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不幸少女は二度目の人生でイージーモードを望む。  作者: 天宮暁


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エピローグ 魔王ミナト陛下お誕生日会

本日2話更新(12時・18時)、この話は2話目です。1話目(12時更新分)の読み飛ばしにご注意ください。

 その日、魔王城では一大セレモニーが開かれていた。


 そのセレモニーの名は――魔王ミナト陛下お誕生日会。


(うう……逃げたい)


 最初は、身内だけのこじんまりとしたパーティにするつもりだったのだ。

 戦勝祝賀会と慰労会を兼ねて、仲間うちで盛り上がろうと。


 でも、樹国の女王との雑談の折に、ついぽろっと話してしまった。


「今度誕生日会をやるんですよ。まぁ、身内だけのものですけど」


「あら、そうなの? それならぜひわたしも呼んでちょうだい」


「え? いや、身内だけなんで」


「あら。わたしは身内じゃないのかしら。

 それならシェリーを出すわ。シェリーとは仲良しでしょ?」


「ええ、まぁ」


「わたしはシェリーのパートナーだから、パーティに一緒に参加するのは当然よね?」


 謀られた! そう思ったときには遅かった。


 それでも女王だけなら、会場でシェリーさんといちゃついてるだけで済むだろう。

 そう思ったのだが、


「いや、そりゃまずいぜ。樹国だけ特別扱いしてるように思われたら、他国の心象が悪くなる」


 ボロネールがそんなことを言い出した。


『それならば、ザムザリアの姫や、セレスタのハリエット女史、ドラゴンの長老、エルヴァンスロウの巫女や神官長なども呼ぶべきだな』


 なお、神によって石化させられ、墜落したエルヴァンスロウだが、なんとか脱出できたエルフもいた。アーネさんの母であるフローネさんも、イヤミな神官長が助けて無事だという。

 もっとも、宇宙に投げ出され、行方知れずになったエルフも多いのだが……。

 エルヴァンスロウは落ちてしまったので、生き残りのエルフは魔王城に収容してる。


「そういうことなら、パーティの手配はわたしがするわ」


 たまたま遊びにきてたシズーさんが、胸を張って引き受けた。


(いや、シズーさんならたしかだろうけど)


「ろ、ロフトのほうはいいんですか?」


「あっちは、ドモトリウスさんも無事だったし。冒険者ギルドから守護者ギルドへの組織変更はもう終わったわ」


「もうできたんですか? 他は苦労してるところが多いんですけど」


 一攫千金狙いの射幸心溢れる冒険者を、人々を守る守護者に鞍替えさせるのはなかなかに大変だった。


「ロフトは、石化してたせいで、あなたと神の決戦の一部始終をみんなが目撃してるわ。グランドマスターに与えられた力になんて頼りたくないって冒険者が多いのよ」


「なるほど」


「それより、いい加減わたしに敬語はやめてくれないかしら。魔王陛下に敬語を使われるなんて落ち着かないわ」


「盗賊士の先輩ですしね」


「盗賊士としてはとっくに追い抜かれたじゃない。そもそも、盗賊士なんてもの自体なくなっちゃったし。

 それはともかく、そういうことならロフトからも人を呼ぶわ」


「えっ、やめてくださいよ。私は目立つのが嫌いなんです。誕生日会だってほんとはガラじゃないと思ってるのに」


「魔王陛下への贈り物は何がいいのかしら。たいていのものは手に入るでしょうしね。これは難題だわ」


「ち、ちょっとシズーさん!」


 シズーさんは一度実務のスイッチが入ると止まらない。

 結局、誕生日会には、あっちからもこっちからも参加の申し込みがあった。

 関係構築の大事な時期ってこともあり、無下にもできない。


 気づいてみると、私の誕生日会は国を挙げての一大イベントになってしまってた。


「続きましては、海洋諸都市を代表してご出席のハリエット様よりの祝辞です」


 私はパーティ会場に設けられた特大の「お誕生日席」に祭り上げられながら、シズーさんの司会進行を見守ってる。

 なるべくカジュアルにという私の意向を受けて、パーティは立食形式だ。

 参加者たちは三々五々になって、壇上のセレモニーを眺めてる。

 もっと歓談してくれててもいいんだけど、魔王陛下のお誕生日ってことで進行の邪魔になるようなおしゃべりはしていない。


 さすが、各国家の代表たちは、如才のない挨拶をする。

 日本だったら、えらそうなおじさんが「えー、あのー」で埋め尽くされた中身のない話をしてご満悦になるだけの場面だが、みんな軽いジョークを交えながら短めに祝辞をまとめてくれた。


