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26 オークション

 翌、払暁。

 3ギルド合同買取所前の広場には、冒険者の人だかりができていた。


「さァさァ、よってらっしゃい見てらっしゃい! ここにあるのは、大貴族御用達の珍味にして超強力な精力剤、『オークの睾丸』だァ! 本日は特別に、競りでいちばん高い値段をつけた人に、このレアドロップアイテムを進呈するわよ!」


 昨日の真面目そうな雰囲気とは打って変わって、シズーさんが威勢よく声を上げている。

 私は気配をなるべく消して、ちょっと離れたところから競りの様子を見守ってる。昭和の野球アニメの主人公の姉になった気分だ。


「おいおい、そんなうまい話があるもんかよ!」

「そうだそうだ! オークの睾丸なんて手に入れたら、そいつが自分で売りさばくに決まってる!」


 さっそく、冒険者たちからツッコミが入る。


「今回提供された品は、売り手がダンジョン探索に集中したいということで、特別にギルドに持ちこんだ一品なの! ものがものなので、ギルドでも買取が難しい! そこで、ギルドの鑑定証書を付けて競りにかけてはどうかって話になったのよ!」


「ははぁ、なるほどな」


「そういうこともある⋯⋯か?」


「売る側は、しちめんどくさい貴族との交渉をしないで済む。

 買う側は、命がけでレアドロを狙う手間が省ける⋯⋯ってわけか。

 なるほど、考えたな」


「でも、値段次第だろ。貴族との交渉がうまくいくとは限らんし」


「それは、この値段なら確実に売りさばけるって額を言えばいいだけだ。高いと思ったら降りればいい」


「なんだ、(ふだ)遊びと同じか」


「おもしれぇじゃねぇか。俺はやるぜ!」


「俺も俺も!」


(けっこう理解が早いね)


 シズーさんは、冒険者は損得に敏感だからすぐにわかるはずと言ってたけど、その通りになっていた。


「まずは、ギルドの証書を見せておくわ! 最前列の人たち、代表でよぉ~っく確かめて!」


 シズーさんのフリに、最前列の冒険者たちが証書を真剣な目で確かめる。


「次にお品! オークの睾丸よ! 誰か、見たことあるって人は? ああ、そこの魔術士さん。どう、本物でしょ?」


「うむ。見ただけではおかしなところはない。もっとも、ギルドの証書が付いてるならそっちのほうが確実だ。俺は責任は取れないぞ」


「いいわよ、あくまで参考意見ってことで! 実物見ないと不安って人もいるでしょうからね」


「早く競りを始めてくれ!」


 待ちかねたように、後列から声が上がった。


「わかったわかった。

 でも、その前にルールの説明をするからね! といってもカンタン! 手を挙げて、出してもいいと思う金額を言うだけ! 最終的にいちばん高い金額を提示した人が落札ね! これは恨みっこなしの一発勝負だから!

 入札金額は何度言ってもいいけど、落札になったら絶対にその金額で買ってもらうわ! 取り消しはいっさい受け付けないから! もちろん、持ち合わせがないから後で払うってのもなし! ルール違反したら次回以降の競りには参加できなくなるからね!」


「じ、次回もあるのか⁉」


「それはまだ秘密ってことで!

 じゃあ始めるわよ! オークの睾丸1個、最低価格は金貨10枚から!」


「15枚!」


「俺は20枚だ!」


「24!」


「オークの睾丸だろ⁉ 俺は40出してやる!」


「なんだと、それなら45!」


「甘いな、60!」


「マジかよ、ええい、63!」


「64!」


「くっそが、70でどうだ!」


「ええい、埒が開かん! 思いきって100出そう!」


「ハァ︎ ふざけんな! ええと⋯⋯101!」


「プッ、せこっ! 120だ!」


「なんだと! 聞こえてるぞ! 125!」


「⋯⋯そっと126と言ってみる」


12(ひゃくにじゅう)⋯⋯は、8!」


「130よ!」


「ちくしょう、いい加減降りやがれ! 133だ!」


(なんか加熱してるね)


 支払いは大丈夫なんだろうか。


 そこで、シズーさんが言った。


「そろそろ声が上がらなくなってきたかしら⁉ このままじゃ決まってしまうわよ⁉」


「ええい、ままよ! 140! これでどうだ!」


「他にはいないかしら⁉」


「⋯⋯いやぁ、さすがに140はねえよ」


「だな、150で売れたとしても手間に見合わん」


「金払いのいい貴族を捕まえるのにだって金はいるしよ」


 冒険者たちのひそひそ話に、勢いで最後の入札をした冒険者の顔が引きつってる。


「はい、それじゃあここまで! 本日の一品目『オークの睾丸』金貨140枚でそちらの戦士さんが落札しました! みなさん、拍手!」


 その場のノリで、冒険者たちが拍手する。


「⋯⋯おい、いま、今日の一品目って言わなかったか?」


 耳ざとい冒険者がつぶやいた。


「その通り! 今日の競りには二品目があるわ!

 それはーーこれ!」


「あれは⋯⋯まさか、トロルの軟膏か⁉」


「なんだって⁉」


「ポーションではふさがらない傷もたちどころに治すっていうあれか!」


「誰だよギルドに持ちこんだやつ! ちくしょう、どんなドロップ運してやがる!」


「さあさあ、心とお金の準備はいいですかァ⁉ 今度は最低価格金貨3枚からのスタートだぁ!」


「うおおおお、5!」


「7!」


「10!」


「20!」


「うええ、マジか! 23!」


「受けて立つぞ! 24!」


 競売は想像以上に盛り上がり、私の出品したオークの睾丸×3とトロルの軟膏×2がすべて売れたのは、日がだいぶ上がってきた頃のことだった。

今日はここまでです

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