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170 私はドラゴンだった説

 ポポラックさんがダンジョンマスターとして囚われてた息子さんと感動の再会を果たした後、ノームたちは古巣を引き払い、魔王城へとやってきた。


 それに先立って、シズーさんに率いられた避難中の冒険者たちも魔王城に入っている。


 魔王城の作戦室に、ひさしぶりにフルメンバーが揃った。


 魔王国からは、私、アルミィ、グリュンブリン、ボロネール、ベアノフ。

 ロフトからはシズーさんとアーネさん。

 そして、新しく仲間にくわわったエスカヴルム。


 その他、魔王城に作った新しい水球の間にいる夢法師にも、この光景を中継している。


 シャリオンは、緊張の糸が切れてぐっすりと眠ってる。

 ポポラックさんはまだ意識を取り戻さない息子さんにつきっきりだ(エスカヴルムによれば容体に心配はないらしい)。


「ずいぶんとまあ、いろんなことが起きたもんだな」


 ボロネールがあきれたように言った。

 以前はボロを重ねたような格好だったが、いまはセレスタのテイラーで仕立てたパリッとした礼服に身を包んでる。魔王国の代表として動くことが多いからね。


(ちゃんとした格好するとイケメンだよね)


 無精ひげも剃らせたんだけど、それでもどこかだらしなさが漂ってるのがこの人らしい。


「だが、かえって状況はわかりやすくなったな。要は、そのクレティアスというのを倒せばいいのだろう?」


 そう言ったのはグリュンブリン。

 彼女のほうは、以前とあまり変わらない戦乙女然とした戦装束を着てる。


「でも、王都方面は石化する灰に覆われてて近づけないんでしょ?」


 アルミィが私に聞いてくる。

 アルミィは最近仕立てさせたうっすら青い羽衣のような格好だ。アルミィには威厳がないので、神秘性を強調する方向で調整してる。


 ちなみに私は、赤と黒のかっこいいトレンチコートの下に、タイ付きの白いブラウスと膝を隠すくらいのプリーツスカート。


「私の石化封じの指輪があればすぐには石化しないみたいなんだけど、どうも灰が濃いほうに行くと徐々に石化が始まるみたいなんだよね」


 エスカヴルムが仲間になり、ポポラックさんの息子さんを解放した後、私は危険を承知で地上に出た。

 単身ロフトに近づこうとしたんだけど、灰が濃くなるに従って手足にしびれを感じるようになった。

 指輪から軋むような音が聞こえてきたこともあって、私はあわてて引き返した。


「……ミナト。それでもしミナトが石化するようなことがあったらどうするつもりだったの?」


 アルミィが私をじとりとにらむ。


「だ、だって。ドモさんが石化してるって聞いたから」


 私の手元にはまだコカトリスの(くちばし)が余ってる。

 ひょっとしたら助かるかもしれないのに何もせずに帰るわけにはいかなかったのだ。


「ミナト。それについてはわたしもアルミラーシュと同感だ。一軍の大将がみだりに危険に身を晒すな。もしおまえになにかあったら魔王国は瓦解しかねん。そうなれば、はるかに多くの者が辛酸を舐めることになる」


