第93話 森の精霊の逆襲
気がつけばもうすぐ100話になりそう。
2回戦が始まった。
ぼくの次の相手は、また意外な人物だった。
いや、人ですらない。
「ちょ! 森の精霊さん!!」
盤面の向こうにいたのは、緑色の肌をした少女だ。
いつぞやのクレームを良いに来た森の精霊だった。
「なんでこんなところにいるの?」
「なによ。精霊が参加しちゃいけないルールでもあるわけ?」
「そんなことはないけど……」
「だったらいいじゃない。そもそも森の木が賭の対象になっているんでしょ」
「なんで知ってるの?」
「森の精霊はどこにでもいて、全部つながってるの。人間の陰口なんて私たちには筒抜けなんだから」
そうなんだ。
なるべく森の精霊の悪口はいわないでおこう。
2回戦まで勝ち上がってきたということは、結構強いはずだ。
ぼくの予想は当たった。
驚くほど強い。
定石通りに置くと思ったら、トリッキーな置き方もある。
自在に戦法を変え、思考が読めない。
まるで大勢の人間と戦っているみたいだ。
「どこでオセロを習ったの?」
「人間がやっているのを見ていたのよ。あんたたち、よく私たちの小陰でオセロをしてたりしてるし。自然と覚えたわ」
「なるほど……」
「覚悟することね。私たちには様々な人間の置き方が記憶されているのよ」
なるほど。
色々な人間の並べ方を覚えているのか。
さながら巨大なオセロのデータベースといったところだろう。
「人間に万が一の勝ち目なんてないわよ」
森の精霊さんはにやりと笑った。
確かに強そうだ。
けど、ぼくはこの世界のオセロの考案者。
すんなりと負けるわけにはいかない。
相手がオセロを棋譜のように覚えているなら、これならどうだろう。
ぼくは勝負手を打つ。
「ふん。何よ、その置き方。最悪じゃない」
そう。
ぼくが打った石は、最善手とはほど遠い最悪に近い一手だった。
その石を、ぼくは今から最悪手から最善手にする魔法の言葉を投げかける。
「それはどうかな?」
にやりと笑い返した。
余裕の表情を見て、森の精霊さんは顔を強ばらせる。
首を傾げながら、次の手を考えた。
その時、ぼくにはわからなかったけど、精霊さんの頭の中には様々な精霊さんの声が重なっていた。
(これが最善手?)
(うそうそ。はったりだよ)
(でも、すごいいい手に見えてきた)
(何かないの。同じ打ち方が過去に)
(探したけどないよー)
(悪い方にもないの)
(ないない)
(新手?)
(うそ。全然わかんない)
「しゅ~~」
突然、森の精霊さんは倒れた。
瞳をぐるぐるさせ、頭からは湯気が上がっている。
どうやら定石や過去の対戦経験にない打ち方をされて、どう打ったらいいのかわからなくなったようだ。
一か八かだったけど、こうもうまくいくとはね。
森の精霊さんは医務室に運ばれていく。
2回戦は不戦勝ということになった。
早く勝負が終わったので、他の対戦を見てみる。
まず覗いたのは、ガヴの対局だった。
相手は……。
「タケオさん!!」
思わず叫んでしまった。
ぼくと同じ日本出身の魔法使い。
レトロゲーマータケオさんが、オセロ大会に参加していた。
ぼくが近くにいるのもわからず、真剣な表情でガヴと向かいあっている。
ガヴが打つと、口角を上げた。
「嬢ちゃんよ。背中が煤けてるぜ」
石を打ち返す
――って、それ違うから。
麻雀やった時に言おうよ、そういう台詞。
だが、タケオさんの手はいい手だ。
ガヴの手が止まる。
盤面を目の中に飲み込むように覗き込んだ。
「がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛がう゛」
ゆさゆさ、と身体が動き出す。
これがいつものガヴの考える時の癖だった。
でも、ガヴ……。ちょっと控えてくれないかな。
よくわからないけど、あんまりやると怒られそうな気がするんだ。
すると、ガヴは会心の一手を放った。
「むぅ……」
「良い手だ」
最近、ガヴの成長が著しい。
クレリアさんやパーヤにも勝つようになり、現在勝率では互角だ。
初めは思うところに打ってばかりで、まるで勝てなかったんだけど、ある時から考えるということを身につけて、強くなっていった。
この調子で、言葉ももっと上達すればいいんだけどね。
結局、ガヴの勝ちだ。
「パーパ、ガヴ勝った。褒めて」
「うん。すごいすごい」
頭を撫でると、嬉しそうに笑った。
すると、他の対戦のところで悲鳴が上がる。
クレリアさんだ。
振り返ると、顔を覆っていた。
どうやら負けたようだ。
対戦しているのは、パーヤだった。
その顔にも疲労が見て取れる。
2人なりの頂上決戦だったらしい。
パーヤとクレリアさんはいいライバルだ。
対戦成績も拮抗している。
今回はパーヤが勝ったらしい。
「ご主人様、わたし勝ちましたわ」
「ああ。頑張ったね。パーヤ」
ガヴと同じくつい頭を撫で撫でしてしまった。
パーヤは思いっきり顔を赤くする。
「うー。負けちゃったよ、トモアキ」
「クレリアさんも頑張ったね」
こちらも頭を撫で撫でした。
落ち込んでいた顔が少しだけ明るくなる。
3人とも本当に強くなったな。
クレリアさんは負けちゃったけど、もしかしたら決勝の相手は、ガヴかパーヤになるかもしれない。
「ご主人様のおかげですわ」
「パーパ、一杯教えてくれた」
「ありがとう。でも、一杯頑張ったからみんな強くなれたんだよ」
女の子たちの成長にぼくは目を細めた。
きゃあああああああ!
絹を裂くような悲鳴を聞いたのは、その直後だった。
ちょうど反対側にある対局場が騒がしい。
すでに人だかりが出来ていた。
中心にいたのはマティスさんだ。
肌は土気色になっていて、完全に意識を失っていた。
「一体なにが……」
ぼくは対局場にいたマティスさんの対戦相手に振り返る。
そして絶句した。
ドーベルマンみたいな細い犬顔。
体毛は黒で、ほっそりとした体型をしている。
その特徴的な顔と体躯を見て、ぼくは叫んだ。
「犬魔神ルグル!!」
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