第86話 魔法使い、試練に挑む。
「さて、では早速【デューダ】を探しにいくか」
ゴールドドラゴンさんは中庭に出ると、竜の姿に戻った。
金色の肌は陽の光を受け、目映く光っている。
翼を広げると、巨大な影がぼくを覆った。
「もしかして、ゴールドドラゴンさんも来るんですか?」
「なんじゃ? 我が同行するとまずいことでもあるのか?」
質問を質問で返される。
長い首を動かし、ぼくを睨んだ。
別にまずいことはないけど、同行することが意外というか……。
ゴールドドラゴンさんって、どっちかというと、煽るだけ煽っておいて自分は何もしないというタイプのキャラだと思っていた。
「【デューダ】というものが、どんなものか気になるからな。一目見ておきたい」
なんか思わせぶりにいってるけど、ようは暇なんじゃないかな、この竜。
守護竜も廃業しちゃったわけだし。
定年を迎えた老害会社OBみたいだ。
「何かいったか?」
「なんでもありません。それより、お願いしたいことがありまして」
「ん?」
「ゴールドドラゴンさんの背中に乗せてくれませんか?」
「お主には、あの空飛ぶ乗り物があるだろう」
「ごもっともなんですが……」
ぼくはそっと屋敷の門扉の方を見る。
そこにはたくさんの人たちが押し掛けていた。
ぼくが外に出てきたのを見て、もの凄い歓声を上げている。
「キング! トモアキ!」というシュプレヒコールが起こっていた。
さすがに、これでは外に出られない。
「なるほど。わかった。そこな女たちも、我が背に乗ることを渇望するのか」
振り返ると、パーヤとガヴ、クレリアさんまで立っていた。
「是非!」
「がう゛!」
「もちろんよ」
3人はそれぞれリアクションし、ゴールドドラゴンさんの質問を肯定する。
「いいの、3人とも? 今から行くところは、危険なところかもしれないんだよ」
「ご主人様が行くところなら、どこにでもお供しますわ」
「ガヴ、パーパといく!」
「水くさいわよ、トモアキ。あたしたち、家族でしょ」
最後にクレリアさんは、ウィンクする。
ぼくはちょっと泣きそうだった。
年を取ったってことかな。
最近何だか涙もろいような気がする。
いくら自分にレベルマの力を持っていても、1人は心細かったんだ。
良かった。ぼくに家族がいて。
「では、とっとと乗れ。最速で地図の場所に運んでやろう」
長い首を地面に下ろす。
ここから乗れということらしい。
ラッキー。
1度でいいから、竜の背中に乗ってみたかったんだよね。
やっぱ男のロマンでしょ。
竜に騎乗するのって。
◆◆◆
おお!
思わずぼくは竜の背中の上で歓声を上げてしまった。
空を飛ぶのには慣れているはずだけど、別の感動がある。
翼が動くたびに、加速していくのも、何か不思議だ。
予想していたほど、風圧は感じない。
きっとゴールドドラゴンさんが気を利かせて、向かってくる空気を魔法か何かで弾いているのだろう。
宇宙船ほどのスピード感は感じないけど、ぼくたちは快適な空の旅を楽しんでいた。
「地図ではこの辺りのはずだが……」
ゴールドドラゴンさんは辺りを旋回する。
だが、それらしきものは見当たらない。
洞窟とか地下にあったりするのかな?
それだと面倒だけど……。
「もう1度、K2に尋ねてみてくれ」
ぼくは呪文を使い、K2を起動する。
裏技の説明通りに声をかけてみた。
「へい、K2。【デューダ】の場所を教えて」
「スイマセン。キキトレマセンデシタ。アト、アナタカラハ、ぱっしょんヲカンジマセン」
また言ってるよ。
完全に壊れてるな、この聖剣。
機種変更するぞ。
「どれ、我がやってみよう」
ゴールドドラゴンさんが質問すると、あっさりK2は地図を吐き出した。
腹が立つぅ!!