 グリュンブリンが私を真っ直ぐに見て苦言を呈す。


「う……そうだね」


「ま、嬢ちゃんのその優しさがあるからこそ、この国はなんとかまとまってるんだがな。

 ハミルトンの旦那は、双魔王陛下の優しさを本当には信じることができなかったのかもしれねえ。

 でも、旦那なりにそれを信じたいと思ってた。だから、自分の命を捨ててまで、将来の遺恨を断とうとしたんだ」


「私には、なんとも言えぬ。ハミルトンの懸念ももっとものように思えるが、他に方法があったのではとも思う」


「おや? グリュンブリンも丸くなったもんだ。昔のおまえなら、歯向かうものは粛清だ、くらいは言ったはずだ」


「ふん。そうだな。

 たしかに、短期的に見ればそのほうが安く済むだろう。

 だが、中長期的に見るなら、安心して暮らせる国を作るに越したことはない」


 元四天魔将の二人が、すこし遠い目になりながらそう話す。

 同じく四天魔将だったハミルトンの最期に、思うことが多いにちがいない。


「それより、いまは石化灰と『聖王』クレティアスのことが先決なのではないか?」


 エスカヴルムが言った。

 チャイナっぽいドレスに身を包んだ金髪赤眼の竜少女は、ちらりとアーネさんを見た。


 アーネさんが言う。


「石化する灰については、正直まったくわからないわ」


「エルミナーシュはなにか知らない?」


 私はエルミナーシュに聞いてみる。

 会議の席には、エルミナーシュの端末である黒い八面体が浮いている。


『残念ながら、魔王城のデータベースにヒントになるような情報はなかった。エルフの隠れ(ざと)に期待するしかあるまい』


「石化灰の広がってる範囲はわかった?」


『うむ。魔王城の偵察機を飛ばして調べたところ、灰はザムザリア王国王都ザルバックを中心に、王国の中西部に渡って広がっている。ちなみに、灰の広がる範囲は風向きとは関係がないようだ』


「ミストラディア樹国までは届かない?」


『霧の森の手前までだな。だが、予断は許さない。すでに双魔王の名でミストラディア樹国には警戒を呼びかけている』


「あれが見たとおりの灰なら、霧の森には広がりにくいかもしれないけど」


『わからぬな。風に影響されないところを見ると、「灰」は物質的な実体をもたぬ可能性もある』


「触れるものを石化させる灰、か。滅びの灰って感じだね」


 私のつぶやきに、エスカヴルムが言った。


「言いえて妙であるな。わたしも、『滅びの灰』のようなものは初めて見る。エルフたちが知っておるかどうかも、正直言って確信はないのだが……」


「それより、本当なの? 魔王城には衛星軌道まで飛べる手段があるっていうのは」


 アーネさんがエルミナーシュに聞く。


『本当だ。魔王城の情報が一部破損していたため動かせなかったのだが、ミナトの世界から得た情報で穴を埋めることができた』


「驚いたけど、ありがたいわね。

 それにしても、ミナトがべつの世界からやってきてたなんて……。どおりで常識はずれだと思ったわ」


「あはは……まぁ、いきなり話しても信じてもらえそうになかったし」


『準備は整っている。衛星軌道上にあるエルフの郷の位置も特定した』


「ど、どうやって!?」


 アーネさんが驚く。


『ミナトの世界の天文技術を参考に、天球の観測をおこなっただけだ。衛星が天球上を移動すると、通過経路にある星々からの光が遮られる。観測データを積み上げれば、おのずとエルフの郷の周回軌道は計算できる』


「す、すごいのね」


『ミナト、アルミラーシュ。宇宙に行くメンバーを決まったら滑走路に来てくれ』


「うん、わかった」






 魔王城の滑走路には、一機の黒い航空機が止まっていた。

 デルタ翼っていうんだろうか、まるっこい二等辺三角形みたいなフォルムをしてる。


「ふつうの飛行機みたいだね」


『離発着は大気圏内の航空機と同じだ。ミナトの知っているスペースシャトルとちがって垂直打ち上げではない』


「……いや、ふつうの飛行機ってなによ」


 アーネさんがそうつっこんでくる。


 私たちはシャトルに乗り込む。

 結局エルフの郷へ行くのは、私、グリュンブリン、アーネさん、エスカヴルム、シャリオンの五人。

 魔王が両方いないのは問題だってことで、アルミィは泣く泣く地上に残る。

 シャリオンは、べつについてくる必要はないのだが、空の果てに行くと聞いてぜひにってことだったので連れて行く。


(もし交渉がこじれたりしても、危険なことはなさそうだしね)


