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124 強制煉獄送り

「ここだ! ここが『杭』の正面になるはずだ!」


 探検家シュモスがそう言った。


「なんでここが正面だと?」


 私が聞くと、


「杭はのっぺりしてて前後がわからないが、周辺の遺跡の分布からするとこの辺りが正面のはずなのだ」


 意外とちゃんとした理由が返ってきた。


 いま、私とアーシュは、探検家シュモスと冒険者たちを連れて杭の根元までやってきてる。


 そのまえに、私とアーシュが発見されたという「開かずの間」も見せてもらったが、床に焼けたり溶けたりしてる転送法陣の跡があった以外は何もない直方体の部屋だった。


 というわけで、手がかりはいよいよ目の前の「杭」――天高くそびえる黒い巨塔だけとなった。

 杭はオベリスクのように先端に向かって尖ったデザインで、頂点はたぶん三百メートルは超えている。

 東京タワーを根元から見上げたのと似たような首の角度になるからだ。

 もっとも、東京タワーが末広がりなのに対し、杭は地面に対し80度くらいの急斜度でそそり立ってるので、見た目の印象はだいぶ違う。


「じゃあ、アーシュ」


「うん」


 私が促すと、アーシュは前に出て、杭の継ぎ目のない黒い壁面に手を触れる。


 そのまま、数十秒の時が経った。


 ゆっくりと、アーシュが振り返る。


「ええと……何もわかりません……」


 私たちが揃ってずっこける。


「うーん……本当に何も?」


「うん。何も起きないし、何も感じない」


「エーテルは?」


「この杭がエーテルを凝固させて造られたってことはわかるかな。……ええと、私の身体と同じってことだけど」


 後半は、私にだけ聞こえるようにアーシュが言った。


「こんなものを造ったんなら、やっぱり古代魔王の線でよさそうなんだけどなぁ」


「うん、それはまちがいないんじゃないかな」


 うなずくアーシュを尻目に、私も壁に近づいてみる。


 といっても、私が見たかったのは壁じゃない。


 ミニマップだ。


 ミニマップは薄い壁なら向こう側の様子も表示される。

 もし杭の中がダンジョンなら、ミニマップに中の様子が映らないかと思ったのだが……


「ううん。ダメか。っていうより、ミニマップが変だ……」


 単に距離の問題で映らないのではない。

 映るはずなのに、もやがかかったように霞んでる。


(ミニマップはあのちゃらんぽらん神からもらった力。もしここが魔王の遺跡なんだったら、神の力が阻害されてるってこと?)


 そんなことを考えつつ、私はなんとなく壁面に触ってみる。


 継ぎ目のないつややかな壁面だ。


 その壁面をすうっとなぞると、そこに青白い文字が浮かび上がった。


「な、なにっ!?」


 あわてた私に、みんなが集まってきて壁を見る。


「むう。このような現象は初めてだな」


 と冒険者の隊長さん。


「知らない文字ですね。エルフの文字とも違うと思います」


 これは冒険者の魔術士さんだ。


「アーシュ、ひょっとして読める?」


 私は一縷の望みをかけてアーシュに聞いてみるが、


「ううん。……というより、幽世に文字はないから、これが古代の魔族の文字だったとしてもわからないよ」


 アーシュは首を振り、ささやき声でそう補足した。


「うーん、弱ったな……。って、そうだ」


 オプションで言語を選択すればひょっとして。

 私がそう思いつき、実行に移そうとしたところで、意外な人物が声を上げた。


「『汝、真の知識を求めるか?』」


 いきなりそう言ったのは――探検家シュモスだった。


 全員の視線がシュモスに集まる。


「よ、読めるの?」


「探検家シュモスの日誌には、古代の遺跡で見つかった碑文から解読された古代語の知識が記されている。この文字はグランドマスターが現れるより前の時代の遺跡から見つかったものと類似している」


「えっ……」


 村長さんによれば、探検家シュモスことミーチャさんはもとはただの密航者で、過酷な現実に耐えかねて自分は探検家であると思いこむようになったって話だったけど。


(探検家としての知識が本当にあるの? いや、でまかせを言ってるだけの可能性も……)


