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167 暗黒騎士から聖王にクラスチェンジ

◇乗蓮寺湊視点


 その情報に早く気づくことができたのは、不幸中の幸いだった。


 ノームたちの近況を聞こうとロフトのダンジョンの地下にワープした。

 魔王の力のかけらであるダンジョンコアの力を利用して、向こうの空間へと通じるドアを作る、という前にも使った力技だ。

 どこにでも使えれば便利なんだけど、いろいろ検証した結果、ダンジョンの奥深くでないと難しいようだった。


「あれ?」


 十六層にあるノームの隠れ里に入ると、里の中にたくさんの冒険者がいた。

 まさか、攻略に来たのかと一瞬構えたが、どうも様子がちがってる。


「これはこれはミナト殿!」


 ノームの長ポポラックさんが私に気づいて話しかけてきた。


「どうしたの? 冒険者が攻めてきた……んじゃないよね?」


「ええ、この者たちは地上からダンジョンに逃げ込んで来たのです。そこをわれわれが保護したような次第ですな」


「逃げて来た? なんで?」


「それは……」


 そこで、いきなり声をかけられた。

 それも、二人同時にだ。


「お姉ちゃん!?」

「ミナト!?」


 振り返ると、そこにはひさしぶりの再会になる二人がいた。


 一人はシャリオン。

 っていっても誰だかわからないかもしれないけど、ロフトの街で私が助けた石化熱の少女だ。

 短く揃えた黒髪と、褐色に近い肌。

 盗賊士らしい装備だが、まだ少し慣れてないように見える。

 全体的には、前よりちょっと垢抜けた気がするね。


 もう一人はアーネさん。

 ロフトダンジョンの魔術士ギルド出張所のワンオペ代表者を務めるエルフの少女。

 見た目は12、3歳くらいに見えるけど、エルフなので私より年上らしい。

 ピンクがかった淡い色の金髪をツインテールにしてる。

 瞳は透き通った藍色で、顔はキレイっていうよりかわいい系。


「な、なんでこんなところに?」


 シャリオンが聞いてくる。


「いや、それはこっちのセリフだって」


「それより、ミナト! 大変なのよ! 地上が灰に覆われて……」


「えっ? ハイ?」


 混乱しかけた私たちに、ポポラックさんが言った。


「とりあえず、落ち着きませんかな? わが家にて茶でも出しましょう」


「そ、そうだね」


 私たちはいったんノームの家にお邪魔することにした。






「クレティアスがザムザリア王都を襲った!? しかも、そのあと国王に即位した!? その直後に灰色の霧が押し寄せてロフトの街とダンジョン前の出張所が石化した!?」


 話を聞き終え、私はおもわず叫んでいた。


 ポポラックさんの家には、私、シャリオン、アーネさんに加え、盗賊士ギルド出張所の代表であるシズーさんもいる。戦士ギルドのウォーバンさんは見張りらしい。


「うん。ドモさんはわたしに後を託して街に残って……」


「そ、そんなことに……」


 私の荷物の中には、まだコカトリスの(くちばし)が残ってる。

 私用に石化封じの指輪もキープしてる。

 他のダンジョンでもこの指輪は拾ってるから、アーネさんに渡してもいいし、ロフトの街まで行ってドモさんを助けて(間に合えば、だけど……)から指輪を渡すという手もある。