 留守はアルミィとボロネール、シズーさんにお任せだ。

 エルミナーシュも行きたがったが、端末の使用可能距離を超えてしまう。途中からは通信もできなくなる。

 シャトルはほぼオートパイロットなので問題ない。


 私たちはシャトル内部の居住空間に入った。

 シンプルな内装だが、広くて必要なものはすべてある。

 慣性は魔法で消せるってことで、戦闘にでもならない限りシートベルトも必要ない。


『旅を楽しむ余裕がなくて申し訳ないが、さっそく飛ぶぞ』


 エルミナーシュの言葉とともに、居住空間の壁にあるディスプレイが外の様子を映した。

 外の光景が後ろへ流れていく。

 シャトルはスムーズな動きで離陸する。

 その間、Gはほとんど感じなかった。

 新幹線に乗って、窓に立てた五百円玉が倒れない、みたいな動画があるけど、あれくらいのなめらかさ。


「うわぁ! 空を飛んでる!」


 シャリオンが声を上げ、ディスプレイにかじりつく。

 窓だと思ってるみたいだけど、ディスプレイだからね。


「これはすごいわね」


 アーネさんも息を呑んでる。


 エスカヴルムは、ドラゴンだけに、飛んでるだけではそんなに驚いてはいなかった。


「ふむ。なるほど、このような機械で空を飛ぶことができるとはな。風をつかむことさえできれば、鉄の塊だろうと飛ぶということか」


 エスカヴルムは他のみんなよりちょっと高度なところに感心してる。


「しかし、ミナトよ」


「なに?」


「グランドマスターたちは、おまえと同郷と聞く。ならば、彼らもこの『しゃとる』のような高度な文明を知っていたはずだな?」


「そうだね。すくなくともテレビゲームがある時代から来てるはずだから、私と三十年はちがわないはず。当然、飛行機やスペースシャトルも知ってるね」


「にもかかわらず、彼らは高度な文明をこの世界に持ち込んだ形跡がない。彼らのやったことといえば、世界を作り変え、自分たち本位の刺激的な冒険を楽しむ娯楽装置としただけだ。

 それが、どうにも解せんのだ。高度な文明の恩恵に浴し、便利で快適な暮らしを送ることよりも、そんなことのほうが大事だったのだろうか?」


「なるほど……」


 エスカヴルムの疑問はもっともかもしれない。


「うんと、私は彼らじゃないから、ほんとのところはわからない。その前提で聞いてほしいんだけど」


「うむ。もちろんだ」


 見れば、アーネさんとグリュンブリンもこっちを向いてる。シャリオンだけは、空から見下ろす地上に釘付けになったままだけど。


「文明が高度になったっていっても、みんなが遊んで暮らせてるわけじゃない。みんなそれぞれに働いて、お金を稼いで暮らしてる。人間には生まれつきの能力の差もあれば、生まれた環境のちがいもある。もちろん、本人の努力が報われることもあるけど、単なる運の良し悪しで結果が変わることだってある。そういう要素が、人々のあいだに格差を生み出す」


「なんだか、こっちの世界と同じみたいね」


 アーネさんが言った。


「そうだね。まぁ、国にもよるけど、こっちの世界よりはマシだと思う。飢えて死んだりするような人は少ないからね。そんなにお金がない人でも病院にかかれるし、老後は年金がもらえるから、最低限の暮らしは保障されてる」


 ……と言い切っていいかはわからないけど、そういうタテマエにはなっている。


「すばらしい世界ではないか」


 エスカヴルムが言った。


「全体として見ればそうだね。

 だけど、人間の欲は深いものでさ。食うに困らないってだけじゃ足りなくなって、おいしいものやおしゃれな服や大きな家がほしくなる。

 ううん、正確にはちょっとちがうかな。他人と比較しなかったらそこそこで満足いくはずなんだけど、同期の同僚より給料が五千円安かっただけで心がざわつくのが人間なんだ」


「えっと、それはあれよね。同じ時期に冒険者になった他の冒険者が自分よりギルドからいい仕事をもらえてるのが許せない、みたいな」


「そうそう。で、努力で見返す、ってことができればまだいいんだけど、現実にはそうもいかないよね。才能、実績、人脈、幸運、いろんな要素があって、その多くは自分の努力では動かせなかったりする」