 ……あとで聞いたところでは、私が堅苦しいのは嫌いだという情報が流れて、魔王の怒りを買わないように、各国とも苦労してスピーチを練り上げてきてたらしい。もちろん、この時点では私は知らなかった。知ってたら、スピーチ自体なくさせてる。忙しい人たちに小粋なジョークの練習をさせてしまったようで申し訳なさすぎる。


 スピーチが終わったところで、シズーさんに壇上に立つよう促された。


「えーっと。あはは……こういうのいくらやっても慣れなくてすみません」


 開口一番自虐してしまったが、笑いは取れなかったようだ。


「いや、魔王の自虐で笑ったからって首取ったりしないよ? っていうと今度は笑わなかったら殺されるのかって思われそうだけど、そういうこともないし。

 あ、ごめん。お礼だったね」


 司会のシズーさんからアイコンタクトをもらって仕切り直す。


「今日は単に私が十七年前に生まれただけの日なんですが、おおごとになって恐縮です。みなさん、心のこもったお祝いをありがとう」


 私は壇上で頭を下げる。


「せっかくなので、私の故郷である異世界の料理をいろいろ用意させてもらいました。食材の関係で完全再現はできなかったけど、これはこれで美味しく仕上がってると思います。お忙しい中来てもらったので、せめて魔王城の食事は美味しかったと、お土産話にでもしてもらえればさいわいです。

 えっと、他に何かあったかな」


 ちらりと檀の脇を見ると、ボロネールがブロックサインをしてる。

 バントしてスクイズ、みたいなサインだ。


「そうそう、催し物として、いくつかスポーツをやってます。って、みなさんご存知ですよね。案内も送ったし。

 今回は野球とサッカーだね。各国の守護者や騎士、兵士、その他有志の人たちに集まってもらって、開始前にルールを説明しました。ほんとはもうちょっと細かいルールもあるんだけど、今回は初回なので大雑把にしてます」


 野球は盗塁や犠牲フライはなし、サッカーはオフサイドなしだ。

 小学校の体育みたいなルールだけど、選手たちも観てる人もそのくらいじゃないとわからないだろう。


 他のスポーツも、いろいろ試させて感想を聞いてる。

 騎士だとテニスや剣道、フェンシングに興味があるようだ。

 冒険者だった人たちはサッカー、バスケ、ラグビー、アメフトだね。

 貴族たちはゴルフかな。


「ダンジョンはなくなります。戦争もさせません。そこはもう、私のわがままを通させてもらいます。

 でも、それだけじゃ暮らしが平坦で刺激が足りないって人もいると思うので、魔王国ではスポーツの普及に取り組んでます。

 ラジオ放送も試験的に始まったし、大都市では魔法を使ったパブリックビューイングもできるようになります」


 私が指を鳴らすと、壇上に大きなホログラフィが浮かび上がった。

 外で行われてるサッカーの試合だ。

 カードはロフト対セレスタ。4対4で白熱してる。点数が大きいのは、まだ守備に慣れてないからだろう。オフサイドもないしね。


「なんていうかな。正論ばっかり言ってると息苦しくなることもあるよね。日々の暮らしの中で嫌なことだってあるし。そういう時に他種族を差別するな、戦争するなって言っても効果は薄いわけで。そういうのは、別の形に昇華するしかない。遊びみたいなことだって思われるかもしれないけど、だからこそ、魔王国で率先してやってきたいと思ってます」


 会場から拍手が起こった。

 そんなに大きなものではないけど、温かい反応だ。


「経済については、あとで経済担当大臣――シズーさんから説明させます。私の口からざっくり言うと、いろんな技術を発展させてみんなの暮らしを豊かにする。それが魔王国の方針だね。

 ボロネール、他に何かあったっけ?」


 壇上から素で聞いた私に、会場から笑いがこぼれる。


「軍事だ、軍事」


 ボロネールが笑いながら大声で言う。


「そうだった。魔王国はいかなる戦争も認めません。もし国家間で紛争があったら相談してください。全部解決できるとは思えないけど、できる限りのことはします。

 各国の軍備については、魔王国としては減らせとは言いません。ただ、戦争がないのに軍隊が大きくてもいいことはないと思うので、魔王国の施策がうまく運べば、自然と減っていくと思います。っていうか、それを目指してます。

