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149 調査する亡霊

 あのいじめギャルの家は知っている。

 残念ながら学校の近くだった。


 私はいじめギャルの家のチャイムを押す。


「はい?」


 いきなり扉が開いて、生活に疲れた感じのくたびれた中年女性が顔を出す。


(なんか想像してたのとちがうな)


 あのギャルの母親だからもっとアゲアゲかと思ったんだけど。


「私、――さんのクラスメイトなんですけど、最近、ちょっと気になることがあって」


 私がそう切り出すと、


「……ああ、はい。あなたも知ってるのね。もう、どうしたらいいのよ……」


 中年女性が力尽きたようにうずくまる。


「ち、ちょっと、大丈夫ですか!?」


 あわてて駆け寄って支える。


「ごめんなさい、大丈夫よ……。娘の友達なら、上がっていって」


 私は迷った挙句、うなずいた。


 家は、典型的な中流だと思う。

 今のご時世を思えば恵まれてるほうなのかもしれない。

 母親は主婦っぽいから、旦那の稼ぎだけで家を維持できてるってことだ。

 もっとも、母親を見る限り、とても幸せそうには見えなかった。


 出された麦茶を飲みながら、私は聞く。


「――さんが悪い男に騙されてるんじゃないかって噂になってて……」


「そうなの。あの子は勝手に家を出て、その男のアパートで暮らしてるわ」


 言って、母親はスマホの画面を見せてくる。

 そこには、いじめギャルと肩を組み、その頬にキスをする金髪スーツの若い男の姿が映ってた。

 いじめギャルが幸せそうに笑ってるのに対し、ホストの男の目は冷たい。


「心配ですね。警察には?」


「言ったけど、本人の問題だからって取り合ってくれなくて」


「ええ? 未成年の女の子ですよね」


「ほら、同じ高校の女の子がお父さんに殺される事件があったでしょう。警察はそっちにかかりきりで」


「あれはもう捕まったんじゃ」


「つい最近まで逃げてたから。落ち着いてからあらためて相談するつもりだけど、どこまで親身になってくれるかわからないの。本人たちが好きでやってるんでしょ、なんて言われたのよ?」


「私、――さんが心配なんですけど、いま住んでるアパートっていうのは……?」


「駅前に、風俗店が並んでるところがあるでしょう? 男の勤め先のホストクラブの裏に、安いアパートがあるわ。ガラの悪い人が多いから近づくのも怖くて」


 そんなに大きな街でもない。ホストクラブなんて数える程だから、この情報だけでも特定できそうだ。


「それは心配ですね」


「ええ。あなたも、まちがっても会いに行こうなんて思わないで。危ないわ」


 私はお礼を言っていじめギャルの家を後にした。






「で、特定できたわけだけど」


 私は駅前の風俗店街の裏にある安アパートの前にいた。

 たしかに、濃い化粧がはげかけたスウェットの女性だとか、国籍不明の目つきの悪い酔っ払いだとかが出入りしてる。風俗関係者が住んでるアパートなんだろう。


 問題のホストは二階の隅の部屋に住んでいる。


「うーん。シメるのは簡単なんだけど」


 この手の男が簡単に反省するとも思えない。


「それに、いじめギャルに同情する気もないしね。えみりのこともぶっちゃけどうでもいい」


 唇滅ぶれば歯寒し。

 私が死んだことでいじめの標的はえみりに移った。

 私は、いじめられながらもヤバいラインは超えないようにコントロールするという悲しい処世術を身につけてたけど、えみりにそういう心得はなかったようだ。


「うまいこと、全員が破滅する方法はないものかな」


 えみりが私をスケープゴートにしたことは、たぶんクラスメイトはみんなわかってる。

 だから、いじめられてても誰にも助けてもらえないのだ。

 まぁ、それはそれでいいだろう。

 もっとも、ホストの金ヅルになったいじめギャルの金ヅルとして売春までさせられるのはさすがにどうか。


 いじめギャルは、いじめについては、公になって制裁を受けるべきだ。

 ただ、いじめそれ自体を裁く法律はない。教師に叱られ、ちょっと停学になっておしまい。これでは罰が軽すぎる。

 もう一工夫が必要だろう。


 でも、いじめギャルは、ホストの件では被害者だ。


 ホストは、未成年者を食い物にして、金まで引っ張ろうとしてる。いじめギャルがえみりに売春させることを思いついたのも、ひょっとしたら男の入れ知恵かもしれない。

 この男は社会的に裁かれるべきだと思う。いじめとちがって、公になれば刑事罰を受けるはずだ。


 ついでに、いじめギャルと掲示板で知り合って女子高生と買春しようとしてるおっさん。こいつもどうにかしておきたい。


「……とりあえず、泳がせてみるか」

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