「努力が正当に認められた結果ならまだしも、現実はそうでないことが多いものね」


「人間は、人よりうまくやって、褒められるのが大好きな生き物なんだ。それを、承認欲求っていう。承認欲求が満たされないのは、時として衣食住が満たされないよりも問題なんだ」


「そ、そんなものかしら?」


「人にもよると思うけどね。

 でも、『人より優れていたい』という気持ちを、すべての人が満たすことはできないよね」


「ええと、誰かが人より優れてるってことは、その人より劣ってる誰かがいるってことだから、劣ってる誰かは承認欲求が満たせないってことかしら。誰もが二つ名つきの冒険者にはなれないようなもので」


「うん。まぁ、冒険者としていまいちなら他のことで役に立つとかして満たすことはできるかもだけど、残念ながら何やってもダメな人もいる。あと、どうしても冒険者として名を上げたいって思ってるのに、そもそもの才能が足りなくてどうしようもないってこともあるね。

 そんなふうに、承認欲求っていうのはなかなか満たせるものじゃないんだ。現実とうまく折り合ってくみたいな精神的なスキルも必要になる」


「なるほどね」


 アーネさんがうなずく。

 エスカヴルムもなんとか理解してくれてるみたいだけど、グリュンブリンはちょっと怪しいかな。


「でも、承認欲求は、現実以外の形で擬似的に満たすこともできる」


「……ごめん、よくわからないわ」


「たとえば、物語。主人公に感情移入した読者は、主人公が褒められると自分のことみたいに嬉しくなるよね」


「ああ、そういうこと」


「人間って、業が深いところもあるけど、同時に驚くほど単純というか、融通が利く部分もある。承認欲求なんて身のないものなんだし、バーチャルに満たせるならそのほうが手軽でコスパもいい。他人にも迷惑をかけない。現実逃避って言う人もいるけど、何も悪くないと私は思う」


 承認欲求を暴走させて他人に迷惑をかけるやつよりよっぽどマシだ。

 具体的には、レイティアさんだとかクレティアスだとか。


「それもひとつの達見ではあろうな。だが、グランドマスターたちはどうなる?」


 エスカヴルムが聞いてくる。


「グランドマスターたちは、この世界をゲームに変えようとした。自分たちが主人公になれる物語にしようとしたんだ。

 ゲームっていうのは、課題を与えられて、それをうまく達成すれば褒められる。とても心地のいい世界だ。現実じゃこんなにうまくはいかないからね。

 さっきも言ったけど、べつにゲームそれ自体は悪くない。私も好きだよ。私も現実ではそんなにうまくいってなかったから、それをゲームで補ってた部分はあるけど、それ抜きでも楽しいものなんだと思う。

 グランドマスターたちの間違いは、『どうして現実はゲームのようにうまくいかないんだ』っていうふうに、逆転した疑問を持ってしまったことなんだ」


「逆転した疑問? いまひとつわからない」


 エスカヴルムが首をひねる。


「えっと、普通はこう考えるんじゃないかな。

『現実とちがって、ゲームはうまくいくから面白い』って。ゲームをクリアして、やった、気持ちいい! これ自体はなにも悪くない。

 でも、ゲームで気持ちよくなれるのが当たり前になって、『現実では気持ちよくなれない。おかしい! 現実でもゲームのように気持ちよくなれるべきだ!』、こうなっちゃうと不満がたまる一方だ。現実が気持ちよくならないのはもちろん、気持ちよかったはずのゲームまでつまらなく思えてくる」