 しばらくは様子見ってみなさんが考えるのは当然だと思います。魔王国としてはそれをいいとも悪いとも言いません。納得できるまで様子を見て、慎重に判断してくれればいいです。

 あとは……」


「魔王国は軍事力を基本的には行使しないって話をしといてくれ!」


 ボロネールが開き直って言ってくる。


「いまボロネールが言った通りです。魔王国は戦争を止める以外の理由で軍隊を動かしません。モンスターの対処は守護者が行うし。警察は、軍隊とはべつの軽武装のものを作ります。警察官は守護者が多くなるかな」


「盗賊や海賊はどうする!」


 とボロネール。


「そんなの、どうとでもなるよね。私が直接ひねってもいいけど。まぁ、すぐにいなくなると思うよ。失業者が盗賊になるって問題は、経済政策の話だから、シズーさんから聞いてね」


「メシが冷めるからそろそろ締めに入ってくれってさ!」


 会場が笑った。


「あ、ごめんごめん。

 とにかく、みなさん、お集まりいただいてありがとう。こんなにたくさんの人に誕生日を祝ってもらったのは初めてです。贈り物は、申し訳ないけど全部お断りさせてもらいました。競争を煽るようで嫌だったからね。

 じゃあ、みなさん。いろいろ余興も用意させてもらってるので、ぜひ楽しんでいってくださいね。

 以上、魔王ミナトでした」


 ぺこりと頭を下げる。

 割れんばかりの拍手が起こった。

 私は軽く手を上げて応えながら、壇を降りる。





 その後、魔王城ではスポーツトーナメントやら花火大会やら産業見本市やらが開かれ、いずれも盛況なようだった。


 パーティで疲れた私は、アルミィとの共有空間に戻って休んでる。

 会場の様子はエルミナーシュがホログラフィで表示してる。


『評判はとてもいい。これなら、毎年開くのもいいかもしれんな。この世界では情報流通が極めて限られている。このような機会は貴重なのだ』


「その口実に私の誕生日を使うの? 勘弁してよ……」


『来年になれば、今年はやらないのかと聞かれるぞ』


「魔王の誕生日とか言わないで、万国博覧会とか言えばいいよ」


『しかし、魔王の威を示す格好の機会だ』


「示さなくていいって、そんなの。王様なんて、みんなが存在を忘れてるくらいでちょうどいいんだ」


『上善は水の如しということか。民がその存在を意識せずにいられる王こそ最良の王であると。なるほど、深いな』


「いや、そんな深いこと言ってないって」


 私は、だらっとしながら会場の様子をぼんやりながめる。

 いろんな国、いろんな種族の人が集まってる。

 スポーツに熱中したり、新技術に興奮したり。

 なにやら商取引をしてるっぽい人もいる。


「よく集まったもんだ」


『ミナトが成し遂げたことだ』


「どうだかね。偶然だよ」


『偶然もあろう。だが、他の者にはここまでのことはできなかったろう。事実、グランドマスターたちやクレティアスにはできていない』


「今日は妙に持ち上げるね」


『誕生日だからな』


 エルミナーシュと話してるうちに日が暮れていく。


 共有空間に、シャリオンが入ってきた。


「ミナトお姉ちゃん」


「シャリオン。どうしたの?」


「ちょっと来てるくれる?」


「どこに?」


「いいからいいから」


 いつになく強引なシャリオンに引かれ、私は共有空間を出る。

 シャリオンが向かった先は、魔王城の奥にあるちょっとした広間だ。

 数十人も入ればいっぱいになる場所で、身内のプライベートなイベントごとのために使うことが多い。

 窓が大きくて見晴らしのいい、いい部屋だ。


 シャリオンに押されて部屋に入る。

 扉を開けると、クラッカーの音が立て続けに鳴った。



「「「誕生日おめでとう!」」」



「えっと……?」


 紙吹雪を頭にかぶったまま、私は部屋の中を見る。


 アルミィ、グリュンブリン、ボロネール、ベアノフ、アーネさん、シズーさん、シェリーさん、ルイス、エスカヴルム。

 要するに、身内と呼べる人だけが集まってる。

 みんなの手にはクラッカー。


 部屋の奥には「ミナト、誕生日おめでとう!」と書かれた横断幕。

 部屋は学芸会みたいな手作り感あふれる感じで飾られてる。

 料理も、ケーキとか七面鳥とか、質素な感じの豪華さだ。


