10 冒険者とは
「そもそも、冒険者とはなんでしょうか?」
神父さんが面倒なことを聞いてきた。
「ええっと、日雇いで危険な仕事を引き受けて食いつないでる人たちですよね?」
「そ、それもまちがいではありませんが⋯⋯若いのにロマンがありませんね」
神父さんが困ったように言った。
しまった、率直に答えすぎたか。
(それじゃただのブラック企業だね)
まぁ、まちがいなく3Kきわまりない仕事だと思うんだけど。
神父さんが咳払いして言う。
「稼業としての冒険者には、たしかにそういった側面もあります。それはもう、いやというほどありますよ。
しかしそもそも、最初の冒険者であった三人のギルド創始者たちは、日銭を稼ぐために冒険者をやっていたわけではありません。
読んで字の通りの『冒険者』――危険を冒し、未知の領域を探索することを夢見た夢想家たちなのです」
「ええっと⋯⋯」
話が壮大になってきたな。
私の興味なさそうな様子に気づいたらしく、神父さんが苦笑する。
「あなたには関係のない話かもしれませんね。かいつまんで説明しましょう。
その、最初の冒険者であった三人こそ、冒険者三大ギルド――戦士ギルド、魔術士ギルド、盗賊士ギルドの創始者なのです。
三人はギルド創設以来、冒険者の役割分担の模範とされています。
のみならず、創始者三人は現在では冒険者の守護神となっています。冒険者の経験にあわせてさまざまな恩恵を授けてくださる、まことにありがたい存在なのです」
「恩恵⋯⋯ですか?」
「ええ。三大ギルドに忠誠を誓うことで、冒険者として活動するのに必要な技や勘、心得のようなものが身につきやすくなるのです」
「⋯⋯本当ですか?」
宗教というものを疑ってかかる習慣の私はおもわず聞く。
神父さんが小さく息をつく。
呆れてるというよりは⋯⋯なぜだろう、感心してるようなニュアンスだ。
「若いのに慎重なかたですね。
実際、無所属の冒険者もいないわけではないので、くらべてみるとわかります。ギルドを辞めたときには実力のあった冒険者が、ギルド所属の冒険者に一年で追い越された――そのような話がいくらでもあるのです。
疑うのなら、聞きこみをなさればすぐわかります」
「いえ、大丈夫です」
本当はちょっと疑ってるが、ここでそれを見せてもいいことはない。
「では、さきほどのあなたの疑問にお答えしましょう。
盗賊士は盗賊とはちがいます。あえて盗賊士などという誤解を招きやすい名前を名乗っているのは、盗賊士ギルドの創始者が生涯いち盗賊と名乗られていたことを記念してのことです。さすがに盗賊のままでは聞こえが悪いので、他のギルドにあわせて盗賊士としたのですね。創始者は孤児で盗賊出身だったそうですが、冒険者としてパーティに欠くべからざる働きをしたと言われています。また、冒険者となってからは一切の犯罪行為から足を洗ったとのことです」
本当かな?
疑り深い私はそう思ったが、顔色を見られないうちに質問する。
「盗賊士ってなにをするんです?」
「パーティから先行しての物見、施錠された扉や宝箱の解鍵、罠の発見および解除などですね。
小柄で、身軽なものに向いています。適正を見なければわかりませんが、あなたには向いていそうです。一般に、警戒心の強いかたに向いてますね。
ああ、皮肉ではありませんよ? 本当に、盗賊士に向いているのです。警戒心のない盗賊士なんて寒気がします」
神父さん、ぶるぶると身震いをする。
「ギルドへの登録はどうすればいいんですか?」
「この街には戦士ギルドと盗賊士ギルドがあります。そのどちらかなら、適正を見てから行ってもらえば大丈夫です」
「試験や資格はないんですね?」
「守護神である創始者が適正ありと判断するのです。それに異議を挟めるものなどいませんよ」
なるほど。
それなら、ギルドに登録に行く→いちゃもんをつけられてケンカになる→相手を倒して認めさせる⋯⋯みたいな、無駄に目立つお約束のコンボはなさそうだ。
「ご質問がなければ、適正診断に移りましょう。なにかございますか?」
「ギルドに忠誠を誓うっていうのは、どういうことなんですか? 義務や束縛があったりしませんか?」
「ご心配なく。形式的なものですよ。仕事をどのギルドから受けるかといった差はありますが、束縛はありません。
創始者であり守護神である最初の冒険者たちは、なにより自由を好むかたがたでした。むしろ、おかしな束縛などすれば神に罰せられますよ。
もちろん、モンスターの大群に街が襲われたというような危急の場合はべつですが、そのようなときも十分な報酬が約束されています」
「そういうことなら」
というわけで、私は冒険者としての適正を見てもらうことになった。
⋯⋯不覚にも、ゲームみたいでちょっとわくわくしている自分がいた。