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不幸少女は二度目の人生でイージーモードを望む。  作者: 天宮暁


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127 壁との対話

『そもそも、魔王陛下は人間どもの増長を防げなかったことを悔いておられた』


「そりゃそうだろうね」


 自分が作ったはずなのに、その制限を超えて残虐な種族が生まれ、他の種族を虐げるようになってしまった。


『しかし、もはや世の中は人間のものとなり、魔王陛下にも世界を再改変できる力は残っていなかった。

 よって、魔王陛下はみずからの後を継ぐものを、人間から選ぶしかないと判断された』


「苦渋の決断だろうね」


『魔王陛下が世継ぎに望まれたことは二つだ。

 平穏を望む強い意志と、それを実現してのける強力な力。

 しかし、平穏を望む者ほど力を持たず、力のある者は平穏を望まぬ』


「まぁ、一般論としてはそうかな」


 平穏を望む人が戦いの技術を磨くことに明け暮れるというのは珍しいパターンだろう。

 逆に、自分が力を持ってる側だったら、あえて自分の力を発揮できない平穏を望むには、なにかよほどの信念がいる。


 「汝平和を望むなら戦争に備えよ」なんて金言があるけど、これが金言になるのは、平和な時に戦争の準備をする気にはなかなかならないからだ。

 ついでに言うと、そうした軍備拡張が隣国の疑心を買って軍拡競争に突入し、その結果として戦争になることもある。

 無防備でも攻撃を招くが、がちがちに軍備を増強しても、それはそれで攻撃を招く。

 この悩ましい問題は、地球の人類もまだ解決できていない。


『エルミナーシュ・システムはこの難題について繰り返し思索をおこなった。その結論は、『戦いにあって、敗れ去った者への慈悲を忘れぬ者』ならば条件を満たしうるのではないか、ということだ』


「なるほど……」


 平家物語でまだ幼い敦盛を泣く泣く討ち取った武士なんかが思いつく。まぁ、脚色はされてるんだろうけど。


『汝は、神の使徒にもかかわらず、人々の無念に涙し、寄り添うことを忘れなかった。

 魔王陛下の御杖であった『無念の杖』が汝の手元にあるのがその証拠だ』


「ええっ!? これってそんなすごいものだったの!?」


 私はアビスワームの胃袋から無念の杖を取り出した。


『その杖は、いまの状態では真価を発揮していない。グランドマスターどもの世界改変によって単なる『ドロップアイテム』にされてしまっている。

 よく見よ、その杖とこの柱の材質は同じはずだ』


 言われて(書かれて)、私は杖と目の前の柱を見比べる。

 杖はまがまがしい形状で、柱は極限までシンプルなデザインだが、言われてみれば色合いといい手触りといいそっくりだ。


「道理で使い勝手がいいわけだ。イムソダの残滓を吸い取ってもパンクする気配もなかったし」


『魔王の器であるその娘――我エルミナーシュ・システムと対をなす魔王陛下の偉大なる遺産アルミラーシュもまた、汝に惹きつけられたようだな。

 アルミラーシュは魔王陛下の精神性を高い精度で保存しているが、それは汝の精神性と極めてよく似通っている』


「私とアーシュがそっくりなのは?」


『汝は転生し、この世界にその存在を刻んできた。

 魔王陛下の本来のお力は世界そのものに等しいもの。

 世界にもっとも強く刻まれていた容貌を、アルミラーシュは受肉の際に無意識に参照したのだろう。

 受肉した地点が、汝の影響が大きかった地点に近かったせいもあろう』


 ある程度は偶然で、ある程度は必然だと。

 なんとも壮大な話になってきたな。


「……あなたの言うことが本当だとして、あなたは私に何を望むの?」


『魔王となり、世界をあるべき姿に戻すことを』


「神がいなくて、人間以外の種族も平和に暮らしてて、モンスターがただの獣でいられるような世界?」


『それは過ぎ去った過去の世界だ。失敗した世界でもある』


「じゃあ、どういう世界が理想なの、エルミナーシュさん」


『わからぬ。それは汝が決めること』


「いや、そんなことぶん投げられても困るんだけど」


 私はアーシュをちらりと見る。


 アーシュはこれまでの話に衝撃を受けているようだった。

 シュモスは私が壁と会話するのを(っていうとなんか変な人みたいだけど)、古代魔族語を翻訳してアーシュに教えてくれていた。


「エルミナーシュさん、シュモスのことについては何か知ってる?」


『知らぬ。グランドマスターどもに滅ぼされたはずの古代魔族語を知っているのは異なことだ』


 壁さんにも匙を投げられた。


『さて、それでは試練の続きだ』


「あ、まだあるんだ」


『むしろ、ここからだ。汝には神を圧倒するほどの力を示してもらわねばならぬ。我が与えるのではない。汝が示すのだ』


「いやぁ、無理なんじゃないかな……」


『できなければ、神の使徒として死ぬがよい。我はどちらにせよ困らぬ』


 冷たい言葉とともに、私たちの足元に転送法陣が現れた。

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