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141 天が落ちてくるんじゃないかと心配だ

 セレスタで船をチャーターしてキエルヘン諸島に戻り、そこから転送遺跡経由で魔王城エルミナーシュに帰還した。


「あ、おかえり、ミナト」


「ただいま、アルミィ」


 自分に似た顔に出迎えられ、私はそう挨拶する。


(やっぱりかわいいな)


 アルミラーシュさんは控えめに言って美少女だと思う。

 透き通った水色の髪と瞳ってだけで、同じ顔のはずなのに印象がちがう。


(でも、アルミィの見た目を褒めるとそれに似た自分のことを遠回しに褒めてるみたいで落ち着かない)


 自分が美少女だと思ったことなんてこれまで生きてきて全然ないんだけど。


「セレスタはどうだった?」


 アルミィが聞いてくる。

 ここは、魔王城の一画に設けられた、私とアルミィの共同スペースだ。

 といってもべつに同棲してるわけじゃない。魔王同士の打ち合わせのために用意してもらった場所だった。


 アルミィはコーヒーメーカーで淹れたコーヒーを二つ持って、ダイニングテーブルの上に置く。


「ありがと。まぁ、ひとまずは予想通りだったかな」


 あの後、私は三日ほどセレスタに残った。


 ハリエットさんの返事待ちというのもあるけど、各地に散らばる魔族の情報を集める目的もあった。


 情報通のジットさんを雇い、魔王国の出先機関としてセレスタに大使館|(仮)を置いた。

 行き先をなくした希望の村の村長さんを口説いて大使になってもらい、以降のセレスタとの窓口になってもらった。

 村長さんは元セレスタの海軍軍人で、二十数年いなかったにもかかわらずあっちでの人望は厚い。


 そんな体制を大急ぎで作っていると、二日とおかずにハリエットさんから返事があった。


「国として認めるかどうかはまだ決められないって。でも、海軍の艦船を派遣して魔王国側と領海の確認をおこないたい。ついては魔王国側からも船を出してほしいって」


 国として認めないのに領海の確認というのはちょっと変だ。

 どうも、口実を設けてこっちの海軍力を測ろうとしてるみたい。


「船、かぁ。あれを出すしかないのかなぁ」


 アルミィが小首をかしげて言う。


「水空両用艇しかないんだよね。ふつうの船を出したかった」


 魔王城エルミナーシュが保有している海上用の乗り物は、輸送用飛行機に浮足をつけた水空両用艇しかない。

 積載量はセレスタの輸送船にも劣らない。空が飛べる分、船より便利なのはあきらかだ。


「この世界には飛行機なんてないし。船が空飛んだりしたら領海どころの騒ぎじゃないんだよなぁ」


「セレスタ海軍からすれば、威圧されてるように感じるだろうね」


 私のぼやきにアルミィがうなずいた。


(だって、空飛ぶ船だよ? オケアノスやクラーケンよりよっぽど脅威じゃん)


 水空両用艇には、当然のように爆弾が積める。

 航続距離もそれなりにあって、セレスタは十分往復圏内に入ってる。燃料タンクを追加で積めば、霧の森くらいまでは行けるらしい。

 なお、水空両用でない専用の戦闘機や爆撃機も他にある。


「だけど、せっかくあるものを人目を気にして使わないのももったいないしね。今後セレスタとの往復が増えると考えると、転移の遺跡と船じゃ大変だ」


 そう思えば、いまのうちに見せてしまったほうが面倒がないかもしれない。


「セレスタが魔王国から得たいものは、海路の安全の保障かな。あと、今後北方のミストラディア樹国が攻めてきた時の後方支援だろうね」


「えっと、いずれにしてもこっちの実力を見せておいて損はないってこと?」


「うん、まぁ、セレスタと樹国の戦争で、どっちかに与する気はないんだけど」


 樹国には、霧の森で出会ったシェリーさんたち姉弟もいる。

 樹国は樹国で、北の大国ザムザリアに対処する必要が出てくるはずだから、セレスタにかまってる余裕はないかもしれない。

 でも逆に、ザムザリアと戦うためにも、セレスタの富と海軍力に目をつけるかも。


 そこで、部屋のスピーカーから声が聞こえる。


『ミナトよ。それならばいっそ、両国を魔王国の支配下に置いてしまえばよいではないか。戦力の差は圧倒的だ』


 魔王城を管理する魔法知能エルミナーシュが言った。


「いまはまだその時じゃないよ。魔族が世界中で暗躍しようとしてて、各国がピリピリしてる。そんな時に魔王国が強硬策に出たら、各国は反発する。軍はもちろん、冒険者や民間人まで敵に回すことになる」


