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不幸少女は二度目の人生でイージーモードを望む。  作者: 天宮暁


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21 モンスターハウス

 さて、いよいよ問題のモンスターハウスである。


「あははっ。ほんとにたくさんいるな⋯⋯」


 私は迷路地帯の出口から奥をのぞく。


 ゴブリン、オーク、トロル。

 聞いていたとおり、通路にまで人型モンスターたちがひしめいていた。


「満員電車みたいだね」


 とにかく、人口密度が高いのだ。

 ミニマップで見ても、赤い光点だらけで、数を数えることすら難しい。


「こんなにいたら生活に困ると思うんだけど」


 満員電車は目的地に着くまでだから耐えられるけど、四六時中この密度では、息をつく余裕すらないだろう。


「⋯⋯まだ気づかれてないね」


 モンスターハウスまでもう3ブロックーー10メートルもない距離にいるが、モンスターがこちらに気づく様子はない。

 ベアノフですら至近距離まで気づかなかったのだから、当然かもしれないが。


「グランドマスターの加護なのかな。忍び足のやりかたがおぼろげにつかめてきた」


 不思議な感覚だ。

 いわゆる既視感(デジャビュ)によく似てる。

 過去の経験が蘇ってくるような感覚で、知ってるはずのない勘や技術が浮かんでくるのだ。


「剣の扱いもだんだんうまくなってきたし。たとえるなら⋯⋯前世で経験してたのを思い出す感じ?」


 キーーーン!

 うっ、前世の記憶が蘇る!


 ⋯⋯中二病かな。

 いや、キーンとかはなくて、もっと自然に湧いてくる感じなんだけど。


 盗賊士ギルドのマスターさんの話では、過去の冒険者たちの集合的な経験の蓄積にアクセスできるってことだった。

 といっても、「あ、これは誰かの記憶だ」という感じじゃなくて、自分のものとして蘇る。


 ファンファーレが鳴ったりするわけじゃないので、どうにも地味で盛り上がりに欠ける。

 いつのまにか強くなってる感じ。


「でも⋯⋯あははっ。どうしようかな」


 ゴブリンなら、多少数が多くてもやれるはず。

 オークやトロルの動きも、ベアノフとは比べるまでもない。

 動きが止まって見えるぜ、みたいな感じだった。


 でも、だからといって、喜び勇んで戦い始めるなんてできなくて。

 血なまぐさいことなんてできれば避けたいというのが本音である。


「だけど、やるしかないんだ」


 石化熱にかかっていた女の子のことを思い出す。

 あの、なにもかもに絶望したような目。

 小さい子があんな目をしてるのは見てられない。

 親は取り替えられないとしても、せめて病気だけでもなんとかしてあげたい。


 ――たとえ、それが偽善だと言われようとも。


(自分に重ねちゃってるんだろうな)


 あの子を救うことで、幼い頃の自分も救われる。

 そんな錯覚をおぼえてるみたいだ。


 もちろん、そんなことはありえないとわかってる。


 でも、どうしても見捨てる気になれないのだ。

 これまでの人生で不幸と戦い、耐え、なんとか生き抜くことで通してきた筋のようなものが、あの子を見捨てるなと言っている。


 もっとも、私にそれだけの力がなければ、すぐにあきらめていただろう。


 でも、今の私には力がある。


(難易度変更があればできないことじゃない⋯⋯はず)


 そのためには、こんなところで立ち止まってる暇なんてない。


 私は剣の柄を握りなおし、モンスターハウスにむかって歩き出す。





「⋯⋯96、97、9じゅう――8っと!」


 何を数えてるのかって?


 これまでに倒したモンスターの数だ。


 私はただっぴろくなった部屋の真ん中に立って、ミニマップを確認する。


「うん、このあたりはいなくなったね」


 私はその場に座りこむ。


「ふぅ⋯⋯つ、疲れたぁ~」


 いくら難易度変更の影響で体力にも補正が効いてるらしいとはいえ、この数を倒すのは大変だった。

 強いか弱いかなんて話じゃない。たとえ相手がカボチャだったとしても、百個潰すとなったら大変だろう。

 私がいまやってた「作業」はそういうことだ。


「でも、倒したら消えるんだね。血なまぐさくないのは助かるかな」


 以前、レイティアさんを助ける時に倒したゴブリンにはちゃんと肉体があった。

 斬れば血を流し、叩けば肉が潰れる。骨もあれば内臓もある。


 しかし、ここにいたゴブリンやオークやトロルは、HPバーがゼロになると消滅した。


 その代わりに、エネルギーのようなものが私の身体に流れこんでくる。

 モンスターを倒すと、そのエーテルを吸収して強くなるって話だった。

 エーテルボムのときに操った体内エネルギーとおなじもののようだったので、これがエーテルでまちがいない。


「外のモンスターはヒトや動物と交配した『雑種』だって言ってたね」


 外の「モンスター」には、HPバーも表示されていなかった。


「ややこしい事情があるんだろうな」


 いまは考えてもしかたないか。


 それより、気になってることがある。


「ドロップアイテムっていうのが出てないみたいなんだけど⋯⋯」


 事前に盗賊士ギルドで聞いた話では、ダンジョンのモンスターは倒すとドロップアイテムを落とすってことだった。

 その確率はモンスターによって違うらしいが、ゴブリンみたいなメジャーなモンスターのドロップ率なら、冒険者たちは経験で知っている。


「ゴブリンは5、6体に1つくらいの割合でポーションを落とす。オークやトロルのドロップも同じ。

 ポーションはエーテルの溶け込んだ液体で、飲むと身体の傷が治る。もちろん、あまりひどい傷には効かないけど」


 私はもう、ゴブリン、オーク、トロルを百体近く狩っている。


 それなのに、出ないのだ。


 ポーションが。一個も。


「まさか、私の不幸体質のせいじゃないよね」


 いくら不幸体質だからって、確率で出るはずのものが全然出ないなんてあるのかな⋯⋯。


 もっと、システム的な理由があるはずだ。

 バグで一時的にドロップアイテムが出なくなってるとか。


(バグとかフリーズとかなら、不幸体質のせいかも? 苦労してレベルが上がったと思ったらセーブデータが壊れた、みたいな。

 ⋯⋯いや、さすがにないよね⋯⋯ゲームじゃないんだし)


 そこまで考えてふと気づく。


 システム的な理(・・・・・・・)()



「――ああああ!」



 原因に思い当たり、私は大きな声を上げていた。

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