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異世界最強魔法が、“復活の呪文”なんだが!? ~ぺぺぺ……で終わる?異世界スローライフ~  作者: 延野正行
第9章 ゲームで世直し?編

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第94話 魂をかけた勝負

9000pt突破記念!

 犬魔神ルグル。

 以前、ぼくが転職の書【デューダ】を探していた時に、それを守っていた番人だ。

 スフィンクスも真っ青ななぞなぞを出してきて、ぼくたちは見事正答した。


「なんで、お前こんなところに!」


「どこかで見た冴えない顔だと思ったら、あの時の魔法使いか」


 ルグルの鼻の頭にはサングラスが乗っていた。

 ぼくは犬魔神が眼鏡をかけていることよりも、この世界にサングラスがあることに驚いた。

 設定が無茶苦茶だな。


 確か本人は陽の光に弱いんだっけ。

 だからって普通サングラスするものだろうか。


「ぼくの質問に答えろ」


「決まってるだろ。オセロをしているのだ」


「だからって、なんでこんな人の多い場所に」


「我が謎を解いた割りに、察しが悪いのだな。考えてみよ、我は転職の書の番人だぞ。【デューダ】がなくなれば、無職になるに決まってるだろ」


「む、無職……」


「だから、こうして職を探しに人里にやってきたのだ。すると、どうだ。賞金100万ゴルの大会が開かれているではないか。我としては出来れば、余生をのんびり暮らしたいからな。出てみたというわけだ」


