第91話 魔法使い、オセロ大会に参加する
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ぼくは久しぶりにロダイルさんの屋敷に来ていた。
相変わらず奴隷の人たちが、家内のあちこちにいて、仕事の訓練をしている。
ガヴのような獣人や、小さな女の子。
果ては屈強な男の人までいる。
皆、真剣に次の仕事を得るために働いていた。
たぶん、ぼくが来た頃よりも人が多くなっている。
屋敷も知らぬ間に離れが出来ていたし。
神豆と、今回ぼくが提案したオセロの売上をすべてこの人たちの社会復帰にために使っているのだろう。
やっぱロダイルさんはエライや。
あの兵士長さんが王様の話を受けてくれなかったら、ぼくはロダイルさんを推したかもしれない。
ぼくは客間で待っていると、家主は慌ただしく部屋に入ってきた。
手には紙を持っている。
目の前の椅子にどっかりと座ったロダイルさんは、昔から変わらないおっかない眼光をぼくに向けた。
「魔法使い、お前の推理は大当たりだ」
開口一番に言い放った。
主語も何もなくて、わからない人には「?」という反応しか得られないだろうけど、ぼくにはすべてが理解出来た。
ゆっくり頷き、「そうですか」と漏らす。
ぼくはロダイルさんにあることを調べるように頼んでいた。
大量の樹木の伐採についてだ。
いくらオセロが木材を使っているとはいえ、森がはげ上がるほど使うことはない。
今のところ、オセロブームはアリアハルの中だけだし、1本の木からかなりの量のオセロを作ることが出来る。
調べてもらったら、やはり木の数とオセロの出荷量が合わなかった。
出荷量に対して、20倍以上の木が切られていたのだ。
ぼくは何故そんなことになったのかも、検討がついていた。
その結果を、ロダイルさんが答えてくれた。
「予想通り。マティス・ヴィーネーが木材を買い占めていた」
裏カジノや闇市を取り仕切るアリアハルの大商人だ。
これまで何度かぼくに勝負を仕掛け、すべて返り討ちにしている。
昔の同じようなことがあって、その時に大損させたこともある。
まだ懲りていないらしい。
でも、なんか憎めないんだよな、あのキャラ。
異世界のバイキ●マンみたいな?
「おかげで今じゃ相場の10倍ぐらいの値段になってるらしい。どおりで木材を探して見つからないわけだぜ!」
ロダイルさんは机を叩いた。
オセロの制作を頼んでいる工房も困っているらしい。
実は、オセロが入荷できなくて、一時的に品薄状態になっていた。
これでマティスさんが仕切る闇市で売っていたら、それこそ目も当てられない。
ぼくはすっくと立ち上がる。
そして頭を下げた。
「わかりました、ロダイルさん。ありがとうございます」
「魔法使い、どうするつもりだ?」
レベルマになって、マティスさんをズドンとやってしまうのは簡単だ。
けれど、それでは人殺しになってしまう。
ぼくには家族がいるし、悲しませることはしたくない。
そもそもマティスさんがやってることは、感心はできないけど、犯罪じゃない。
旬の商材を大量に買い込み、相場が上がったところで売り切る。
それはぼくがいた社会でもやっていたことだ。
もちろん、ハイミルドでも違法ではない。
かといって、ガラスの時のように別の材料を使うというのも考えたけど、やはりコストがかかる。
折角、オセロ作りに賛同してくれた工房の人を切ることになるしね。
「これはマティスさんの挑戦状です。ぼくが受けないことには始まらない」
ぼくはロダイルさんの屋敷を出る。
そのまま真っ直ぐマティスさんの家に向かった。
荒々しい動物が描かれた鉄門の前にいる守衛に取り次いでもらう。
執務の最中だったようだが、マティスさんは会ってくれるという。
中へと入り、客間で待つのかと思いきや、ふとっちょの商人は玄関で迎えてくれた。
「よーこそ。トモアキ殿」
身体を擦り寄せ、無理矢理ハグする。
あちこちに宝石がちりばめられ、人間スポットライトと化していた。
腹の底が見えないポーカースマイルも健在だ。
誘われるまま客間を通される。
ぼくは少し警戒しつつ、こっそりレベルマを使った。
マティス邸に入るのは、何度目かだが、1人で入るのは初めてだ。
ちょっと心細い。
クレリアさんだけでも連れてくれば良かったかもしれない。
けど、マティスさんのいやらしい視線にさらすわけにはいかなかった。
マティスさんはどっかりとぼくの前に座る。
足を組み、葉巻を1つ吸った。
甘ったるい匂いが立ちこめる。
ぼくは紫煙を払いつつ、鑑定呪文で調べた。
毒や睡眠作用のあるものではないらしく、ひとまず安心する。
「さて、今日はどのようなご用でしょうか。それとも私と遊んでくれるんですか? では、何にしましょうか? ポーカー、それとも麻雀……それとも――」
「今日は木材の件についてうかがいました」
ぼくが単刀直入にいう。
すると、マティスさんは葉巻を灰皿に擦りつけた。
やがて口を開き、笑みを浮かべる。
待ってました、といわんばかりだ。
「やはりそのことですか……」
「森の精霊が困っています。それに木が1度に大量になくなると、洪水の原因にもなります。地球環境にも悪いし」
「地球環境?」
「いえ。それは忘れてください。ともかく木の伐採は控えていただきたい」
「わかりました。いいでしょう」
マティスさんはあっさり応じた。
ぼくは喜ばなかった。
いや、弱々しく「ありがとうございます」と一応礼はいった。
けれど、いやな予感しかしなかった。
「ですが、トモアキ殿。これから木材をどうされるおつもりですか? 森のほとんど木が伐採されました。精霊もこれ以上は許してくれないでしょう」
マティスさんの言うとおりだ。
森はぼくと精霊の力で戻ったとはいえ、そこからまた木を切らせてくれとは頼みにくい。
今、使える木材はマティスさんが抱えるものしかない。
そして、きっと彼は何かを企んでいる。
強張るぼくの顔を見て嬉しいのだろう。
マティスさんはさらに口端を歪めて笑った。
「トモアキ殿……。では勝負しましょう」
「なるほど。では何にしましょうか? ポーカーそれとも麻雀ですか?」
さっきと発言者が逆だった。
この流れは予想していた。
マティスさんは商人である前にギャンブラー。
それは狂人の域にある。
いわゆる賭け狂いだ。
「オセロ……というのはどうですか?」
「――――ッ!」
「実は近く私が主催になり、アリアハル全市民を対象とした大会を開こうと思っています」
「オセロの……。大会……?」
「そうです。主催者ですが、私も参加するつもりです。……その大会で優勝したものが、この木材を勝ち取ることができるというのはどうでしょうか?」
「何かあなたらしくないですね? いつもはぼくに直接勝負を挑むのに」
「私は純粋に大会を盛り上げたいだけですよ」
「なるほど。じゃあ、例えばぼくとあなたが優勝できなかったらどうします?」
「その時は、優勝者の判断に任せればいい」
「わかりました。受けましょう、その勝負」
こうしてぼく――いや、ぼくたちはオセロ大会に参加することになった。
中途半端ですが、オセロ大会は次回。




