさんは、そこで言葉を切り、私をじっと見つめて言った。
「――ねえ、ミナト。この際、魔術士ギルドにも忠誠を誓っちゃわない?」




