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不幸少女は二度目の人生でイージーモードを望む。  作者: 天宮暁


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102 海の旅はイヤな予感とともに

「じゃあ、島をください」


 そう言った私に、ハリエットさんが小首を傾げる。


「島? 領主になりたいのかしら?」


「いえ、そういうことには興味ないですけど、人里離れた、水のきれいな島がひとつほしいです。人を極力入れないようにして、管理はハリエットさんにしてもらいます」


「……不思議な条件ね」


「詮索も無用ってことでお願いします」


 私の言葉に、ハリエットさんが考える。


 そして、


「それなら、キエルヘン諸島をあげるわ」


「へっ!?」


「ミナトさんの働きで取り戻せたのなら、あの諸島はミナトさんにまるっと差し上げるから」


「い、いや、いりませんよ! よく知らないですけど、諸島っていうからにはいくつも島があるんでしょう!?」


「セレスタが把握してる限りでは三十五島あるわね。それだけあれば、ミナトさんの条件にかなう島もあるはずよね」


「ああ、なるほど!

 って、そんなわけないでしょう! 残り三十四島はいりませんから!」


「めんどうなら代官まかせにしてもいいのよ? 何に使うのかわからないけれど、一島だけ管理が特別、なんていうのは難しいわ。『へそ』に近い海域だから、管理が行き届かないおそれもある。実際、これまで海賊たちの根城にされてたわけだし。

 その点、ミナトさんみたいな強くてしっかりした人が治めてくれれば楽なんだけど……」


「海賊の残党がいるかもしれないんでしょう? まさか残党狩りを私に押しつけたいんじゃ……」


「とんでもない! そこまではセレスタが責任を持ってやるわ。グレーゾーンの住民も、ミナトさんがイヤと言うなら離島させるし」


「……なんでそこまでして私に島を渡したいんです?」


「セレスタは共和制。キエルヘンがセレスタに帰属したら、誰が治めても文句が出るから……ね」


「ああ、なるほど。

 って、私をセレスタの政治に巻きこまないでください!」


「名前だけでもいいのよ? 代官はわたしのほうで優秀な人をつけてあげるから」


「結構です! 厄介ごとになる気しかしないんで!

 島はひとつだけでいいですから!」


「ええ〜。せっかくだし、三十五島もらってよ」


「いやです!」


「そこをなんとか」


「なりませんから!」


 そんなやりとりを昼まで続けて、なんとかハリエットさんに「条件に合う島を一島だけ、管理はハリエットさん」という報酬を呑んでもらった。


 しかし――


 ハリエットさんが帰ってから、私はようやく気がついた。


(私、今回の件を受けるともまだ言ってなかったはずだよね……)


 ひょっとして……ハリエットさんにハメられた?







 そんなわけで、翌日。


 私はセレスタの誇る高速ガレー船の甲板上にいた。


 ガレー船は三層構造になってて、最下層では力自慢の海の男たちが汗みずくになって櫂を漕いでいる。


 かなりの大型船だというのに、ガレー船はなかなかの速度で海を切って進んでいく。


「ふぅ、潮風が気持ちいいな」


 私は舳先(へさき)のほうに立って、青い空とその下で輝く波濤をながめながらつぶやいた。


「ハリエットさんにはまんまとやられた気がするけど……なにごともなければ、そのまま南大陸まで送ってくれるだけだし」


 その場合でも相場よりかなり高い報酬を受け取れる。

 自分が払う側だったらぼったくりだと思うレベルだ。


 しかも、この船は速度の速いガレー船で、後方には万一に備えてバックアップの帆船もついてきてる。二重遭難を避ける意味で距離を置いてるから米粒くらいにしか見えないけど。

 私一人を送るには、大げさすぎる艦隊だ。


「ハリエットさんのことだから、なにか情報があるんじゃないかな。私が見過ごせないと判断するだろうって自信がなかったらこんな条件にはしないはず」


 私は大きくため息をつく。


「……やめやめ。私の運の悪さからして、まずまちがいなくろくでもないことが起きるから。むなしい期待はしないようにしよ……」


 本命・海のモンスター(未知)、対抗・魔族、大穴・いなくなったはずの海賊。

 ……うん、ろくでもないラインナップだね。


「ロールプレイングゲームで初めての船って言ったら、イカかタコだよね。難破するかどうかは五分五分かな。でも、船が沈んでも主人公が海の藻屑になることはないから大丈夫かも」


 主人公どころか、仲間のキャラもけっしてはぐれることはない。そんなに離れてもないが、合流にはちょっとかかるくらいの範囲内に流れ着く。場合によっては無人島でヒロインとのイチャコライベントが発生する。


「そうだ、私のほうでフラグを立てまくれば何も起きないかも。イカ来い、イカ。タコ食べたい、たこ焼きにしてタコ食べたい」


「……お腹がお空きですか、冒険者殿」


「うわっひゃい!」


 いきなり後ろから声をかけられ、私はおもわず跳び上がる。


 振り返るとそこには、セレスタ海軍の軍服に身を包んだ艦長さんがいた。

 三十代後半くらいの、日に焼けた精悍な男性だ。ハリウッド製の海賊映画に出られそうな、シブい海の男である。

 チャーミングポイントは、右額から斜め下にかけて残った刀傷。海賊にやられた傷だと言っていた。


 その艦長さんが、なにやら困ったような顔をしてる。


「どうしたんです、艦長。もうモンスターが出たんですか? イカですか、タコですか?」


「いえ、いまのところそのような報告はありませんが……」


「ありませんが?」


「別件で少々困ったことが発覚しましてな」


「ほらきた」


 おもわず膝を打つ私を、艦長がけげんそうに見る。


「あ、いえ、なんでもないです……。

 それより、困ったことっていうのは?」



「はい、それが……この船に密航者が紛れこんでおりまして」



「ああ!」


 そういえば、そういう展開もあったよね!

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