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不幸少女は二度目の人生でイージーモードを望む。  作者: 天宮暁


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112 ダンジョンに逃げこめ

 ダンジョンの中を、アルミラーシュさんを抱えたままで駆け抜ける。


 盗賊士の感覚を使って罠がないか確認しながら、だ。


 さすがに走りながらではチェックが甘くなるけど、入り口付近にそこまでえげつない罠はないだろう。ないと思いたい。ないといいなー。


 っていうのは冗談で、実際ダンジョンの入り口に出オチみたいな見つけにくい即死罠はないはずだ。

 ダンジョンは人を中に招き入れてこそなのだから、そんなコンティニューありきの死にゲーみたいなことはしないのだ。


 でも、


「――うぉっ!」


 ちらりと振り返ると、後ろのほうで追っ手――四天魔将の一人・グリュンブリンが単純なワイヤートラップに引っかかっていた。


(現世で肉体を手に入れてからまだそんなに経ってないらしいからね)


 いくら力が強くても、この世界の物理法則自体に慣れてない。身体の使い方もぎこちない。

 当然、駆け出しの盗賊士でも引っかからないような単純な罠の知識もない。


 グリュンブリンは頭から盛大に転んでいた。

 起き上がったグリュンブリンの顔には赤い擦り傷が見える。

 せっかくの北欧風美人顔が台無しだ。


 グリュンブリンは、後ろを振り返り、自分が引っかかったワイヤーを見て笑いだす。


「ふはははっ! 面白いな! なるほど、低い位置にロープを張れば、足が引っかかって転倒する! 地上人も考えたものだ!」


 ……なんか感心してるんだけど。


「赤ちゃんみたいだね」


 小さな子どもは、大人にとってはあたりまえにことに驚き、笑う。


「実際、私たちは肉体を持って間もないという意味では赤子に等しいのです」


 私のつぶやきに、アルミラーシュさんがそう言った。


「あれならワンチャン勝てるかも?」


「……やめておいたほうがいいと思います。征旗のグリュンブリンは四天魔将の中でも根っからの好戦派です。戦いの中で相手のやり口を学習し、最終的には相手を圧倒する力を身につけて勝つ、と聞いています」


「少年マンガの主人公みたいな人なんだな……」


 そういうことなら逃げの一手だ。


 私はいくどかダンジョンの角を曲がり、グリュンブリンの視界から逃れるように先を急ぐ。


 といっても、行く先々でモンスターが現れる。それを倒した気配をグリュンブリンに察知され、すぐに追いつかれそうになる。


「アビスワーム! ひさしぶりだね! じゃあね!」


 ぐおお……と大きく口を開いて襲いかかってきたアビスワームの口の中に、特大のエーテルショットを撃ち込み、それを追うようにして口の中に駆けこんだ。

 一瞬後アビスワームは腹の内側から弾け飛び、その中から防御障壁で難を逃れた私(と私に抱えられたアルミラーシュさん)が飛び出した。


「に、人間の冒険者とはこんなにも強いものなんですか!?」


 アルミラーシュさんが腕の中で聞いてくる。


「人によるかな! って、行き止まりだ!」


 私たちの行き着いたのはちょっとした小部屋だった。


 学校の体育館くらいの広さで、真っ白な化粧岩で覆われてる。


 私たちの入った入り口の向かい側の床に、いくつもの奇妙な紋章みたいなものが描かれていた。

 直径2メートルほどのそれは、私のゲーム脳では魔法陣に見える。


「なにあれ!?」


 叫びつつ、実はなんとなく想像がついていた。


 アルミラーシュさんの言葉が、私の想像をあとづける。


「あれは……転送法陣!? 離れた空間を結ぶワープゲートです! ただし、あれは一方通行のようですが……」


「ゲームのダンジョンによくあるやつだね! それなら――」


 私は小部屋の入り口に魔法で炎の壁を作って視界を遮えぎると、三つある転送法陣の真ん中へと走り寄る。


「そ、それが正解だという根拠は?」


「ないよ!」


 私はアルミラーシュさんを抱えたままで転送法陣に飛び乗った。

 身体が消える直前、アビスワームの胃袋から真っ白な板(・・・・・)を取り出し、頭上に掲げる。


 直後、私を立ちくらみのような感覚が襲った。


 次の瞬間には視界が一瞬霞んで、その後に現れたのはさっきと変わらない白い部屋。

 ただし、部屋が少し狭く、足元にも周囲の床にも転送法陣は見当たらない。


「偽装工作はしたけど、気づかれるかもしれないからね。すぐ離れよう」


 私はそう言って、部屋にひとつだけある出口に向かう。


「あ、あの……さっきは何を?」


「ああ、転送の直前に、真っ白な板を残して、転送法陣を隠したんだよ。三つあるうちの真ん中だから、一つ隠れてても違和感はないんじゃないかな」


 ちなみにあの板もドロップアイテムだ。

 ホワイトコーラルの化粧板、だったかな。

 要は真っ白な板で、軽くて丈夫で燃えにくい建材らしい。

 ちょうど色合いが転送部屋の床と同じだったので、転送法陣を隠すにはもってこいだ。


「もちろん、注意深く見れば気づくけど、グリュンブリンさんの様子を見てる限りだと見逃すんじゃないかな」


 幽世では、何かがものに隠れて見えないとか、保護色で他に紛れるってこと自体が起こらない。

 古典的なワイヤートラップに感心してたくらいだから、あんな雑な隠しかたでも気づかないんじゃないかと思う。


「私が炎の壁で視界を遮ったのは二つ(・・)ある転送法陣のどっちに入ったのかを隠すためだった――そう思うだろうね。まさか、三つ目の転送法陣が隠されてるとは思わない」


 ……といいなぁって話だけどさ。


「な、なるほど! さすがはミナトさんです!」


 心から感心してくれるアルミラーシュさん。


「ま、まぁ、グリュンブリンが思ったより慎重だったり、白い板がうまくかぶさってなかったりする可能性もあるから、先を急ぐよ」


 もう何回か、さっきみたいな多択の転送法陣部屋があるのが理想的だ。

 ……ぐるっと回って元の場所でグリュンブリンとばったり……って可能性も否定はできないんだけどね。


「それから、私のことはミナトでいいよ。緊急事態だし」


「では、私のこともアーシュと呼んでください」


 私たちはそんな話をしながらダンジョンを進み、目論見通り何度か転送法陣部屋を見つけ、入った転送法陣を隠したり、露見した場合のフェイントとして入ってないほうをあえて隠したりしながら、何度か転送を繰り返した。


「……ふぅ。一度休憩しようか」


 隠れるのに手頃な部屋を見つけ、私はそう言って抱えていたアーシュを地面に下ろした。

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