147 悪くも悪くもわが母校
「うーん。感慨があるようなないような……」
というのが、通ってた高校を見上げて思った感想だ。
市内ではいいほうに入る高校で、歴史もある。
煉瓦塀で周囲を囲われた中に、こんもりとケヤキが生えている。その奥に、灰色のコンクリートの校舎があった。
おおよそ、どこにでもあるような高校だと思う。
「いまの時間は……授業中か。ちょうどいいね。情報室を使ってなければいいんだけど」
通ってた学校とはいえ、忍び込むのはちょっとドキドキする。
いまは憎きグラマス加護のおかげで、見つかることは絶対にないんだけど。
「情報室は二階だったね」
転生してからそんなに経ってないはずだけど、意外に校内のことを忘れてる。
「あったあった。誰もいないみたいだね」
ドアを開けようとしたら鍵がかかってた。
「使わないときは施錠してるんだっけ」
情報室の備品が盗まれたことがあり、それ以来鍵をかけてるらしい。
「でも、こんな鍵なら……」
私は鍵に手をかざす。
エーテルを流し込んで鍵穴を探り、構造を把握する。
あとはエーテルの合鍵を作ってひねるだけ。
「ちょろいね」
カードキーとかだったら面倒だったけど、しょせんは学校の鍵だし。
私は中に入り、外からは見えない位置のパソコンの前に座った。
パソコンを起動すると、これまたなつかしい起動画面が始まった。
ようやく現れたログイン画面に、高校生時代のアカウント名とパスワードを入力する。
弾かれたらどうしよう。
ちょっとドキドキしたが、問題なくログインできた。
情報セキュリティとは無縁そうな情報の教師の顔が脳裏に浮かぶ。
「えっと、エルミナーシュと接続するには……」
幽世で他の存在に接触するときの要領だっけ。
私はエルミナーシュとインターネットをつなぐイメージを作ろうとする。
が、これが案外難しい。
インターネットとつなぐと言っても、それはこの端末とつなぐということなのか、どこかのサーバーにつなぐということなのか、あるいはもっと大雑把にインターネット網につなぐというていどのイメージでいいのか。
「あ、そうだ。こっちに来たときの感じをイメージしよう」
あの名状しがたい感覚を思い浮かべ、姿なき流れに乗せて、インターネットと魔王城のエルミナーシュシステムをつなぐイメージをする。
すると、目の前のパソコンの画面にプロンプトが開き、文字が浮かぶ。
>エルミナーシュからミナトへ
>地球のインターネットとエルミナーシュシステムの接続を確認した。
>大変な情報量があるようだが、何から調べるべきだろうか?
プロンプト画面には、アルファベットに無理やり直した向こうの言語が並んでいる。
「私は……書けるかな」
一応、オプションによる自動翻訳に頼らないでも済むよう、現地語の勉強もしてる。
私は苦労してアルファベットで向こうの言葉をタイピングする。
>検索サイトを使って。キーワードを打ち込めばページが見つかるから。代表的な検索サイトはここ
私はブラウザからアドレスをコピペする。
>だが、私には地球の言語がわからない
「そういえばそうだった……」
>言語の解析が必要だな。とりあえずは手当たり次第に調べてみることにしよう
>わかった。すぐに調べたいことがあったら、キーワードをこっちの言葉に訳すけど
>それは助かる。では……
私は、エルミナーシュが指定してきたキーワードを日本語と英語に訳す。
英語のほうはあやふやなので、その都度ネットで検索した。って、エルミナーシュに翻訳のやりかたを教えればよかったね。
>ありがとう。あとはこちらでやってみよう。いや、すでにやっているのだが、これは大変なシロモノだな
>こっちにいるあいだにまたネットをのぞくから。念のため、他の場所からも接続しておきたいし
インターネットとつなぐというのが具体的にどんな形で実現してるかわからないので、万一に備えて接続は複数用意しておきたい。
>わかった。アルミラーシュが言っている。無事でよかった、気をつけて、と
あいかわらずのアルミィに頬が緩んだ。
――そのとき、情報室のドアが開いた。




