第92話 オセロ大会開催!
GWにお仕事の人に捧げる(2回目)
「これより第1回アリアハルオセロ大会を開始します!」
宣言とともに、ポンポンと花火が上がる。
拍手が鳴り、中央広場に集まった参加者の歓声が、怒号のように沸いた。
こうしてオセロ大会は華々しく開催された。
参加者の数は1077名。
そこから予選を勝ち上がった48名が、本戦を戦う。
ぼくが予想していた以上の盛り上がりだ。
それもおそらく事前に発表された賞金だろう。
なんと100万ゴル。
大体1ゴルが500円ぐらいの価値だから、つまりは5億円だ。
ハイミルドなら小さな城だって買えてしまうかもしれない。
家族4人で静かに暮らせるぐらいの価値はある。
賞金を聞いて、色めき立ったのはアリアハル市民だけじゃなかった。
噂を聞きつけ、腕に覚えのある猛者が終結している。
それに、ぼくの家族も参加していた。
「100万ゴルもらったら、食費の心配をしなくても大丈夫ですわ」
パーヤが色めくと。
「パーヤはスケールが小さいのよ。あたしはお城を買うわ。そこでトモアキと一緒に暮らすの」
というクレリアさんの願いも、なんとも乙女チックだった。
みんな、優勝する気満々だ。
でも、増長するのも無理もない。
彼女たちは、ずっとぼくと指していた。
かなり強くなっていて、予選のグループリーグも7戦7勝の負けなしだった。
「ガヴは優勝したら、100万ゴルどうする?」
「がう゛~。あれ、食べたい!」
ガヴはぼくの服の袖を引っ張った。
大会が行われている中央広場の周りでは、屋台が開かれている。
これほど人が集まっているのだ。
ここで稼ぐ手はないと、遠方からも屋台を引いて料理人が腕を振るっていた。
もうお祭り状態だ。
みんな楽しそうだった。
さすがはマティスさんだ。
こういうお祭りごとをやらせたら、本当にうまい。
きっと、ぼくがいた世界にいたら、ハイパーメディアクリエティブなんとかとかいわれてたかもしれないね。
そのマティスさんが壇上に立っていた。
主催者らしく挨拶をしている。
普段は日向にいる人間なのに珍しい。
裏社会のドン的な人がこうして人前で演説していると、気っ風のいいただのおっさんに見えてしまって、ぼくはちょっと笑ってしまった。
大会には、さらに珍しい人が訪れていた。
「第14代ライドーラ国王です。ほ、本日はお日柄も、よよ良く……」
最近、戴冠したばかりの兵士長さんだ。
これほどのお祭りだ。
国も関わっていて、大会にも出資している。
オセロ熱は今やライドーラ王国全体に広まりつつあり、国技にしようという声もあるそうだ。
オセロが国技かあ……。
ぼくの世界では考えられないことだ。
けど、勝負事をオセロで決まるなら、戦争をするよりはいいかもしれない。
挨拶が終わると、兵士長さん――今は国王が、ぼくに挨拶にきた。
「お久しぶりです、トモアキ殿」
「すっかり国王が板に付いてきましたね。いい挨拶でしたよ」
「とんでもない。慣れないことばかりで戸惑うばかりです」
ぼくを前にして新王様は恐縮していた。
一通り挨拶が終わり、本戦が開始される。
マティスさんは、ぼくのところに来て、まず挨拶をした。
「約束は忘れていませんね、トモアキ様」
「忘れてませんよ。そういえば、ぼくが勝ったら木材をもらえますけど、ぼくが負けたら、マティスさんは何がほしいですか?」
「私は結構ですよ。ただ本気のあなたと戦いたいだけです。それとも、また美女2人を賭けますか?」
パーヤとクレリアさんを見つめる。
2人はウォーミングアップがてら、オセロをしていた。
「それは遠慮しておきます」
「では、健闘をお祈りしますよ」
一礼し、去っていく。
正直、未だにマティスさんって人がわからない。
元が遊び人っていうのもあるのだろうか。
本気で人を遊ぶためなら、対価なんて関係ない。
遊ぶことこそが、マティスさんの望みなのだろう。
「決めた!」
「どうしました、ご主人様」
「今回の大会はレベルマを使わない」
「え? どうしたの、トモアキ。突然……」
「楽しみたいんだよ、純粋に。大会をね」
1回戦が始まった。
ぼくの相手は、フードを被った女の子だ。
ガヴぐらいの年頃かな。
背丈がそれぐらいなのだ。
でも、ガヴ以外にこれぐらいの歳の女の子が、本戦出場してることが意外だった。
誰かに習ったとしか思えない。
対局が始まる。
本戦出場してきただけあって、結構強い。
32手目を終えて、相手の白い石は31。対しぼくは、1つだけだった。
「ふふん……。この勝負、妾の勝ちね」
女の子は鼻を鳴らし、早くも勝利宣言をした。
ぼくはオセロの勝負のことより、彼女の言葉遣いが気になっていた。
自分のことを「妾」といったのだ。
もしかしたら、高貴な生まれなのかもしれない。
どこかの国のお姫様だったりして。
――おっと、盤面に集中しなきゃ……。
見た目では、ぼくの形勢は不利のように思う。
けれど、まだお互い16手を残している。
ここから逆転できるのが、オセロの面白いところだ。
ぼくはじっくり考える。
持ち時間はない。
ハイミルドには時計も、60進法という概念もないからね。
「降参したらどう? お兄さん」
「よかった」
「へ?」
「まだ、ぼくをお兄さんを呼んでくれる人がいて」
ぼくは石を四隅の手前に打ち込んだ。
オセロを習う時に、あまり置いてはいけないと呼ばれる箇所。
ちょっと玄人っぽくいうと、C打ちというヤツだ。
女の子もそのことは知っているらしい。
「愚かな……。そこを打つのは悪手よ」
女の子は打つ。
取れたのは1石だけど、32対2。
彼女の優位は動かない。
「それはどうかな?」
手を進めていく。
すると、次第に少女の目が大きく開かれていった。
「あれ? どうして?」
気が付けば、盤面が黒くなっていた。
結果、ぼくの圧勝だった。
「序盤、石を一杯取っても、油断したらダメだよ。むしろ取らずに、まず生きる石を多く作る方が大事なんだ」
「生きる石?」
「絶対に取られない石ってこと」
「む~~!」
頬を膨らませる。
すると、女の子はいきなり盤をひっくり返した。
オセロの石や盤が辺りに散らばる。
女の子はそのままのっしのっしと大股で帰ってしまった。
「もうちょっと手加減するべきだったかな」
「そんなことないよ。あの子、結構強かったんでしょ」
クレリアさんが話しかけてきた。
どうやら順当に勝ち進んだらしい。
隣にはパーヤとガヴが手を繋いで立っている。
「あたしだったら、手加減された方がいやだな」
「そんなものかな」
「はい。……でも、さすがはご主人様。本戦の方たちお強い人ばかりなのに」
「そういって、パーヤも勝ったんでしょ」
「パーパ、ガヴも勝った」
「うん。ガヴもよくやったね」
頭をモフモフする。
ここまでは順調だ。
でも、勝ち抜けば勝ち抜くほど、強い相手と当たることになる。
ぼくは気を引き締めた。




