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142 堅忠のハミルトン

「遅ればせながら馳せ参じました。魔王陛下、新魔王陛下、このたびは魔王城の復活、まことにおめでとうございます。このハミルトン、欣喜雀躍の想いを禁じ得ません」


 魔王城、謁見の間。

 といっても、広めのセレモニーホールのような空間だ。

 今後来客があることも見越して、シンプルながらかっこうのつくデザインにしている。たとえるなら、現代美術専門の美術館のようなこじゃれた感じだ。


 その謁見の間で、赤い全身鎧を着込んだ大柄な魔族が、片手を胸に当て、片膝をついて、時代がかった挨拶をする。

 もちろん、玉座の前に立つ私とアルミィに向かってだ。

 私はおもわずたじろいでしまったが、アルミィのほうは慣れっこらしい。


「ハミルトン! よく無事で!」


「ははっ。遅参つかまつったそれがしにはもったいなきお言葉にございます」


 ハミルトンは、人間でいうと壮年男性で、縦にも横にも大きい、がっしりした体格の持ち主だ。

 まさに歴戦の猛将といった風情がある。

 魔王に対しては忠義一徹で、部下に対しては豪放磊落。

 アルミィにとっては優しい伯父のような存在らしい。


 アルミィが顔を伏せたままのハミルトンに言う。


「面をあげてください、ハミルトン。

 ミナト、このかたが四天魔将だった堅忠のハミルトン。ハミルトン、彼女が、ともに魔王となったミナトです」


「お初にお目にかかります、新魔王ミナト陛下。それがしはハミルトン。堅忠などと呼ばれるのは面映ゆい未熟者にございます」


「あはは……まぁ、そんなに固くならずに。形式上の上司くらいの扱いでいいからさ。ハミルトンさんのほうが古株なんだから」


「なんとも寛大なおかただ。それにしても、アルミラーシュ様と本当によく似ていらっしゃる」


「見た目が?」


「それもむろんですが、なにより魂の形が似ておられますな。おふたりが惹かれあったのもうなずけます」


 なんだか結婚式の新郎と新婦になったみたいだけど、魔族の多くは同じような意見らしい。

 なお、新郎はたぶん私のほうで、新婦はアルミィだろう。べつに結婚したいわけじゃないんだけど。


(最初は近親憎悪だったけど、慣れてきたら楽なんだよね)


 人間は互いに違ってるからこそおもしろいのだって意見もあるけど、共通部分があってこそ違ってる部分を楽しめるんだと思う。

 その意味ではやっぱり共通部分が多いに越したことはない。


「ハミルトンさんは、南大陸で散らばった魔族たちを集めてくれてたんだよね」


 聞いたところによると、ハミルトンさんは双魔王の名で魔族宛てに出した布告を知り、各地に散ってた魔族たちを集めてくれてたらしい。


「は。この世界に受肉し、闘争を開始せんとしていた矢先でしたからな。説得に手間取り、お時間をいただいてしまいましたが……」


「むしろよく説得できたと思うよ……」


 魔族たちは、グランドマスターに幽世に追放され実体を失ったことで、うらみの感情に凝り固まっていた。

 地上人の肉体を乗っ取る形で地上に進出した彼らは、まさにこれから、地上に魔族の国を築こうとしていた。

 ボロネールのように、自分たちの国を築いてそれを守れればいいという穏健派もいるが、多数派はむしろ、「人間どもを根絶やしにして地上を魔族のものに!」という主戦派だったらしい。


 そうした主戦派の一画を、ハミルトンは持ち前の胆力で説得して連れてきた。

 ハミルトンを迎えにいったボロネールの報告では、実に十数人の魔族を連れてきたという。

 受肉した魔族はいまのところ百を超えないというから、短い時間でその一割以上を集めてくれたことになる。


「しかし、なかにはあくまでも人間と戦うと申す者もおり、すべての魔族を連れてくることはできませんでした。このハミルトン、不徳のほどを恥じ入るあまりです」


「そ、そんな! ハミルトンさんはよくやってくださいました」


「そうだよ。正直、私たちが直接出て行っても説得は難しかったんじゃないかな」


 私たちが直接出て行く、というのは、説得して聞かなければぶん殴って連れてくるってことでもある。


「ついてこなかった人たちはどうしてるの?」


「ひとまず、情勢が見えてくるまで行動を待ってもらうよう説得はいたしました。いまのところは聞いてくれておりますが、それがしの目が及ばなくなればいずれは血気にはやるやもしれませぬ」


「困ったな……」


 はっきり言って、魔族はすでに人間にとっては許されないようなことをやってしまっている。

 肉体を奪って受肉した時点で殺人だし、その後テロに近い行動を起こしてる魔族もいる。

 それを受け入れると宣言するのは、魔王国にとってもリスクだった。

 でも、魔族のためを思って行動した魔族たちを切り捨てては、魔王国の存在意義がなくなってしまう。


 また、そうして魔族を受け入れることで、各国は魔族による騒擾を心配しなくてよくなる。

 ……もっとも、この理屈は人間たちにとってはマッチポンプもいいところだ。

 ガーディアンシステムが役に立つってことを早く見せて、民衆レベルの支持を取り付ける必要があった。


「やりすぎた魔族については、魔王国で落とし前をつけなくちゃいけないからね」


 戦争でも、戦争犯罪は裁かれる。

 もちろんこの世界にハーグ協定なんてないから、その線引きは魔王の裁量になってしまうんだけど。


「それがしもなるべく説得はいたしますが、憎悪に凝り固まった魔族は多いです。その忿(ふん)を解くのはたやすいことではございません」


「うん、無理を言ってることはわかってる。この路線は、魔族からも恨まれるし、人間からも恨まれる。だから、それを上回るメリットがあることを、わかりやすく示してかなくちゃいけないんだ。

 だけど、それでも納得しない魔族や人間はどうしたっているよね」


「ミナト陛下。そうした場合にはどうなさるおつもりで?」


「しかたないよ。全員が納得することなんてありえない。裁くべきは裁き、補償できることなら補償する。

 その意味では清濁を併せ呑むしかないけど、大義を忘れちゃいけない」


「大義、ですか」


「うん。すべての(・・・・・・・)人生をイージー(・・・・・・・)モードに(・・・・)。それが私の掲げる大義だよ」

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