第87話 名君誕生!
これにて『王国激闘編!?』は終了です。
犬魔神ルグルはプロゲーマーみたいに腕を組み、ぼくたちの前に立ちはだかる。
ふん、と鼻息を荒くすると、睨め付けた。
「第一の試練!」
遠吠えのように叫ぶ。
「これはお主たちはすでにクリアしている」
「え?」
ぼく、何かやったっけ?
「第一の試練は、力の試練。我に背中を付けさせた時点で、合格だ」
そういえば、明光の明かりを付けた時、眩しくてゴロゴロと悶えていたなあ。
あんなので良かったのか。
てか、なんで終わった試練を、もっともらしくいうことが出来るんだろう。
犬だからかな? 神経が図太かったりするのだろうか。
「では、第二の試練を言い渡す。第二の試練は知の試練。いまだ、この問題を解き明かしたものはいない。覚悟しろ」
散々ビビらすような態度を振りまいているのだけど、さっき身悶えていた犬魔神を見ているからか、ちっとも怖くない。
「おい。犬魔神とやら。もし、その答えに正答できない場合、どうなるのだ?」
人間バージョンのゴールドドラゴンさんが尋ねる。
すると、ルグルは犬歯をむき出し笑った。
「正答できなければ、死んでもらうまでだ」
な――!
間違ったら、死ぬの!
それってひどくない!
いきなり空気がシリアスになってきた。
ちょっ! まだ心の準備が出来ていないよ。
「トモアキ……。話がある」
ゴールドドラゴンさんが、真剣な表情でぼくを見つめる。
おお! さすがゴールドドラゴンさん。
何か凄い策でもあるのだろうか。
「我は帰ってよいか?」
ズコォォォォォオオオオオオオ!!
ぼくは全力でズッコケた。
何いってんだよ、この人。
あんた、元とはいえ守護竜でしょ。
ハイミルドの聖剣を守っていた竜なんだから、もうちょっと……その……なんていうか、威厳ある態度はとれないの?
我が愛しき子供たちは、守護竜ゴールドドラゴンが守る――的なヤツ!
剣だけじゃなくて、人間も守ってよ!
「だって、我はまだ死にとうない」
ぼくだって死にたくないよ!
ああ、もう! すっかり忘れていた。
この竜が超マイペースなドラゴンだということを。
「ふはははは。今さら逃げようとしても遅い。すでにこの部屋には結界が張られている。お前たちが脱出するのは不可能だ」
「本当にそうか?」
ゴールドドラゴンさんは、赤い猛禽のような瞳を光らせる。
得意げに宣言していたルグルは、口を噤んだ。
魔神はドラゴンの圧倒的な覇気に、完全に気圧されていた。
確かにゴールドドラゴンさんが本気で暴れれば、どんな結界も貫いてしまうかもしれない。
その場合、確実にぼくたちは生き埋めになるかもだけど……。
「す、すいません。調子こきました。あなたの命は取らないので、この部屋を壊すのは許してください」
「よかろう」
ああ! ずるい!!
1人だけ助かろうとするなんて、守護竜せっこ!!
「まあ、これが我とそなたの格の差じゃ」
くはははは、と高笑いする。
くっそー、この守護竜め。
もう1度、本気で仕留めてやろうか。
「よし! では、第二の試練を開始する。今からいう問題を解き明かしてみせよ」
ごくり……。
ぼくは唾を呑む。
横に並ぶパーヤやクレリアさんの顔も真剣そのものだ。
唯一、ガヴだけが、お腹を空かしているらしく、先ほどから犬魔神を見ながら、涎を垂らしていた。
ガヴ、あれはばっちぃからダメだよ。
「問題。朝には四つ足。昼には二本足。夜には三つ足で歩くものは何か。その生き物はすべての生き物の中で最も姿を変えるであろう」
……え、ええ~~。
それが問題? もしかして?