「そうなったら、せっかくのガーディアンシステムも普及しないだろうね」


「それどころか、従来のグランドマスターシステムに人が流れ込むと思うよ。そうなったら神様の思うつぼだ」


 私たちは、従来の冒険者を支えるシステム――グランドマスターシステムに代わるものとして、守護者ギルドとガーディアンシステムを提唱しようとしてる。

 そうすることで、一部種族の犠牲のもとに成り立ってた冒険者という仕組みをゆっくりと解体し、守護者という新しくて公平な仕組みに乗り換えてもらいたい。

 だから、いまはまだ、世界にケンカを売るような真似はしたくない。


 アルミィが不安そうに言った。


「神は、こっちの動きに気づいてるのかな?」


「たぶんね。魔王城が復活したことは絶対わかるだろうし。でも、それに対してどんな手を打ってくるかはわからない」


 私がいちばん心配してるのは転生だ。

 私をこっちの世界に連れてきたように、地球から新たな人間を見繕って転生させ、魔王に向かってけしかけてくる可能性がある。


『ミナトの心配している転生だが、そう簡単にできることではなかったはずだ。世界の境界を超えられる魂の持ち主は限られている。それこそ、魔王の素質を持つレベルの者でなければ難しい』


「いや、私でなんとかなったんだから、他にいたっておかしくないんじゃないかな」


『ミナトは自己評価が低すぎる。

 それに、もしミナトの世界にそんな者がいたとしても、だ。ミナトを転生させてからまだそんなに経ってない以上、次の転生者を呼び込めば世界の境界を危うくする。境界が揺らいだ時、真っ先にダメージを受けるのは境界のもっとも近くにいる存在――すなわち、神自身だ』


「そういうもんなんだ」


『そういうものなのだ』


 この会話は何回かしてるんだけど、いまだに納得できていない。

 私は自分が特別だと信じることができないので、私ができたのなら他の人もできるはずと思ってしまう。


「神が他に打ってきそうな手は何かな?」


 アルミィが言った。


「いまさらだけど、神って何ができるの?」


『神には個別の事象に干渉することはできない。神にできるのはルールの変更だけだ。冒険者に力を与えるグランドマスターシステムの改変を行ってくる可能性が最も高い』


「冒険者がいきなり強くなるとか?」


『いきなりではないだろう。モンスターを倒して得られる力やドロップアイテムの等級が上がり、長期的に見て冒険者の戦力が増す。そのような形を想定している』


「でも、それってそんなに簡単にはできないよね? ドロップアイテムだって何もないところから出てくるわけじゃないし」


『神はシステムを安定させるためにいくらかの余力を残しているはずだ。その余力を投入してくるおそれがある。エルミナーシュシステムの推定では、2割から5割ていどの余力があると思われる』


「経験値とドロップアイテム1.5倍キャンペーン、か」


 そう聞くとなんかショボそうだ。

 これがオンラインゲームの宣伝だったら、「どうせなら3倍くらいにしてほしい」と思ってしまいそう。

 そのていどなら、私が難易度変更で荒稼ぎするほうがよっぽど早い。


 なお、いまのところ、神からもらった「難易度変更」の力は問題なく使えてる。

 一度与えたものを取り上げることはできないのかもしれないね。


(まぁ、いまさら取り上げられたところで問題はない。十分強くなったし、アイテムもかなり蓄えた。魔王としての力まであるんだし)


 私はコーヒーをすすってから言う。


「うーん……そう聞くと、神のことはそんなに心配しなくてよさそうな気もするんだけどね」


『だからそう言っている』


「わからないよ? 人からうらみを買うのって怖いんだから。たいした力なんてないはずの相手だって、うらみを晴らすためなら思わぬことをやってくる」


 私たちがやろうとしてるのは、神からの世界の簒奪だ。

 神の存在意義自体を否定しようとしている。

 あのおちゃらけた神だって、黙って見てるとは思えない。


 私の言葉に、アルミィとエルミナーシュが黙り込む。


『……む? ボロネールから連絡だ。どうやら、探し人が見つかったようだ』


 ボロネールは、私とグリュンブリンが戻ったのと入れ替わりに、南大陸へと向かっていた。

 目的は、ある人物――いや、魔族を見つけること。


「ハミルトンさんが見つかったんだね!」


 アルミィが明るい声でそう言った。

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