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9 冒険者教会

「本当に教会なんだ⋯⋯」


 私は大きな石造の建物を見上げながらつぶやいた。


 重厚な扉、苔むした壁、瓦屋根の上には鐘楼がある。


 翌朝、私は売られた仔牛亭を出て、 昨夜門番さんから聞いた冒険者教会にやってきた。

 場所は仔牛亭におかみさんに聞いた。

 教会で寝床が用意してもらえるかもということだったが、念のため、仔牛亭にほうにも部屋は予約してある。ちょうど滞在を終えて出てく人がいたそうで、今晩はちゃんと人様用の部屋で眠れることが確定した。


(お金は、一応あるし)


 ゴブリンの巣窟から持ってきたお金がそれなりにある。

 昨日の宿賃からすると、今の私はそこそこリッチということになりそうだ。


(でも、稼がないと。いつ不幸な目に遭うかわからないし)


 お金なんて、なくなる時はあっというまになくなるものだ。


(それに――)


 目標もできてしまった。


 私に、そこまでする義務があるわけじゃない。


 でも、やっぱり放ってはおけない。


(そのためには、この世界の冒険者について知る必要がある)


「あはは⋯⋯入るしかないね」


 私は緊張のあまり笑いながら、教会の扉を押しひらく。


 教会のなかは――だいたい教会だった。

 これじゃ説明不足かな。

 地球のキリスト教の教会とよく似た雰囲気で、手前に木の長椅子の会衆席があり、それに向かいあうかたちで説教壇がある。


 母親が信者だったので、私はよく教会に連れてかれた。

 もっとも、その教会はカトリックやプロテスタントではなく、新興のキリスト教系新宗教で、理不尽なことがたくさんあった。宗教上の理由で病院に行くのを禁じられ、インフルエンザで死にかけたりとか⋯⋯。

 まともな宗教も、世に中にはたくさんあると思うけど。


 微妙にトラウマが蘇り、私はその場に立ち尽くす。


「ーーどうされました?」


 声のほうを向くと、そこには若い神父風の男の人がいた。

 神父さんは説教壇脇の木の扉から礼拝堂に入ってきたところだ。

 黒縁の眼鏡をかけた実直そうな人だ。

 紺色の神父服に身を包んでいる。


「あ、いえ⋯⋯なんでもないです。ええっと、ここは冒険者教会であってますか?」


「はい、ここは冒険者教会です。どのようなご用件でしょう?」


「冒険者になりたくて。適正検査も受けられると聞きました」


 祝福は⋯⋯どうしようかな。


 神父さんは顔をしかめた。


「あなたのような若い女の子が冒険者とは⋯⋯まったく、困った世の中だ。しかし、事情を詮索しないのが教会のルール。本気でやるというのならお手伝いしましょう」


 よかった、見た目で門前払いされたらどうしようかと思ってた。


「お名前は?」


(みなと)です」


 姓は、とりあえずは黙っておこう。

 貴族しか姓が名乗れないとか、そういう設定はファンタジーではありがちだ。


「変わったお名前ですね。

 ああ、いえ、詮索はしませんよ。

 では、ミナト。教会で祝福を受けたことは?」


「ありません」


「それはよくない。最悪のことなど想像したくないのはわかりますが、教会ではすべての女性利用者に祝福を受けることを推奨しています」


 門番さんと同じお説教をされてしまった。


「すみません、機会がなくて。検査と一緒にお願いします」


「わかりました。では、祝福から。祭壇の前に座って、神に祈りをささげてください」


「神に⋯⋯?」


 あのちゃらんぽらんな神に何を祈れと?


「⋯⋯なにか、神を怨む理由でもあるのでしょうか。若い身空でご苦労なさっているようだ」


「い、いえ⋯⋯大丈夫です」


 母に教会に連れていかれ、祈れと命令されてたので、心にもない祈りをささげるのには慣れている。


「おお、神よ、この善女に祝福を授けたまえ」


 声にあわせて、急にオルガンの音がして驚いた。

 薄目で見ると、祭壇脇にあるオルガンを青年神父が弾いていた。


(この演出、いるのかな?)


 疑問に思いつつ待ってると、オルガンを弾き終えた神父が言う。


「はい、祝福はこれで授かれました」


「え、もうなんだ」


「簡単なものでしょう? あまりに簡単すぎて実感がないとよく言われるので、オルガンを合わせることにしています」


 神父がいたずらっぽく言った。


「あ、演出だったんだ」


「信仰の九割は小さな演出の積み重ねですよ。ですが、一割はちゃんと本当です。この世に神はいまします。信心せよとは言いませんが、知っておいていただきたかったので」


「ああ、どうも」


 祈りに気持ちがこもってないことがバレたかな?

 母親が入れあげてた宗教では、聖女様としてかつがれそうになったくらいの祈りっぷりのはずなんだけど。


「さて、適正診断ですね。

 そのまえに、適正についてお話ししましょう。

 ミナト、あなたはどこまでご存知ですか?」


「ええっと、どこまで、というのは⋯⋯?」


 何も知りませんと言うのは気が引けたので、あいまいにぼかしてそう答える。


「冒険者には三種ある、ということはさすがにご存知でしょう。

 戦士、魔術士、盗賊士の三士ですね」


「盗賊士⋯⋯? 盗賊って冒険者なんですか?」


「とんでもない! 盗賊と盗賊士は別物ですよ!

 とはいえ、実際よく混同されがちなところですからね。

 それでは、まず、三士の由来からご説明しましょう」


 話が長くなりそうな前置きとともに、神父さんが咳払いをした。

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