え? これってあれだよね。
あの有名なスフィンクスの謎かけと一緒で、あの答えってことでいいよね。
いや、そう思わせておいて、別の回答とか?
でも、ハイミルドの魔神がスフィンクスの謎かけを知ってるとは思えないし。
けど偶然の一致にしても、一字一句同じというのは、どうだろうか。
「我はわかったぞ」
ゴールドドラゴンさんは、得意げに鼻を鳴らした。
「答えはドラゴンだ。我なら、朝は四つ足で動くし、運動するため昼は二本足で歩く。夜は時々ムラムラして、もう1本の隠れた足が――」
おい! やめろ!!
いきなり下ネタぶっこむな、この変態ドラゴン。
ほら……。パーヤとクレリアさんが、すっごい冷たい目で見てるぞ。
「不正解だが、最初に答えたということで、お前だけ外に出してやろう」
「おお。それはありがたい。トモアキ、外で待ってるぞ」
悠々とドラゴンさんは、外へと出ていった。
完全に厄介払いされたな。
こうなれば、犬魔神ルグルの独擅場だ。
いきなり高笑いを上げたかと思えば、途端に不遜な態度を取り始める。
「ふははは! 厄介者はいなくなった。さあ、答えてみよ」
「そんな生物、知りませんわ」
「モンスターでそんなヤツいたっけ?」
パーヤとクレリアさんは、顔が赤くなるまで考えている。
そりゃ必死に考えるよね。
間違えたら、死ぬんだもの……。
でも、どうしよう。
みんな、あんなに一生懸命考えているのに、ぼくだけ答えを知ってるなんてわかったら、どう思うかな。
てか、こんな問題を出した魔神が悪い。
「ガヴ……。ちょっとこっち来て」
緊迫化する洞窟内で、全く状況をわかっていないガヴを呼ぶ。
そっと耳打ちした。
「わかったかい、ガヴ」
「がう゛」
うん、と頷き、ガヴはルグルの前に進み出る。
相変わらずお腹が空いてるらしい。
口に指を突っ込み、ペロペロとなめながら、ガヴはいった。
「おいしそう」
「ひ、ひぇ……」
ガヴ、違うでしょ。
犬魔神が本気でビビッてるじゃないか。
改めて獣人幼女は答える。
「にんげん……」
「は?」
「こたえは、にんげん……」
――沈黙が流れる。
緊張した空気が、膨れあがっていくのがわかる。
しかし、一番身体を強張らせていたのは、ルグルだった。
「なぜ、わかった……」
「ガヴ、うまれたとき、ハイハイしてた。いま、2つのあし立ってる。でも、としとると、杖つく」
「くぅぅぅ……。せ、正解だ」
ルグルは悔しそうに崩れ落ちた。
魔神ががっくりと項垂れる一方で、ぼくたちはガヴを中心に輪を作る。
モフモフの耳をこぞって撫でた。
「すごいですわ、ガヴちゃん」
「トモアキに教えてもらったのかい?」
「うん。パーパにおしえてもらった」
「さすが、ご主人様!」
「人間なんて想像もしなかったよ。さすがトモアキだね。魔法も凄いのに、頭もいいなんて」
「ま、まあね……」
いえない。
答えを知ってましたなんて、とてもじゃないけど、いえない。
すると、ルグルはそっと近づいてきた。
「試練をくぐりし者よ。持っていくがよい。これが転職の書『デューダ』だ」
自分の顔よりも大きな書物を差し出され、ガヴは受け取る。
幼女はしげしげと眺めた後、貴重な書物を見て、こういった。
「おにくみたい……。おいしそう」
よっぽどお腹が空いてたんだな、ガヴ……。
◇◇◇◇◇
ぼくたちはまたゴールドドラゴンさんの背に乗り、アリアハルに戻った。
デューダを見て、満足したのか。
そのままドラゴンさんは帰っていった。
出来れば、2度とあの人には関わりたくないなあ。
あ、でも……。竜の背にはまた乗せてもらいたいけど。
今度は、ピクニックとかに使いたいや。
変わらず、ぼくの屋敷にはたくさんの人が詰めかけている。
