第89話 魔法使い、ブームを作る。
ちょっと短めですが、よろしくお願いします。
オセロはすっかりぼくの女の子たちを虜にした。
パーヤは家事の合間に、ぼくに対戦を申し込んでくるし、クレリアさんは農場にまで持ち込んで、休憩時に従業員と対戦しているらしい。
ガヴも気に入ったらしく、最近は本を読むよりも、オセロ盤を持ってくる始末だ。
3人とも随分うまくなったけど、まだまだぼくの足元に及ばない。
こう見えて、ぼくはボードゲーム系にはちょっとした自信があるんだ。
おかげでぼくは寝不足だ。
異世界に来て、生活に余裕が出来てからは、たっぷり12時間は寝ていたのに、最近は6時間しか眠れていない。
まあ、社畜時代よりはずっとマシだけどね。
2時帰宅……。朝5時出社……。う……頭がっっっ!!
まさかこれほど、オセロが人を魅了するものとは思わなかった。
ルールは単純だし、すぐ飽きるかなとぼくは思っていたんだ。
けど、3人を見ていると、そんな気配はない。
シンプル イズ ベスト。
単純だからこそ、オセロは奥深いし、飽きないのだろう。
それにぼくがいた世界とは違って、ハイミルドにはこの手の娯楽が少ない。
つまり、ぼくは隠れた需要を掘り起こしたというわけだ。
これは売れるかもしれないなあ。
そんな期待を胸にぼくは、ロダイルさんの店へと売り込んだ。
「――というわけなんですけど、どう思いますか?」
ぼくは軽いプレゼンを終えた。
対面に座ったロダイルさんは腕を組んで、難しい顔をしている。
その神経質そうな瞳は、机に広がった盤面へと向けられていた。
「えっと……。ロダイルさん、聞いてました?」
すると、ピッと手を出した。
「待った」のサインだ。
将棋じゃないから、待ったもないんだけどね。
ちなみに盤面は48対12。
あと4つしかマスは空いていない。
どこに置いても、ロダイルさんの逆転勝利は望めなかった。
プレゼンがてら、ルールを説明して、実際にぼくと対戦してもらった。
ルールはすぐに理解したロダイルさんは、初めこそ「なんでこんなものが面白いんだ」って顔をしていたんだけど、初戦で大負けをして目の色が変わった。
そして、これが2戦目。
打ち込むところによって、先ほどよりも結果のいい負けになるだろう。
どうやら、堅物のロダイルさんすら、オセロに魅了されてしまったらしい。
――こういう場合、わざと負ける方が良かったかなあ……。
でも、ロダイルさんは勘が効く。
きっと手を抜いたら、とても怒るだろう。
結局、2戦目は52対14。
1戦目よりはいい。
敗戦のショックを落ち着けるようにロダイルさんは、水を飲む。
「もう1戦!」というのかと思ったが、再び腕を組んだ。
「魔法使いよ」
「あ。はい……」
「これは売れるぜ」
ロダイルさんは口角をあげた。
さすがは商人だ。
オセロの面白さよりも、売る面白さに気付いたんだろう。
◇◇◇◇◇
ロダイルさんは、早速動いた。
とりあえず、ぼくが作ったオセロを持って木材加工の職人さんに営業をかけた。
まずはオセロを作ってもらえる工場を探すと同時に、ゲームの面白さを知ってもらうためだ。
「へ! そんなお遊戯道具、作ってられるか! うちは昔から家具しか作ってないんだよ」
「まあまあ、そんなこというなよ。とりあえず、1回やっちゃくれないか?」
「はん! わかった。1回だけだぞ」
数分後……。
「もう1回! もう1回やらしてくれ」
「じゃあ、オセロを作ってくれるかい?」
「いや、それは……」
「じゃあ、このオセロは余所で――」
「待て、ロダイル! 俺とお前の仲じゃねぇか」
「……じゃあ、作ってくれるのか?」
「わ、わかった。だから、もう1回! もう1回だけ」
初めは遊戯道具なんて作りたくないっていう人がほとんどだったみたいだ。
けど、実際にプレイして、みなすぐにオセロの魅力に取り憑かれてしまった。
数軒回っただけで、2軒の工場が手をあげてくれた。
とりあえず、2軒それぞれにサンプルを依頼した。
「どうだ? 魔法使い」
ぼくは上がって来た完成品サンプルを観察する。
さすがはプロだ。
すごく綺麗に出来てる。
一応、子供がプレイすることも考えて、角を取るように注文をつけておいたんだけど、それもきちんと出来ていた。
「いいと思います」
「よし……。じゃあ、次はプロモーションだな。……小さくてもいいから大会を開こう」
「やる気満々ですね」
「おうよ。このチャンスを逃すわけにはいかないからな」
先にいっておくけど、大会は大成功だった。
最初こそみんな遠巻きにデモプレイを見るだけだったけど、5人が10人になり、10人が50人、50人が200人に膨れあがった。
みんな興味津々だ。
早速、子供にせつかれる夫婦もいた。
人数は少ないながら、トーナメント方式の対戦が行われた。
そこでぼくは優勝した。
2位はパーヤだ。3位はクレリアさん。
「さすがはご主人様ですわ」
「くっそぉぉおお!! トモアキならともかく、パーヤに負けるなんて」
クレリアさんは地団駄を踏む。
横で、パーヤは口元に手を当て、余裕の笑みを浮かべていた。
2人に悪いけど、ぼくにとってこの優勝はどうでもいいことだった。
……嬉しいには嬉しかったけどね。まあ、考案者だし。
大会はオセロのいいアピールになった。
限定で作った50個はあっという間に完売した。
オセロほしさに、ロダイルさんの店にお客さんが殺到。
アリアハルに、オセロブームが到来した。
「やりましたね、ロダイルさん」
「ああ。お前のおかげだ、トモアキ」
その日、ぼくはロダイルさんと高いお酒で祝杯を挙げた。
ゆるゆる更新していきたいと思います。