「出張所の冒険者も、全員は助からなかったわ。地上で石になった人が半分くらい。そのあとダンジョンに逃げ込んで、モンスターにやられてしまった人もいる」


「ダンジョンの上のほうはもう……?」


「ええ。三層くらいまで灰が入ってるわ。もっとも、三層は灰がなかったとしてもコカトリスが出るんだけど」


 その中を決死の覚悟で抜けてきたのだという。


「われらが発見したときにはかなりひどい状態でしたな」


「よく見つけてくれたよ」


「なにやら大地が騒がしいような気がしましてな。地上の様子を確認しにいくところだったのです」


「灰はここまで来るかな?」


「どうも、ダンジョンは灰と波長があうようでしてな。ダンジョンは灰を積極的に吸い込んでおるように見えるのです」


「クレティアスが神由来のなんらかの力を手に入れたんだとしたら、グランドマスターが作ったダンジョンとは相性がいいのかもしれないね」


「ミナト、それってどういうこと?」


 アーネさんが聞いてくる。


「長い上に信じられないような話ですけど、いいですか?」


「いまさらミナトの話を疑ったりしないわよ」


 ふん、と胸を張ってアーネさんが言う。


「そういうことなら……」


 というわけで、私がこれまでに掴んだグランドマスター=神の正体とその所業を説明する。

 私が魔王になった経緯もね。


「そ、そんなことが……」


「わたしたちの信じていたグランドマスターがそんな存在だったなんて」


 アーネさんとシズーさんは驚き、シャリオンは絶句している。


「じゃあ、神はミナトたちの計画を潰そうとしてあの特派騎士になんらかの力を与えたってこと?」


 アーネさんが聞いてくる。


「そう、ですね」


 つまり、いまの事態はもとをただせば私のせいってことなのか。


 そこで、シャリオンが言った。


「お父さんが言ってた。ミナトは自分を責めるだろうが、そんな暇があったらやるべきことをやれ。って」


「う……あの人にはお見通しか」


 じゃあ、やるべきこととはなんなのか。


「クレティアスを倒すのはマストなんだろうけど、それで石化は治るのかな」


 そこまで言って自分で気づく。


「いや、そもそも、クレティアスはなんでそんなことをしたかな? 王になったなら、ロフトを石化させても損しかないじゃない。べつに、ロフトがクレティアスを王と認めないとか言ったわけじゃないんでしょ?」


「うん。言おうにも情報が届いたばかりだったから。たぶん、お父さんが最初に掴んで、それをこれから街の議会に諮るつもりだったんじゃないかな。もちろん、その結果としてクレティアスを認めないってことになる可能性は高かったはずだけど」


「そりゃ、城に乗り込んで騎士たちを殺戮した挙句、王族を皆殺しにして即位、だもんね」


 そんなのを王と認めたい人なんていないだろう。


 シズーさんが言った。


「まさか、見せしめのために?」


「ロフトを石化させて、他の街に言うことを聞けって脅しをかけてるってことか」


 たしかに、ロフトはクレティアスにとって因縁の深い街だろう。

 領主は自分を勘当した父親だし、ダンジョンでは冒険者との確執があった。

 私との賭けに負けて財産のいっさいがっさいを巻き上げられ、レイティアさんの毒殺未遂の混乱の隙をついて逃げ出した。

 自分の過去の恥を知る街を、クレティアスは真っ先に消そうとしたのかもしれない。

 プライドの高い男だからね。


 シャリオンが言う。


「お姉ちゃん。当たり前のように戦うつもりみたいだけど……勝てるの? こんな、街ひとつ石に変えちゃうような相手に」


「まぁね……。石化は指輪で無効化できるけど、他にもどんな攻撃手段を持ってることか」


 クレティアスは、軍事大国であるザムザリアの王城に真正面から乗り込んで、精強で知られる聖騎士たちを倒し、王位を簒奪している。


 私とアルミィで同じことをしようとしたらできるだろうか。

 たぶん、なんとかなるんじゃないかなーとは思うけど、シェリーさんからはザムザリアの聖騎士は侮れないと聞いてる。


(それこそ、難易度変更が効けばいけるだろうけどね)


 そう考えると、現在のクレティアスは、石化する灰のことを置いたとしても、私+アルミィを超えてる可能性が高い。


「弱ったな……」


 先に、ロフトに行ってドモさんを助ける?

 経過時間を考えれば無駄足になる可能性が高い。

 それに、クレティアスは私をおびきだすために、私と縁のある人の多いロフトの街を狙ったのかもしれない。


 もしドモさんを助けられたとしても、クレティアスと戦う上では戦力になるとはいいがたい。

 ギルドマスターには優れた冒険者だった人しかなれないって話だけど、さすがに年齢が年齢だ。

 それに、グランドマスターからの加護で戦う冒険者では、神たちを敵に回すと、いざってときに力を発揮できない可能性もある。


「ベアノフ……ですら危ないだろうね」


 霧の森のときには、暗黒騎士クレティアスと渡り合ったベアノフだけど、いまのクレティアスと戦うのは無理だと思う。


 私が沈黙すると、場が沈む。


 最初に口を開いたのはアーネさんだった。


「これは、あたしの(さと)を頼るしかないかもね」


「アーネさんの郷って、エルフの?」


「そう」


「でも、エルフは立場的にはグランドマスター寄りなんじゃ?」


「そうでもないと思うわ。たしかに、グランドマスターたちがエルフを優遇したのは事実なんでしょうけど、エルフがグランドマスターたちに恩義を感じてるってことはなかったはず。

 それどころか、あたしの郷には、『冒険者にはなるべからず』っていう掟まであったわ」


「えっ、そうなんですか?」


「そうなの。あたしはなんでダメなのって言って飛び出したクチなんだけど、ミナトの話を聞いて納得がいったわ。エルフはグランドマスターたちのやったことを覚えてるのね。ううん、ふつうのエルフは知らないけど、長老たちは密かに伝承を受け継いでるんでしょう。あいつら、秘密主義だから」


「郷って、どこにあるんですか? 聞いていいのかどうかわからないけど」


 私の質問に、アーネさんがピンと人指し指を立てた。

 いや、上を指さしたようだ。


「上って……地上?」


「もっと上」


「まさか、空?」


「その、もっと上よ」


「ええっ。ひょっとして……宇宙、なんですか?」


 アーネさんがうなずいた。

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