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27 儲ける冒険者のその影に

「いやぁ、儲かったわねぇ」


 買取所の奥にあるスタッフ用のスペースで、ほくほく顔のシズーさんが言った。


「ちょっと白熱しすぎて心配なんですけど」


 あとで高く買いすぎたってクレームがついたりしないだろうか。


「大丈夫大丈夫。冒険者はどんなことでも自己責任。賭博でも負け慣れてる連中だしね。逆恨みしたりはしないわよ。人を見極めて煽ってるから心配しないで」


「そ、そうなんですか」


 カモにされた人たち、かわいそうです。


「じゃあ、シズーさんの取り分は約束通り3割ということで」


「そんなにもらっちゃってほんとにいいの?」


「ええ。口止め料込みで、ですけど」


「うん、まぁ、ギルド職員としての信義もあるから、口外はしないけどさ」


「職員としての信義っていうのは、私はそんなに信じてないです。それなりの事情があれば破られるものだと思うので。

 でも、おいしい思いをしてもらえば、他人に話そうとは思わなくなるじゃないですか。

 あ、もちろん、もし話が漏れたらこの取引はおしまいです。変に目立つくらいなら、私はどっかよそに行きます」


 コカトリスの(くちばし)が手に入るまではここにいるつもりだが、そのことはシズーさんには伏せておく。


「若いのにしっかりしてるというか、悲観的というか。ミナトは大変な目にあってきたんでしょうね⋯⋯」


 なぜか、同情されてしまった。


(まぁ、シズーさんなら大丈夫だと思うけど。口の軽いタイプじゃないし、ちゃんと利害計算できる人みたいだから)


「これからも買取、お願いしますね。いろいろ持ってくると思うんで」


「もちろんよ。でも、詳しくは聞かないけど、くれぐれも無理はしないでよ?」


「はい。命あっての物種ですから」


 私はシズーさんと別れ、ダンジョンに向かう。





「さて、昨日のところまで戻ってきたけど⋯⋯」


 かなりの数のモンスターを狩ったはずだが、モンスターハウスは元どおりになっていた。

 吐き気を催すほどの満員電車状態である。


「ジェネレーターを壊せば増えなくなるんだっけ。でも、もうすこし煙玉を稼いでからでいいかな。いや――」


 あえてジェネレーターを残したままで先に進むという手もある。

 そのほうが、他の冒険者に追いつかれにくくなるだろう。


「でも、最終的にはコカトリスのレアドロを狙うんだから、最低でもハードモード以上でコカトリスをたくさん狩れるくらいには強くならないとなんだよね」


 コカトリスの強さは噂でしか聞いてない。

 人を石化させる視線は、視界に入らないか、盾やマントなどで視線を遮ることで対処するらしい。コカトリスは石化に耐性があるそうなので、鏡で視線を跳ね返して石化させるという攻略法は取れないようだ。


「煙玉でなんとかなるかも?」


 気配を消してしまえば、視線を向けられることもないはずだ。

 そのためにも、今のうちにゴブリンをたくさん狩って、レアドロである煙玉を確保したい。


 私はイージーモードから始めて身体をウォームアップし、ノーマル、ハード、ベリーハードと難易度を上げていく。

 煙玉が目当てなら、これ以上の難易度は必要ない。


「うん、けっこう強くなったかも」


 モンスターを倒すごとにエーテルが吸収できるし、グラマスの加護で盗賊士に必要な勘やスキルが蘇る。

 ギルドに忠誠を誓っていない魔術士も、盗賊士ほどではないが発見がある。


「適正が高かったからかな」


 ベアノフ言うところの「エーテルボム」は、かなり自在に扱えるようになった。

 でも、エーテルボムは体内をめぐるエーテルを放出してしまう。放出後、エーテルを溜め直す必要があるので連発がきかない。

 エーテルは経験値のようなものでもあるから、エーテルボムを連発してると成長が遅くなってしまう。


「一発撃つだけでもすごく疲れるし」


 他の敵が残ってる状態でエーテルボムを使ったら、使用後の隙を突かれて危険だろう。


 普段使いするものではなく、緊急時にとっておくもののようだ。


「シューティングゲームのボムみたいだね」


 でも、本職の魔術士は、これでどうやって戦ってるんだろうか。

 これじゃ戦いにくくてしかたないと思うんだけど。


(私のまだ知らない魔法の使いかたがあるんだろうな)


 魔術師ギルドに忠誠を誓ってないせいか、いまのところグラマス加護で何かを閃くってこともない。


「ないものねだりをしてもしょうがないよね」


 私は、自分の人生訓をつぶやきつつ、ベリーハードのゴブリンを斬りはらう。


 バシュッ、と血が吹いた。


「えっ⁉」


 ダンジョンのゴブリンは倒すと消える。

 ゴア規制の厳しい日本製ゲームではよくある仕様だが、この世界ではダンジョン内に限ってそうなってる。

 ダンジョン外では、レイティアさんを助けたときのように、ゴブリンはグロさ満点の死にかたをする。

 グロが苦手な私にとっては、ダンジョンのこの仕様はありがたい。


 だが、ここに来て、そのゴブリンをはじめ、周囲にいるゴブリンたちも、私が斬りつけるたびに血を吹いて倒れていく。


「あははっ⋯⋯どういうことかな?」


 そういえば――ベアノフが言っていた。


「ダンジョン外のモンスターは、ヒトや獣と混血してる。じゃあ、このゴブリンたちは⋯⋯」


 動揺しつつも、私はなんとかゴブリンたちを倒した。

 周囲にオークやトロルもいたが、そっちは倒すと普通に消えた。


 わたしはミニマップを確かめつつ、モンスターハウスの奥に進む。


 そこには――


「うっ⋯⋯」


 無残な、女性冒険者の死体があった。

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