ぼくが帰宅すると、一層「キング! トモアキ!」のかけ声が大きく響いた。
早速、ある人を呼ぶ。
客間に通す。その人は疲れた顔をしていた。
「トモアキ殿、お呼びでしょうか?」
その人はライドーラ王国の軍隊を率いていた元兵士長さんだ。
今では、ぼくの農園で仲間と一緒に働いている。
「顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?」
「ご心配なく。これでも元は兵士です。体力には自信があります」
強がるのだけど、とても大丈夫そうには見えない。
でも、暗い顔ではなかった。
どこか充実しているように見える。
「転職の書『デューダ』を入手しました」
そういうと、疲れが吹き飛んだのか。
元兵士長さんは手を叩いて喜んだ。
「これでトモアキ様が王となってくれるのですね。……実は、これを見てください」
紙の書類を広げる。
そこにはたくさんの人の名前が書かれている。
名前の横には役職まで記載されていた。
「この国を良くしようと考えている人たちを集め、適材適所に振り分けました。信用できる人間ばかりです。是非、国の再建のために汗を掻かせてやってください」
どうやら農園の仕事の合間に方々に掛け合って、集めたらしい。
すごい、と思わず息が漏れる。
よく見ると、ちゃんと経歴まで書かれていて、見やすい書類になっていた。
確かにこの人たちなら、ライドーラ王国をより良い国に作り替えてくれるだろう」
ぼくはふと気付く。
「兵士長さんの名前がないようですけど……」
「私は国を裏切った身です。国の政治に関わるわけにはいきません。……それに最近、土いじりの方が楽しいのです。兵士をやっている時より、充実感を感じます。クレリア殿には怒られてばかりいますが……」
「なるほど。そうですか。では、ちょうどいい」
「ちょうどいいとは?」
「兵士長さん、あなたは馘です」
「馘って……。解雇するってことですか?」
「そうです」
兵士長さんは思わず立ち上がった。
「理由なんですか? 私は真面目に働いていたと思いますが」
「あなたの勤務態度は良いと報告は受けています。でも、勤務とは別のことに力を尽くすのはどうかと思います」
「しかし! 国の再建のためには必要なことで――」
「確かにそうかもしれません。でも、体調を崩して挙げ句倒れるようなことがあれば、その国の再建もできなくなる。違いますか?」
「そ、そんなことにはなりません。それにこれで私はお役ご免です。あとはトモアキ殿が――」
「だから、あなたが王様になってください」
必死に弁明していた兵士長さんの動きが止まった。
目をぼくに固定したまま、ぽかんと口を開けている。
こんな面白い顔をする人だったのだな、とぼくはちょっと笑ってしまった。
しばらくして、やっと短い言葉を絞り出す。
「わ、私が王様……」
「ぼくは異世界の人間です。あなたほど、この国に愛着があるわけじゃない。いや、あなた以上にこの国のことを考えている人をぼくは知らない。だからこそ、あなたがなるべきだと考えています」
ぼくはデューダを差し出す。
「良い王様になってください」
目一杯微笑んだ。
兵士長さんは誘われるように転職の書を受け取る。
こうして揺れに揺れていたライドーラ王国の政変は収まった。
王様となった兵士長さんは、善政を敷き、名君と慕われるようになったそうだ。
事前に告知しておりましたが、
しばらく休載させていただきます。
予定としては今年度一杯なのですが、ぺぺぺ……は割と書きやすい作品なので、
突然ポッと投稿するかもしれません。
Twitterや活動報告にはお知らせするつもりですが、
ブックマークしてもらうとありがたいです。
少し暖かくなった時に再会しましょう、ではでは。




