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不幸少女は二度目の人生でイージーモードを望む。  作者: 天宮暁


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157 反転攻勢

「ここ数日で、五件の集落が襲撃された。

 最初の集落では出動が遅れて住人に若干の被害が出たが、その他ではかろうじてミナトやアルミラーシュさんが間に合ってる。おかげで、襲撃の規模の割には被害は少なく済んでるけど……いろいろ解せないことが多いね」


 陣屋で、ルイスがそう説明する。


 対する私たち――とくに、私とアルミィはぐったりしてる。


「まず、襲撃先の選び方がわからない。襲撃されたのは、重要な拠点でもなければ、物資があるわけでもない集落ばかりだ。無差別に狙ってるようにしか思えない」


「そうだな。こちらも重要な拠点には兵を多く入れてるが、すべての集落に魔族の襲撃に耐えうるほどの兵を置くことはできない」


 シェリーさんがうなずいた。


「かといって、兵が少ない集落を狙ってるってわけでもないんだよね。

 無差別に狙うにしても、それならそれで、防衛の手薄なところを狙うのが普通だろう。でも、そういう区別をしてる形跡がない。

 むしろ、そこそこの防衛能力のある集落ばかりが襲われてる。

 まぁ、おかげでミナトたちの救援が間に合ってるわけだけど」


 ルイスが私たちを気遣うようにちらりと見る。

 合理主義のルイスがそんな気配りをしだすほどに、私たちは消耗してるのだろう。


 ルイスが説明を続ける。


「もうひとつの疑問は、こっちの救援がやってきても、連中が撤収しようとしないことだ。連中は、むしろ徹底抗戦しようとする。相手が魔族だけに中途半端な無力化は危険で、結果的にこちらは魔族たちを皆殺しにするはめになっている」


 移動速度の関係で、救援として最初に到着するのは私かアルミィだ。

 したがって、集落を襲撃する魔族たちを止めるのは、おもに私かアルミィになる。

 「止める」といえば聞こえはいいが、やってることは皆殺し以外の何物でもない。


 悪い奴を殺すことの何がいけないのか。

 もしかしたらそう思うかもしれない。

 でも、「魔族の宿願を!」「ハミルトン陛下万歳!」「僭王は死ね!」「裏切り者の偽魔王め!」――魔族たちはそんなことを叫びながら、命のある限り襲いかかってくる。

 そんな連中を淡々と殺していくのは、想像以上に精神に来る。


 私たちの様子を見て、シェリーさんが言った。


「まさか、ミナトたちの精神的な消耗を狙って?」


 気遣わしげなシェリーさんに、なんとか答える。


「いや、それはないと思うよ。魔族の数はただでさえ少ないんだ。それをそんな不確かな目的のために使い潰したりはしないはず」


「結局、敵の目論見はわからないということか」


 シェリーさんがため息をつく。


 そこで、ルイスが言った。


「たしかに目的はわからない。

 でも、ひとつだけ言えることはある」


「それはなんだ?」


 もったいぶるルイスに、シェリーさんが聞く。


「客観的に見て、いまはチャンスだってことさ。

 敵はもともと少ない戦力を分散し、各個撃破されるという愚を犯した。

 ひょっとしたら裏の狙いがあるのかもしれないけど、それをおそれてただ向こうの動きを待つのは危険だ。それこそ、相手の思うツボになる可能性がある」


「こっちの疑心暗鬼を煽って足止めしようとしてるってこと?」


 なんか、すっきりしない推理だけど。


 ルイスは私にうなずいた。


「そのあいだに、ハミルトン率いる主力が、霧の森を脱出しようとしてる、という可能性ならないこともないね。

 まぁ、それならなんのために遺構にこもったのかって話になるけど、こもってはみたものの状況不利と見て仕切り直しを考えてるのかもしれないね」


「うーん。そう言えないこともないのかな。

 ただ、それだと、ハミルトンは隠れた目的を持ってたけど、それに失敗して、貴重な戦力を犠牲にしてでも逃げざるをえなくなったってことになる。こんな大それたことをしたにしては、ちょっと間が抜けた感じだね」


「たしかに、厳しめな推理だとは思うよ。僕も、それが正解だと言うつもりはない。

 ただ、いったん向こうの目論見は置いておこう。どうせ、憶測の域は出ないんだ。

 その上で現在の状況を評価し直すと、基本的にはこちらが有利な状況なんだ」


 ルイスの言葉に、シェリーさんがうなずいた。


「そうだな。敵は限りある戦力を消耗した。何か隠された狙いがあってのことか、それとも一部の魔族が暴走したのか、そのあたりは向こうにしかわからないが」


「それなら、こっちから打って出ればいいのさ」


「遺構に攻めこむということか。なるほどな」


「僕たちはこれまで、要塞化され、魔族たちに守られた遺構を力攻めするのは被害が大きくなりすぎると思って、様子見と封じ込めを兼ねてここに陣取ってきた。

 でも、ここに来て敵は戦力を減らしてる。いまなら、遺構に攻めこんでも被害は抑えられるだろう」


「でも、被害は出るんだよね?」


 私の質問には、シェリーさんが答えた。


「たしかにな。

 だが、敵は集落への襲撃を繰り返している。いまの状況を放置すれば、そのうち民間人に大きな被害を出しかねない。それを看過して兵の損耗を抑えるなどという判断はありえない。騎士団への信望が失われる」


