22 難易度変更とドロップ率の深~い関係
「――ああああ!」
どうしてドロップアイテムが出ないのか。
そのからくりに気がついて、私は声を上げていた。
「⋯⋯難易度変更に決まってるじゃん」
現在の難易度はビギナー。いちばん低い難易度だ。
「もしかして⋯⋯難易度によってドロップ率が変わる?」
ゲームによっては、難易度を上げると、ただ難しくなるだけじゃなく、ドロップアイテムや経験値が増える場合がある。
(私は、あんまり好きじゃないんだけどね)
それをやられると、結局高難易度でプレイするしかなくなってしまう。
ヌルゲーを愛する私にとっては、ちょっと微妙なシステムだ。
でも、開発者としては、せっかく作った高難易度モードなのだから、多くの人に遊んでほしいと思うのは当然だ。そのためのエサとして、高難度限定のボーナス要素が用意される。
もちろん、ゲームは理不尽なくらい難しいほうがいいというプレイヤーも多いんだけど。
「そうだとすると厄介だな⋯⋯。ドロップアイテムがほしかったら難易度を上げないといけないのかぁ」
ゲームならともかく、命のかかった現実の戦いで好きこのんで難易度を上げたい人なんているんだろうか。
まぁ、だからこそドロップを優遇してるのかもしれないが。
「あははっ⋯⋯この辺の敵で試してみるしかないね。ひとつずつ難易度を上げて、敵がどれくらい強くなるか調べないと」
いまちょうど、ビギナーモードで百体弱倒した。
百体はちょっと多いけど、数十体ずつ倒して、どのていどドロップ率がちがうかを調べなければならない。
今回の最終目的はコカトリスのレアドロップなのだからなおさらだ。
「あははっ⋯⋯うう、怖いなぁ。ヌルゲーができると思ったのになぁ」
なぜ私の期待はいつも思ってもみないことで裏切られるのか。
私はおのれの運命を呪いつつ、モンスターハウスを利用した難易度検証作業に入るのだった。
「あぁ、疲れた⋯⋯」
私は地面に刺した剣の柄にもたれかかりながら息をついた。
「ええっと⋯⋯忘れないうちに整理しとかなきゃだね」
私はここに来る前に街で買っておいた羊皮紙を取り出した。
紙は貴重品で驚くほど高かったが、すべてを記憶でまかなうような超絶記憶力なんてないし。
(他の冒険者はどうしてるんだろ)
マッピング用の紙くらいはさすがに用意してると思うが、それ以外でメモなんてしないのかもしれない。
私は、これも高かったペンを携帯用のインク壺につけつつ、紙にわかったことをメモしていく。
『
ビギナー:敵がだいぶ遅い。こっちの攻撃の威力が5倍くらいになってそう。ダメージは受けてないからわからない。
ベリーイージー:敵はまだまだ遅い。攻撃の威力は2倍くらい。ダメージは受けてないので未検証。
イージー:敵はちょっと遅い(0.75倍くらい?)。攻撃の威力は1.5倍くらい。ダメージは受けてない。
ノーマル:敵は違和感のない速さ。これまでの経験でこっちの能力が上がってなかったら危なかったかも。攻撃は私の体力相応だと思う。グラマス加護がなかったら大変だったろう。ダメージは受けずに済んだ。この世界のゴブリンは、一対一なら人間よりちょっと弱いんじゃないか。
ハード:敵がちょっと速い。こっちの攻撃力は変わらないけど、敵がすこし硬くなった(まだワンパンだけど手応えとして)。ダメージは未検証。
ベリーハード:敵がだいぶ速くなる。グラマス加護がなかったら死んでた。こっちの攻撃力は変わらないが、敵はさらにタフになった。でもまだ確一(確定で一撃)だ。ダメージ? 怖くて受けれないよ!
インフェルノ:敵の速度、たぶん二倍になってる。逃げようとしても追いつかれそう。攻撃力は下がらないがついに確一じゃなくなった。敵に囲まれないよう立ち回りを気にする必要あり。ゲームだと思えば、まぁ歯ごたえがあるのかなという難易度。命がかかってることはちゃんと忘れておかないと戦闘中にガクブルになる。
ヘルとノーフューチャー:ごめんなさい勘弁してください。怖くて試してません。
』
という感じだった。
それにしても私は誰に謝ってるのか。
「ええっと、肝心のドロップだね」
私は、途中にあった部屋の隅に、回収したドロップアイテムを、難易度別に整理して並べていた。
さいわい、近くに他の冒険者はいなかったし。
私は手近にあったガラスっぽい材質の、液体の入った瓶を取る。
ポーション:飲むと怪我が治る。液化したエーテルを取りこむため、エーテル経験値と同様の効果もある。
どういうわけか、瓶の上に解説が出た。
「イージーモード以下の時だけ、なんだよね」
ノーマル以上だとドロップアイテムの情報なんて出ない。呪われてたりとか、持ってるだけで敵を呼び寄せたりとか、そういうアイテムもあるんだろうな。
「モンスターを倒すとエーテルを吸収できる。そのことをエーテル経験値っていってるのかな。わかりやすいけど、ゲームっぽいな」
余ったポーションは飲めば経験値になるっていうのはいい情報だけど。
「ポーションのドロップ数は⋯⋯」
ビギナー 0個/98体
ベリーイージー 5個/34体
イージー 5個/25体
ノーマル 11個/40体
ハード 14個/30体
ベリーハード 18個/24体
インフェルノ 9個/10体
「確率に直すと⋯⋯ううん、計算に紙使うのもったいないな」
私は地面で割り算をする。
「できた」
ビギナー 0%
ベリーイージー 14.7%
イージー 20%
ノーマル 27.5%
ハード 46.6%
ベリーハード 75%
インフェルノ 90%
「多少の誤差はあるだろうけど、傾向ははっきりしてるね」
ビギナーは絶対安全な代わりにドロップは出ない。
あとは高難易度ほどドロップ率は高くなる。
「ヘルなら100%なのかも。ノーフューチャーなら複数ドロップ?」
いや、やってみたいとは思わないけどさ。
「あとは⋯⋯あれだね」
私はポーションの列とはべつに保管しておいた、他のドロップアイテムに近づいた。