 私はひさしぶりにオプションを開き、



言語設定【現在:ヒト語】

 日本語

▷ヒト語

 エルフ語

 ハイランドエルフ語

 ドワーフ語

 ドラゴン語

 ゴブリン語

 獣人語

 精霊語

 古代魔族語(NEW)



 新しく増えてた古代魔族語を選択する。


 そしてさっき現れた文字を見てみると、


「……ほ、ほんとだ」


『汝、真の知識を求めるか?』

 現れた文字はそう読める。


「おい、ミナト。シュモスの言ったことは本当なのか?」


 隊長さんが聞いてくる。


「え、あ、うん。そうみたい」


「だが、なぜミナトはそれがわかったんだ?」


「ま、魔法で解析したんだよ……」


「そんなことができるのか?」


 魔術士の冒険者がちょっと疑うように聞いてくる。


「でも、変だな。アーシュが触った時は何もなかったのに」


 私がそうつぶやくと、


『その娘には魔王たる資格がないゆえに』


 と文字が出た。


「アーシュに魔王の資格がない?」


 いや、そんなはずはない。

 私がアーシュに徹頭徹尾だまくらかされてるのでもない限り、アーシュが魔王の転生体であるのはまちがいない。

 すくなくとも四天魔将であるグリュンブリンがそう思ってることは確実だ。


「っていうか、アーシュに資格がなかったとしても、私に反応するのはおかしいんじゃ?」


『汝には魔王になりうる素質がある』


「いや、ないってば!」


 いきなりとんでもないことを言い出した(書き出した?)文字におもわずぶんぶんと首を振る。


『だが、同時に汝は忌々しき神の使徒でもある。魔王陛下直々のご構築に預かりし我――光栄あるエルミナーシュ・システムは、汝を魔王候補として受け入れるのにためらいを覚えている』


「いや、受け入れなくていいけど。たんにここから出る方法を教えてくれればいいだけで」


『魔王にならぬのなら、神の使徒を見逃すわけにはいかぬ。

 よって、映えあるエルミナーシュ・システムは、汝を煉獄へと誘い、その資質を判断することとした。生き残れば素質あり。死ぬならば神の使徒が一人減る』


「いやいやいや、待って! 煉獄とかそういうのいらないから!」


 私が抗議する間もなく、私たちのいる地面に、巨大な転送法陣が現れた。


「に、逃げて!」


 私の言葉に、冒険者たちが飛び退いた。


「おおおお! 探検家シュモス・アリバーンは古代の技術を目撃した! なんという規模の転送法陣! しかもそれを操るのは人間ではなく意思ある『システム』なのだ! 『システム』とは古代魔族語特有の概念であり、世の中の仕組みや成り立ちを表す複合的な意味合いを持っている! 後世ではこの概念自体が失われたためその正確なニュアンスを把握することは現代のわれわれには難しいが――」


「シュモスも! 逃げて!」


 地面に座り込み、恍惚の表情で語るシュモスにタックルをかけ、突き飛ばそうとする。


 狙い通りにシュモスは吹っ飛んだのだが、転送法陣が私に追従してきたせいで、シュモスの吹き飛んだ先もまだ陣の中だった。


「アーシュは――」


 あわてて振り返ってみると、いきなりの展開に驚いたアーシュは何もないところで転んでた。もちろん、転送法陣の範囲内だ。


 壁に、文字が浮かび上がる。


『神の使徒でありながら魔王の素質を持つ娘よ、煉獄にて汝が身の証を立ててみせよ』


 次の瞬間、巨大転送法陣からまばゆい光が溢れ出す。


「私は……ヌルゲーがいいんだあああああっ!」


 絶叫とともに、私はいずこかへと転移させられていた。

作品タイトルの変更に伴い、サブタイトルを「イージーモードを望む(望みが叶うとは言ってない)」から「強制煉獄送り」に変更しています。

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