地図と辺りの地形を見比べながら、ぼくたちは【デューダ】がある場所を探る。
「あれではないでしょうか?」
最初に見つけたのは、パーヤだ。
そこは渓谷の中だった。
よく見ると、大扉が谷に沿うようにそびえている。
ゴールドドラゴンさんは目の前に着陸し、ぼくたちを下ろした。
自分も人間の姿になる。
奇妙な紋様が描かれた大扉をコンコンと叩いた。
「かなり古い扉のようだな」
「この扉すごいよ、トモアキ。むちゃくちゃ難しい術式で閉めてある」
クレリアさんが解説する。
ぼくも鑑定呪文を唱えてみた。
とうきょ〇と たいと〇く こまが〇ばんだ〇の がんぐだいさんぶのほし
名前 まほうのおおとびら
じょぶ たからをまもる
レベル∞
こうげきりょく ∞
ぼうぎょりょく ∞
たいきゅうりょく ∞
めいちゅうせいど ∞
まりょくほせい ∞
ぞくせい ∞
うらわざ なし
すご! カンストどころか、レベルが無限になってるよ。
さすがにこれでは、レベルマになっても、ぶち破るのは無理かな。
でも、K2が指し示す【デューダ】の在処は、間違いなくこの扉の向こうだ。
「K2……。あ、そうか」
良い考えを思いつく。
ぼくは聖剣を構えた。
思いっきり大扉をぶっ叩く。
ポコッ!
間の抜けた音が鳴った。
すると、扉は砂のように崩れていく。
あっという間に消滅し、ぼくたちの前には奥へと続く廊下だけが広がっていた。
「なるほど考えたな。ルールブレイカーで大扉の使命を破壊したのか」
ゴールドドラゴンさんは、顎を撫でながら感心する。
「凄いですわ、ご主人様」
「ぱーぱ、凄い!」
「さすがはトモアキ、あったまいい!」
3人とも褒めてくれる。
ちょっと照れくさいや。
本当に単なる思いつきだったけど、うまくいって良かった。
ルールブレイカー、使いこなすことが出来れば、かなり便利なアイテムだな。
K2は糞だけど……。
ぼくたちはぽっかりと空いた洞窟の向こうへと入る。
中は真っ暗闇で何も見えない。
ぼくは呪文を唱えた。
「ゆう○い――」
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。
レベルマ状態にして、さらに魔法を唱える。
「光の精霊フォリリアよ。其の力を持って、我が前の闇を払え」
明光!
闇の世界に光が満ちる。
すると、まず聞こえたのが、悲鳴だった。
「ぎぃやややああああ! まぶしいぃいいいいい!!」
何か巨大なものがのたうつ音が聞こえた。
さらに、地面が揺れる。
ぼくはガヴたちを支えながら、地震に耐えた。
「なんだ?」
顔を上げた先にいたのは、巨大な犬人間だった。
とかく全身真っ黒な毛に覆われ、顔はドーベルマンに似て、鼻先が長い。
身体はとてもシャープで、1本の若木がそびえているように見えるが、しなやかな筋肉の鎧に覆われているのがわかった。
その犬人間が、目を押さえながらのたうち回っている。
「ちょ! ……いきなり暗いところで、太陽みたいな光を付けるのやめてくれる! 太陽性網膜症とかなったらどうすんだよ!!」
突如立ち上がると、犬人間は唾を飛ばして抗議する。
なんで異世界の化け物が、「太陽性網膜症」なんて難しい単語を知ってるんだよ。
てか、容姿と同じく、なんか憎めないんだよな、この犬人間。
割と犬は好きだし。
そうだ。今度、ペットを飼おうかな。
ああ……。でも、ミミの一件もあるからなあ。
ガヴが何を思うか。
「我が名は犬魔神ルグル」
ぼくがどうでもいいことを考えていると、自己紹介が始まった。
「お前たちは転職の書【デューダ】を求めし者か?」
「そうだけど……」
ぼくが応じると、ルグルは歯をむき出し、ニヤリと笑った。
「ならば、我が試練に見事答えてみせよ」
犬魔神は思わせぶりな台詞を吐く。
試練かあ。
なんというか異世界とかファンタジーにはありがちだけど。
めんどくさいなあ。
試験とか嫌いだったし。
でも【デューダ】は必要だ。
ぼくは渋々その試練に挑むことにした。
こちらの更新なのですが、
今、書いてる新作と本業に割くリソースが大きくて、
すでに来週のスケジュールが怪しい感じです。
度々お待ちいただくことになるかと思いますが、
エタらせるつもりは毛頭ないので、ぺぺぺ……の方もよろしくお願いしますm(_ _)m