 つまり、転職の書の番人が転職を考えて街にやってきたら、オセロの大会を見つけて、潜り込んだというわけか。


 魔神なのに、なんて世知がないんだ(ちょっと泣けてきた)。


「マティスさんに何をした?」


「うん? あいつが刺激的なゲームをしたいというからな。オセロにちょっとしたアレンジを加えてみたのよ」


「アレンジ?」


「勝った方が、負けたものの魂をもらう」


「――!?」


「そして、その男は負けた」


「マティスさんの魂はどうしたんだよ?」


「ほれ。ここにあるわ」


 犬魔神の横に、紫色の魂がぷかぷかと浮いていた。


「なかなか悪党のようだが、根は純真のようだな。色は黒系色だが、透き通っていて美しい。あまり見ないタイプの魂だ」


 確かにあの人は悪党だ。

 国が禁止している闇市や裏カジノを経営している。

 でも、根は悪い人じゃない。

 単純に面白い遊び、ゲームがしたいだけの人なんだ。


 それが、自分の命にも及んだ。

 自業自得だけど、ここで亡くしていい命じゃない。

 それに、彼と勝負するのはこのぼくだ。


「マティスさんの魂を返せ、ルグル」


「いやだ。お互い納得ずくの勝負だったのだ。文句はいえまい。それにお前たちは忘れているだろうが、我は魔神だ。そしてその好物は人間の魂……」


 手を伸ばす。

 爪で軽く引っ掻こうとした瞬間、ぼくが腕を握って止めた。


「ルグル……。ぼくと勝負しろ」


「それはつまり、先ほどの男と同じく我と魂をかけて勝負するということか?」


 ぼくは頷く。


 慌てたのは、騒動を見守っていた女の子たちだった。

 心配そうにぼくを見つめている。


 ぼくはにこりと笑った。


「大丈夫だよ。絶対ぼくは負けないから」



 ◇◇◇◇◇



 ぼくは運営の人に事の次第を説明した。

 予定を取りやめ、急遽ぼくと犬魔神の対局が決まる。


 アリアハルのほとんどの人が注視する中、対決は始まった。


「先番、後番はお前が決めろ?」


「いいの。後で後悔しない?」


「ふん。我には関係のないことだからな」


「じゃあ、先番で」


 ぼくが白。犬魔神が黒で対局がスタートした。


 始まって数手でわかった。

 結構強い。犬魔神は予選が始まる前ぐらいに、オセロに出会い、そのルールを知ったというが、とてもそうは思えない。

 魔“神”だけあって、こう見えて頭がいいのかもしれない。


 けれど、気になるのは、彼がマティスさんを負かしたという事実だ。

 まだ打ったことないけど、カンストしてる遊び人が負けるほどの手練れとは思えなかった。


 白6。黒が22。

 まだ中盤戦。逆転は十分できる。

 そのための仕込みは完成していた。


 ぼくが打とうとした瞬間、ぽろりと石が落ちる。


「あれ?」


 身体が重い。

 何故か息が切れてきた。

 心臓がぎゅっと鷲掴みされているかのように苦しい。


 すると、ルグルは笑った。

 まさか――。


「ようやく表情にあらわれてきたな」


「犬魔神……。何を……」


「このオセロには魂をかける以外に、もう1つルールがあってな。盤面が相手の色に染まれば染まるほど、己の魂が削られるのだ」


「な――」


「そんな!」

「卑怯ですわ!」

「がう゛う゛う゛!!」


 苦しそうにしているぼくに代わり、女の子たちが抗議の声を上げる。


「言っただろ。先ほどの男と同じルールにすると。承諾したはずだが」


 なんてヤツだ。

 犬魔神ってこんなにあくどいヤツだったとは。

 完全に舐めてた。


「大丈夫だよ、クレリアさん、パーヤ、ガヴ。ぼくは負けないから」


「トモアキ」

「ご主人様」

「パーパ」


 意識が朦朧とする。

 視界が霞んで盤面がよく見えなかった。


 けれど、負けるわけにはいかない。

 マティスさんの魂を取り戻すためにも。

 そして家族の元に無事帰るためにも。


 ようは盤面を平らにすればいい。

 終盤の逆転に備えていたけど、手を崩すしかない。


 ぼくは石を置く。

 最善手から遠い一手だ。


「ああ……。ご主人様」

「トモアキはもうまともに打てる状態じゃないんだ」


 パーヤとクレリアさんは項垂れる。

 出来ることなら、一刻も早く辞めてほしい。

 そんな顔をしていた。

 けれど、負ければぼくは犬魔神に魂を刈られることになる。


「パーヤ! クレリア! パーパ、信じる! パーパ、強い! さいきょー!」


 ガヴは声を張り上げる。

 すると、パーヤとクレリアさんも必死に応援した。

 声は幾重にも重なり、いつしかぼくはアリアハルのみんなから声援を受けていた。


「トモアキ、がんばりな!」

「あんた、がんばりな! そんな犬っころ、のしちまえ!」

「魔法使いさん、頑張って!」

「魔法使い! 気合いだ!」

「兄ちゃん、負けんじゃねぇぞ!」

「トモアキ殿。私は信じています」


 アリアハルで出会った人たちの声が聞こえる。


 次第にぼくの意識は回復していった。

 盤面が見える。


 最後の一手を打った。


 対局は終了する。

 皆、盤面を覗き込んだ。

 パッと見ではわからない。

 かなり拮抗している。


 丁寧に数をかぞえた。


「32と32……。引き分けです」


「引き分け……」


 なんとも呆気ない幕切れだった。

 どっち付かずの展開に、対局を見ていた人は複雑な表情を浮かべる。


 すると、審判の人が旗を揚げた。

 それをぼくの方に向ける。


「勝者アイダ・トモアキ殿!」


 え――。


 疑念の空気が渦巻く。

 対局場にいる全員が放心し、審判の口元を見ていた。


「どういうことだ?」


 ルグルは盤面を叩く。

 審判に詰め寄った。

 それを制したのはぼくだ。


「ルグルさんこそルールを知らないのですか?」


「なに?」


「この大会のルールでは、引き分けの場合、先番のぼくが勝つことになっているんです」


「な――!」


「確認しましたよ。あとで後悔し(ヽヽヽヽヽヽ)ませんか(ヽヽヽヽ)ってね」


「くっそぉぉぉおおお!!」


 犬魔神さんは雄叫びを上げ、悔しがるのだった。


9000pt突破しました。

ブクマ・評価していただいた方ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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『ゼロスキルの料理番』
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