「驚いた?」


 アルミィがいたずらっぽく聞いてくる。


「クラッカーなんてあったの?」


『単純な仕組みだ。この世界のものでも簡単に作れる』


 どこからかエルミナーシュが言ってくる。


「エルミナーシュもグルか」


『時間を稼げと言われてな』


 いつになくおだててきたのもそのせいだったか。


「ミナトの世界の誕生日会っぽくしてみたんだけど、どうかな?」


「うん、びっくりした。すごく誕生日っぽい」


「よかった」


 アルミィが明るく笑う。


(誕生日って、あまりいい思い出ないけどね。自分のも、他人のも)


 でも、今日はちがった。

 すごくうれしい。

 油断すると顔がにやけてしまいそうだ。


「ごめんなさいね、思った以上に話が大きくなってしまったから」


 シズーさんが言ってくる。


「せめて、身内だけでミナトの希望通りのパーティをやろうってことになったのよ」


 アーネさんが言った。


「このような場に呼んでもらえて光栄だ」


 シェリーさんが言う。


「僕は姉さんのおまけだろうけどね」


 ルイスが皮肉を言って肩をすくめる。


「荒事がないとなかなか役に立てんからな。いや、荒事ですらミナトには敵わん現状がある」


「グリュンブリンも役に立ってると思うぜ。双魔王陛下はどちらもお優しいからな。厳しく締めるやつも必要なんだ」


 これは、グリュンブリンとボロネール。


「役に立てぬということなら俺もそうだ。クレティアスめを討つ時にはついていけなかったからな。あれ以来修練を積んではいるが、ミナトの方針通り、力を役立てられる機会がないことを願ってる」


 ベアノフが鷹頭でうなずく。


「わたしは遠慮したのだがな。ともに戦った仲だからとアルミラーシュに説得された」


 エスカヴルムが腕組みしてそう言った。


「ありがとう、みんな」


 自然に感謝の言葉が口から出た。

 さっきの会場での挨拶だって、本心から感謝してたんだけど、やっぱり意識的に感謝を口にしてた感じはあった。

 いまはちがう。

 うれしくてうれしくて、黙ってはいられないって感じだ。


「ありがとう」


 もう一度口にする。


 私の視界がぼやけた。


「わ、ちょっと、泣かないでよ!」


 アルミィが言ってくる。

 どうやら、私は泣いてるらしい。


「泣くよ、こんなの……」


 これこそ、神によって見せられた私の願望の光景なんじゃないか。

 そんなことすら思ってしまう。


「じゃあ、みんな、練習通りに」


 アルミィがみんなに言った。


 みんながそろってうなずく。


「せーの……」


「「「ハッピーバースデー、トゥ、ユー……」」」


 みんなが、おなじみの歌を歌い出す。

 日本語(英語)の原曲じゃなく、こっちの世界の言葉に訳したらしい。


(もしかしたら……)


 日本語で歌うよりこっちのほうが私にとってはいいと思ったのかもしれない。

 問題のある家庭に育った子どもにとって、誕生日の思い出なんてそんなにいいものじゃない。


 短い歌を歌い終え、みんなが言った。


「「「誕生日おめでとう、ミナト」」」


「うん……ありがとう」


 私は、涙をぬぐいながらそう応えた。

『HAPPY LIFE 〜難易度変更で幸せ人生目指します!〜』、これにて完結となります。


8ヶ月近くに渡る長期連載になりました。

そのあいだ、みなさんの毎日の楽しみになれていたら嬉しいです。


今後の活動については、活動報告やツイッター(@AkiraAmamiya)で随時お知らせしていきます。


それではまた、次の作品でお会いしましょう。


2018年7月20日

天宮暁


18/10/5追記:

作者別作品『NO FATIGUE 24時間戦える男の転生譚』と趣向を同じくする新作の連載を開始しました。

併せてお読みいただければさいわいです。

『NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚』

https://ncode.syosetu.com/n8387fa/

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