「ふむ……言わんとしていることはわからなくもないな」


「あたしは、よくわかんないかな」


 エスカヴルムもアーネさんも、理解はしてるけど、ピンとは来てない感じだね。


「私の思うところでは、期待のしかたが間違ってるんだ。

 現実は、思い通りにはいかない。だから、現実には多くを期待すべきじゃない。

 ゲームは、思い通りにいくべきだ。そうじゃないゲームはただ出来が悪いってだけ。これは、作った人に文句を言ってもいい。

 グランドマスターたちが向こうでどんな人生を送ってたかはわからないけど、現実を見たくなくなるほどに不満の多い人生だったんだろうね。なまじ、衣食住に不自由がないせいで、自分の人生がいかにみじめか、みたいなことを考える暇だけはたっぷりあった。それはそれで、衣食住に事欠くのとはべつの苦しさがあるよ」


「ミナトもそうだったの?」


「私は、最初から期待が低かったからね。不満というより、たんに『苦しいなぁ』って思ってた感じ。それをどうにかやりすごす方法ならいろいろと知ってる」


「た、大変だったのね」


「グランドマスターたちが、こっちで現代的な快適さを求めなかったのは、それがあって当然のものだったからだと思う。彼らが満たされてないと思ってたのはもっとべつのものだった。さっきも言ったけど、他人から認められたいってことだね」


「だが、他者を虐げて恐れられたところでどうなるというのだ?」


「無視されたり、蔑まれたりするよりは、恐れられるほうがいいんじゃないかな。他人がビビって道を開ける、気持ちいい! みたいな」


「せっかく高度な文明を知っているのだ。それを普及させることで人々の生活を豊かにし、その業績によって認められればよかったのではないか?」


「それだと、他人を喜ばせることになる。本当に虐げられた人は、他人が幸せになるのが許せないものだよ。他人を不幸にすればするほど自分が幸せになれると錯覚してる」


「それで、自分たちが主役となれるようなシステムを作り上げたというわけか。なんとも業の深い話だな」


 エスカヴルムがうめくように言った。


「じゃあ、ミナトは? どうしてそういうふうにならずに済んだの?」


「私? なんでだろ」


 言われてみればそうだ。


「うーん。わかんないけど、私は、まわりが不幸だと自分だけ幸せにはなりようがないと思うんだよね。そりゃ、嫌いな人が悪い目に遭ったらざまぁ見ろくらいは思うけどさ」


「ほんと、ミナトって聖人みたいよね」


「ええっ!? とんでもない! 私なんて自分のことしか考えてないよ」


「でも、さっき言ってた承認欲求だっけ? ミナトにはあまりなさそうに見えるんだけど」


「私は、ゲームして気持ちよくなれたらお腹いっぱいだから。現実の誰かに承認されたいとはあまり思わないかな。他人に承認されようと思ったら、他人から認められるように行動しなきゃいけなくなっちゃうわけで。

 でも、それって、他人に振り回されてるってことじゃん。他人が認めてくれるかどうかで自分のありかたを変えるってことだよね。

 だけど、他人の承認なんて、その場の雰囲気に左右されるいい加減きわまりないものなんだ。先生に花マルもらうためにがんばるなんて馬鹿げてるよ」


 私のセリフに、エスカヴルムが言った。


「ふむ。ミナトの考えかたは、われら竜のものに似ているな。われらは群れることを好まぬ。『おのれ』とは他人に認められることで成り立つものではないと思っているからだ。われら竜はまずなにより自分で自分を認められるように在ろうとする」


「あはは……そんなかっこいいもんじゃないよ。他人から認めてもらえなかった子どもが、他人から認めてもらえなくても大丈夫なようにひねり出したへ理屈なんじゃないかな」


「それでおのれを持することができるのならば、それは立派な信念ではないか」


「だと、いいけどね」


 そんな気恥ずかしい話をしてるあいだに、シャトルの外は徐々に空色から藍色へと変わっていく。

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