表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/188

19 ベアノフ・ジ・アドベンチャラー・キラー

「ベアアアアッ!」


 気合いの一声とともに、ベアノフが前腕を振り下ろす。


「あはははっ!」


 私は笑いながら攻撃をかわす。


 ⋯⋯といっても、余裕があるわけじゃない。

 むしろ逆だ。

 余裕がないからこそ笑いが出る。


「俺を⋯⋯笑うか!」


 ベアノフ、怒りの横薙ぎ。

 私は一歩跳びのいてそれを避けた。

 その分間合いが開き、私は反撃に移れない。


「避けてばかりでは戦いにならんぞ!」


 ベアノフが言って、私をさらに追撃する。


(ヤバい。ちょっと不利かも)


 ベアノフの前腕は長い。

 腕をぶんぶん振り回されると、私は剣の間合いに持ちこむことができないのだ。


(なら⋯⋯)


 私はベアノフの腕をかわしながら、その軌道上に剣を置く。


 剣がベアノフの腕を斬り裂いた。


 かすっただけなのに、剣を持っていかれそうなほどの衝撃だ。


「ぐぅっ⁉︎」


 ベアノフが、斬られた腕を押さえ、距離を取る。


(ダメージは⋯⋯)


 私はベアノフの頭上にあるバーを見る。


「10くらいかな」


 浅い傷だが、ベアノフの突進を止められたなら十分だ。


「やるな⋯⋯暴風のベアノフと呼ばれたこの俺にカウンターを食らわせるとは」


 はい、二つ名いただきました。


「あははっ、じゃあ今度はこっちから行くよ」


 べつに、好んでそうしたいわけじゃない。

 たんに、そうしないと危ないのだ。

 いくら難易度変更で補正がはたらいてるとはいえ、所詮はかなしき運動音痴。いつまでもベアノフの攻撃を避け続けられるとは思えない。

 予定通り、先手必勝を目指すしかない。


 私は姿勢を低くして前にステップ、すくいあげるような斬撃を放つ。


「ぬぉっ⁉︎」


 私の剣は、ベアノフの胸を浅く薙ぐ。


 私はさらに、下方向からの攻撃を続ける。


 なんとなくだが、上からより下からのほうが効果的なように思えたのだ。


(なんか、こう攻撃すればいいっていうのがわかるような⋯⋯)


 理屈で考えてみると、下からの攻撃は合理的だ。


 ベアノフは私より1メートル近く背が高い。

 上からの攻撃は、ベアノフからは見えやすい。


 が、ベアノフは、身体が大きい分、足元の注意がおろそかだ。

 ベアノフの武器はあくまでも前腕なので、足を戦いに使うという発想がない。また、熊としての身体の作りからしても、足さばきは難しそうだ。


(間合いに出たり入ったりしつつ、下方向から攻撃する。

 それだけじゃ目が慣れるから、たまには上からの攻撃も。

 向こうの攻撃にはタイミングを合わせて剣を置く)


 まるで熟練の剣士のように、戦いのグランドデザインができあがる。


(私って、ひょっとしてすごい?)


 一瞬そう思ったが、


(あ、ちがうね。きっと、難易度変更の補正か、グランドマスターの加護か、あるいはその両方か⋯⋯だね)


 今の私は盗賊士のはずなんだけど。

 いや、この世界では盗賊士も剣を使うのか。ジョブで装備制限があるのはゲームの世界だけだ。

 私でも扱えるように短めの剣なので、盗賊士がよく使ってる短剣扱いになってるのかもしれない。


「ぬおおっ! 小癪な! 力も体格も劣るヒトに、この俺が押されてるだと!」


 ベアノフは、前腕のあちこちから血を流しながらそううめく。


 私は言った。


「あははっ! あきらめて! 命まで取る気はないから!」


「ぬううっ! 戦いの最中に笑うとは⋯⋯おそろしいまでの余裕! きさま、名のある剣士だな!」


 ベアノフは、赤い鷹目に闘志をみなぎらせ、私にラッシュをかけてくる。

 私の説得は逆効果だったようだ。


(うん⋯⋯そりゃ、笑いながら言われたら、私だって煽られてると思うけど)


 オン対戦でやられたら、きっとコントローラーをブン投げてる。


「かくなるうえは! ベアアアアアッ!」


 追い詰められたベアノフが、気合いの声をあげた。


 傷だらけの前腕を盾のようにかまえ、私にむかって突っ込んでくる。


 これまでと違うのは、腕をまったく振り回さないことだ。


「あはははっ! タックル⁉︎」


 ベアノフが狙っているのはショルダーチャージのようだった。

 これだけの体重差だ。ベアノフのパワーとあいまって、直撃したら車にひかれたくらいのダメージを受けかねない。


「あははっ! このっ!」


 私は跳びのきながら剣を振るう。

 ベアノフの腕が、さらにずたぼろになっていくが、ベアノフの突進は止まらない。


(ギリギリ、逃げられる速度だけど!)


 跳びのく私に、ベアノフは完全についてきてる。


 しかも、


「あはははっ! 追いつかれる!」


 ベアノフの突進のほうがすこしだけ速い。


 私の剣がベアノフのHPを削りきるのが早いか、ベアノフが私に追いつくのが早いか。


(HPバーは⋯⋯黄色があとすこし!)


 バーの色は紫→水色→黄色と変わり、残すは黄色三分の一とその背後にある赤一本。


「あはははっ! 削りきる!」


 私は跳び下がりながら剣を振るい――


「やった!」


 ベアノフの体力は残りすこし!


 私はとどめの一撃を放つために跳びのこうとし――


 ドン!



「ぐはっ⋯⋯!」


 背中に衝撃。


 目だけで振り返る。


 私の背後にあったのは――ダンジョンの壁。


「あははははっ!」


 しまった!


 ベアノフの迫力とHPバーに気を取られて、背後の確認をしてなかった!


「俺の勝ちだ! ベアアアアアッ!」


「くっ!」


 私の眼前にベアノフが迫り――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