123 へそ考察
「ええと、じゃあ私の話に戻ろうか」
シュモスの話を聞き終え、私は本題に戻ることにする。
「外へ出られる転送法陣があるかもしれないって話だったな?」
冒険者の隊長さんが言った。
「うん。シュモスの話だと、私たちが行きに使ったところはもうダメみたいだけど、同様の施設が他にもあるはず」
「だが、探検家シュモスはへそのあらゆる地点を確認済みだ。もしあるとするなら――」
「そうだね。『杭』の中ってことになる」
シュモスの言葉を引き継いで言う。
「しかしあそこには入れないんだぞ」
「それについては、アーシュの出番だね」
「ふへっ!?」
いきなり名前を出され、うわの空で話を聞いてたアーシュが変な声を出した。
……私と似たような顔で変な声を出さないでほしい。
「アーシュは特別な素養を持った魔術師なんです。戦いは苦手ですが、魔王の遺跡を調査するには彼女の力が欠かせません」
「ほう……」
みんなの視線がアーシュに集まった。
アーシュは見るからにおたおたしてて、そんなすごい魔術師には見えそうにない。
「ミナトがそう言うならそうなんだろう。つまり、ミナトとアーシュで杭の入り口を開き、内部を探索する、と?」
隊長さんが聞いてくる。
「そういうことだね」
「しかし、魔王の遺産か。それが本当なら、へそなんてもんがあるのも魔王のせい、俺たちがこうして外から隔絶した場所に閉じこめられてるのも魔王のせいってわけだ」
冒険者の一人がそう言った。
その言葉にアーシュがびくりと身を震わせる。
「それはまだわからないよ」
「どうしてだ?」
「冒険者のみんながここで身につけた妙な力。それがグランドマスターの加護じゃないっていうなら、その力を与えてるのは……」
「なっ……魔王だって言うのか!?」
「他にいないしね」
「だが、なんのために?」
「古代の魔王はもう滅んでるはずだから、その力の残滓なんだろうけど、この場所に住む者たちを守ってるみたいに見える。理由まではわからないけど」
私の言葉に、一同が黙りこむ。
隊長さんが言った。
「一方では『杭』の入り口を閉ざし、一方では力を与えてる。もちろん、渦潮を作ってるのもその力なんだろう。だが、渦潮でへそに人を巻きこむような真似をしておきながら、肝心の万物館とやらには入れない。そのくせ、身を守れるような力は与えてる。これらがすべて古代の魔王とやらのしわざなら、一貫性がないようにしか見えないが……」
「古代魔王は待っているのだ! この探検家シュモスが、数多の試練を乗り越え、散りばめられた謎を解き明かし、魔王の用意した尖塔の頂に立つ時を!」
シュモスがびしっと窓の外に見える「杭」を指差して言う。
(……案外、シュモスが正しいのかもね)
あそこに眠ってるのは、魔の者が人間を怨む元凶となった過去の真実のはずだ。
ふさわしい者がやってくるのを古代の魔王は待ってるのかもしれない。
それがシュモスかどうかはともかくとして。
「俺たちにも協力させてくれ」
そう言ったのは冒険者の隊長さんだ。
「えっ、でも、何が起きるかわからないよ?」
「だったらなおさら、ミナトたちだけに任せておけるか。足手まといにはならないつもりだ」
「そうだぜ! これは俺たち希望の村の問題でもあるんだ!」
そりゃそうか。
私たちが探索するのをじっと待ってろというのはかえって酷だ。
「……うん、わかった。よろしく、隊長さん」
「この偉大なる探検家シュモス・アリバーンも協力を表明する!」
「えっ、いや、それはどうだろ……」
まぁ、へその地理にはいちばん詳しそうだし、気配の殺し方もうまかった。盗賊士の素質がありそうだ。
ひょっとしたら、冒険者同様、古代魔王からの加護を受けてるのかもしれない。
(古代魔王の加護は、まだあくまでも仮説だけどね)
万一アーシュが魔王だと明かさざるを得なくなった時に、アーシュが責められにくいように考えた理屈だけど、実際ありえることのように思う。
――というわけで、私とアーシュは、希望の村の冒険者と自称・探検家を連れて、へその遺跡を探索することになった。




