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98 海の都セレスタ

 透けるように青い空に、白い入道雲が浮かんでる。

 その真下にはもちろん、コバルトブルーの海が広がってる。


 えんえん砂漠を歩いてきた旅人たちは、砂丘の奥に現れた景色を見るなり、飛び上がって歓声を上げていた。


 歓声こそ上げなかったが、海の光景に目を奪われたのは私も同じだ。


「青春の馬鹿野郎ーっ!って言うべきかな」


 らくだの背にまたがったまま、おもわずそんな独り言をつぶやくと、


「ほう? それはミナト殿の故郷の風習ですかな?」


 隣にいた、しいていえばアラブ風の格好をした商隊(キャラバン)の長が聞いてきた。

 日焼けした顔で、黒いヒゲを生やした、ちょっと濃いめの顔のおじさんだ。

 おじさんも、私同様らくだの背にまたがってる。


「あはは……まぁ、そんなとこ」


「興味深い風習ですな。青春が甘酸っぱいのは恵まれた者だけのこと。たいていのものは青春に傷や苦さを感じましょう。その想いを海に解き放つというわけですな」


 商隊長さんがうんうんうなずきながらそう言った。


(この人にも青春の傷とかあるのかな)


 べつに、とりたてて知りたいとも思わないけど。


「しかし、ミナト殿のおかげで本当に助かりましたぞ。サンドワームの群れに襲われた時はどうなることかと……」


 霧の森を出たところでシェリーさんやハンスたちと別れた私は、南に向かう街道を進んでいた。


 街道といっても、草原や荒野が踏み固められてできた、「道」らしきものにすぎなかった。獣道じゃないだけいくぶんマシといった代物だ。


 ミストラディア樹国の南側は、霧の森から離れるほどに急速に砂漠化していく。

 それにともない、「道」のほうもどんどん判別が難しくなっていく。本格的に砂漠に入れば、人の通った痕跡など、盗賊士の感覚があっても見つけられない。


(樹国は、北は霧の森で、南は砂漠で守られてるんだね)


 霧の森は優秀な木材を産する。その木材を輸出して稼ぐこともできるし、森の周辺には豊かな農地や牧草地も広がってる。

 そんな肥沃な土地にもかかわらず、樹国には他国からの干渉が少ないという。霧の森と、南を覆う砂漠地帯のおかげらしい。


(あ、でも、夢法師が死んでダンジョンが完全に機能しなくなったら、霧の森も遠からず枯れちゃうのかな)


 そうなると樹国は相当な国難に襲われることになるだろうけど……私が心配することじゃないか。


 ともあれ、一人もくもくと砂漠を進んでると、進行方向に土煙が見えた。

 戦いの気配を感じてあわてて駆けつけてみると、砂漠を行く商隊が複数のサンドワームに襲われてた。


 私はさっくりサンドワームたちを倒し、ドロップアイテムを回収してそのまま立ち去ろうとしたのだが、商隊長さんに護衛についてくれと泣きつかれた。

 いい加減歩き疲れてもいたので、らくださんに乗せてもらうという条件で引き受けた。


 らくだ、かわいいよ、らくだ。


「見えますかな? 砂丘の先、双子岬の合間にあるのが、海の都セレスタです」


 商隊長さんの言葉に目を凝らすと、ずんずん下ってく砂丘の先に、防砂林がずらりと並び、その奥に、海に向かって突き出す大きな二つの岬が見える。

 岬のあいまにはかなり大きな石造り、煉瓦造りの集落があった。

 薄い茶色に統一された瓦屋根が、太陽の光に燦然と輝いてる。

 中心部にはかなり背の高い建物も並んでるし、湾には大型の木造船が何隻も停泊してる。その奥にある二つの岬の先には、それぞれ瀟洒な灯台が立っていた。


「すごい……」


 まるで、地中海の港町みたいだ。


「風光明媚なところですよ。ここへ至る陸路は大変ですからな。商隊の連中にはしばらく羽を伸ばさせます。そのあいだに街で人足を雇って、陸のものを船に、船のものを馬車に積み替えるのです」


「商隊長さんは働き通しなの?」


「ははっ、ご心配なく。積み下ろしはセレスタの沖仲仕(おきなかし)組合が請け負ってくれるんでね。わたしも、文字通り肩の荷が降りるってもんですな」


 商隊長さんはそう言ってから、ふと顔を曇らせた。


「……しかし、今回のサンドワーム。モンスターの生態が変わっておるのかもしれませんな。このようなことは初めてなのです」


 実際、商隊には護衛の冒険者が何人かついてたし、商隊員もそれぞれ腕に覚えがあるらしかった。

 たとえサンドワームが相手でも、一体だけならなんとかなるくらいの戦力はあったらしい。


「だがそうなると、陸路の護衛を増やす必要が……それも、複数のサンドワームに対応できるほどの冒険者ですか……ううむ、それでは採算が……運賃の上乗せを商会が呑んでくれるかどうか……」


 商隊長さんが難しい顔でうなりだす。

 経営者は大変だね。


 私がセレスタの美しい街並みに見とれてるあいだに、商隊はゆっくりと砂丘を下っていくのだった。

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