「それはそうか」


 私たちが駆けつけるのがちょっとでも遅れれば。

 集落は魔族の襲撃を受けて全滅すらしかねない。


騎士団は民を守る盾なのだ。騎士は当然、そのために命を賭ける覚悟を持っている」


「僕たちが攻めこめば、魔族たちも集落を襲撃する余力なんてなくなるだろう。向こうの狙いが読めないのは不気味だけど、狙いうんぬんを抜きにすれば、それが合理的な状況判断だ」


 ルイスの提案に、シェリーさんは乗り気になったようだ。


 私は、すこしだけ引っかかりを覚えていた。


(ルイスの判断は妥当だね。でも、ちょっと妥当すぎないかな? まるで、そう考えることを促されてるみたいな気がしてくる)


 だけど、そんなあやふやな理由で、騎士団に手をこまねいていろと言うのは無理だろう。

 仮にシェリーさんを説得できたとしても、女王やその他の重臣たちは、シェリーさんの判断に納得しないはずだ。


(もし何かあるとしても、私とアルミィがいて対処できないようなことは考えにくいかな。むしろ、こっちが主導権を握ったほうが、不測の事態にも対応しやすい……かも)


 私とアルミィは目配せしあう。


「わかった。その案で行こう」






 シェリーさんは、騎士団は民を守る盾であり、そのためには命を賭けると言っていた。


 でも、今回の事態は魔王国の失態だ。


 せめて騎士団への負担を軽くしようと、私とアルミィで先陣を切る。

 二箇所からべつべつに攻めこんで、向こうが混乱したところに騎士団が襲いかかる手はずだ。


『開始時刻は私が合わせる』


 私とアルミィは、耳にイヤリング型の通信機をつけている。

 そこからエルミナーシュの声が聞こえてきた。


(特殊部隊とかでよくある、時刻合わせ始め! みたいなやつだね。時計がないからカウントダウンだけだけど)


『中に入ってひとしきり暴れたら、ミナトとアルミラーシュはなるべく早く合流しろ。ハミルトン単独ならともかく、もし脱走したクレティアスがいるなら、一人では危険があるからな』


 結局いまに至るまで、クレティアスの行方はわかってない。

 巡察騎士団の監視があることから、魔族共栄圏にクレティアスが合流するのは難しいはずだ。

 でも、絶対にありえないとは言い切れない。


(とはいえ、クレティアスが魔族共栄圏に協力する理由もないはずなんだけどね)


 いまのところは、ハミルトンとクレティアスは別件の可能性が高い。

 だけど、そう思う確実な根拠なんてない。警戒してしすぎることはないだろう。


(ベアノフを連れてこればよかったかな)


 今回ベアノフは魔王城でお留守番だ。

 これはもちろん、樹国の人たちと会うのにモンスターを連れていくのはどうかという配慮による。

 シェリーさんとルイスはベアノフのことを知ってるし、もしかしたら国にも報告してるかもしれないけど、無用な刺激は避けたかった。


『では、始めるぞ。残り一分。……三十秒……二十秒……』


 私は遺構への出入り口が見える木陰に隠れ、固唾を呑む。


『十秒……五、四、三、二、一……開始!』


 エルミナーシュの合図と同時に、私はひときわ巨大なエーテルショットを生み出した。


 それを、地下へと向かう出入り口に撃ち込んだ。


 見張りに立っていた魔族二人が消し飛ぶ。


 私はエーテルショットと同時に駆け出している。


 魔族たちが騒ぐより早く、私は崩壊した出入り口から地下に降りる。

 何人かの魔族兵がエーテルショットの衝撃でへたりこんでいた。


「なっ……」


 驚く魔族兵たちにエーテルショットを撃ち込み、混乱したところを斬り捨てる。

 私がいま握ってるのはいつもの黒鋼の剣じゃない。

 異世界の情報をもとにエルミナーシュが作り上げた銃剣だ。


(銃剣というより……ゲームで見たことのあるあれだね)


 どちらかといえば剣が主で、握りにトリガーがついている。

 斬りつけると同時にトリガーを引くと刀身でエーテルが爆発するというロマン武器だ。


「死にたくなかったらどいて!」


 私は魔族兵の一人を剣で斬り、同時にトリガーを引いて爆破する。

 魔族兵の身体が赤い飛沫となって破裂した。

 爆発には指向性があるので私のほうにはかからない。


(魔族と戦うのは人間とは勝手がちがうから便利だけど……)


 かなり衝撃的な光景ではある。


 これですこしは怖気づくかと思ったが、


「くっ! 怯むな! ここで僭王を倒せばわれらの楽土が近づくぞ!」


 魔族兵たちが怯んだのは一瞬だけだ。


 すぐに、私を包みこむように魔族兵たちが迫ってくる。

 さらに、地下空間の奥から続々と魔族兵が現れる。


「この、わからずや!」


 私はエーテルショットとトリガーブレードで、魔族たちの身体をただの血煙へと変えていく。

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