116 四天魔将の実力
「我が槍に喰われろ魔王!」
グリュンブリンが転んで動けないアーシュに槍を突き出す。
黒く禍々しい槍は先端がぱくりと割れて、牙の生えそろった大きな顎と化してアーシュに迫る。
「間に合えっ!」
私はギリギリで、グリュンブリンとアーシュのあいだに割りこんだ。
ルイスからラーニングした防御障壁を展開しつつ、無念の杖を取り出して前にかざす。
グリュンブリンの魔槍は、防御障壁を食い破り、無念の杖にがっちりと噛みついた。
無念の杖がぎしぎしと音を立てて震えてる。
「アーシュ! 逃げて! 長くはもたないよ!」
私は冷たい汗を全身にかきながら、背後のアーシュにそう叫ぶ。
「あ、足が動かないんです! 足首が曲がって――」
アーシュの悲鳴に、目の端だけで背後を見る。
アーシュが足首を押さえてる。
たぶんねんざだ。
人間なら痛みをがまんして逃げることもできそうだが、肉体を手に入れて間もないアーシュは、未知の痛みに怯えてる。
「足が折れてもいいから走って! あとで治してあげるから!」
「ぐぅっ、くっ……わ、わかり――」
「わたしを前におしゃべりとはいい度胸だな、羽虫!」
無念の杖に食い止められた魔槍を右手一本で支えながら、グリュンブリンは空いた左の手のひらを上にかざす。
激烈に嫌な予感がした。
「くっ!」
私はむりやり後ろに飛んでアーシュを突き飛ばす。
そのはずみで無念の杖から魔槍が外れ、私の右肩をかすめてすぎた。
それだけで、ドロップアイテムのショルダーガードが砕け散り、激痛とともに右肩から血が噴き出した。
「み、ミナト!」
地面に倒れる私に、突き飛ばされて腰を抜かしたアーシュが叫ぶ。
(だから……逃げろよ!)
叫んだつもりだったが、喉からは声が出なかった。
右肩から邪悪な波動が侵入してきて、私の身体を痙攣させたからだ。
「メインディッシュ前の余興としては悪くなかったぞ。
だが――これで終わりだ、羽虫!」
グリュンブリンは、左手に生み出したもう一本の魔槍を私に向かって突き出し――
「だ、だめえええええっ!」
瞬間、白い光が私の意識を埋め尽くした。




