第85話 魔法使い、ツッコミ倒す!
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ライドーラの王様になってほしい。
その願いは兵士長さんだけではなかった。
王都に住む人々。そしてアリアハルの人たちみんなが、ぼくに王様になってほしいと嘆願してくる。
それは屋敷に帰っても続いていた。
こうして居間でティーブレイクをしている最中も、外では「キング・トモアキ」の大合唱だ。ハイミルドでは王様のことを「キング」なんていわないのだけど、きっとぼくが異世界出身者だと知って、調べたのかもしれない。
中折れ帽に白のスーツを着て、ゴールしたら踊らないとダメなのかな……。
ぼくに王様になってほしいのは、ライドーラの民だけじゃない。
はっきりはいわないけど、クレリアさんもパーヤも、ぼくが王様になることは反対していないようだ。
「どうしようかな、ガヴ」
膝の上に載せ、獣人幼女をモフモフする昼下がり。
ガヴはこちらを向き、薄い水色の瞳を純粋に光らせた。
「パーパ、キング!」
よくわかっていないらしい。
ガヴにとっては「キング」という単語は、何か強いイメージがあるのだろう。
パタパタとパーヤが居間にやってくる。
息を切らし、ちょっと慌てた様子だ。
何かあったのかな。
「ご主人様、お客様です!」
あれ? 確かぼく、今日は来客をお断りするようにいっていたはずなんだけど。
「それがちょっと変わった人というか……」
「失礼するぞ、魔法使い」
入ってきたのは、長い金髪に優しそうな目をした男の人だった。
派手な金色のローブに、ベルトまで同じ色だ。
誰だろう?
まったく覚えがないんだけど……。
でも、このキンキラ感。なんか覚えあるんだけどなあ。
「なんだ、忘れたのか。我だよ、我?」
「我?」
「ゴールドドラゴンじゃよ! 忘れたのか」
「え? ぅええええええええええ!!」
ぼくの絶叫は、2階建ての屋敷を貫いた。
「落ち着いてください、ご主人様。間違いありません。先ほど、我が家の庭に降りたって……。その時は竜の姿だったのですが、一瞬で――」
そういえば、さっき外でどよめきが聞こえていたな。
ゴールドドラゴンが庭先に降り立ったら、驚いて当たり前だろう。
いや、それよりも驚くべきは、あのゴールドドラゴンが人間になっているところだ。
「別に特別なことではない。人間に化けるなど、守護竜には造作もないことよ」
何食わぬ顔で自慢する。
そういうのも造作もなく、やらないでほしいなあ。
心臓が止まるかと思ったよ。
ぼくよりチートじゃないか。
「ところで、人気者ではないか、キング・トモアキ」
「その名で呼ばないでください。こっちは困ってるんです」
「王様になりたくないか?」
そりゃあ、まあ……憧れないわけではない。
ぼくの一言で、国のあらゆる人が動き、その命令に従うのだ。
美味しいものだって食べられるし、たくさんの娯楽を堪能できるだろう。
こ、後宮というのにも、ちょっと……ちょっとだけ入ってみたいし。
でも――。
王様になっても、ぼくのいうことを聞いてくれるというわけじゃないだろうし。
美味しいものは食べられるかもしれないけど、ルバイさんの宿の近くにある大衆食堂に行きにくくなる。娯楽もすぐに飽きてしまうだろう。
後宮は…………やっぱ興味あるけど。
それでも今の生活がいい。
この家と、家族を手放したくはなかった。
「ご主人様……」
話を聞いていたパーヤは、涙を拭う。
「パーパ、ガヴもパーパと離れたくない」
「ありがとう、ガヴ」
頭をモフモフする。
娘同然の獣人幼女を見ながら、ぼくは決意を固めていく。
「しかし、お主のせいでこの国が無茶苦茶になったのは確かだ」
相変わらずゴールドドラゴンは空気を読まないなあ。
今、すごい良いところなのに。
「そうはいいますけど、そもそもこのハイミルドでは、ぼくは王様になれませんよ。この世界は、ジョブによって決まるんでしょ? ぼくは魔法使いですよ」
「方法がないわけではない」
「え?」
「転職の書【デューダ】を使えば、お前は王様になることができる!!」
悟りの書か!!!!
てか、デューダって!
商標権とか大丈夫なの?
「そんなもの聞いたことありません。そもそもどこにあるかわからないものを」
「ならば、聞いてみればよい」
「誰に?」
「お主の持ってる聖剣じゃよ」
聖剣?
ぼくは道具袋から剣を取り出す。
最近手入れしていなかったけど、綺麗な刀身は差し込んだ陽の光を受けて、キランと光っていた。
この聖剣が喋るのだろうか。
ドラゴンが人間に変身できるんだから、喋る剣がいてもおかしくないけど。
「えっと……。聖剣さん。デューダの場所を教えて」
「…………」
無反応。
ほら、やっぱり喋らないじゃないか!!
ゴールドドラゴン(人)は顎を撫でる。
「おかしいのう。お主の力なら喋ると思ったのだが」
力? まさか――。
ぼくは呪文を唱えた。
「ほりい○う じえにつ○すど ら○くえす とだよ」
レベル50にする魔法を聖剣ルールブレイカーにかける。
さらに呪文を唱えた。
「とうきょ〇と たいと〇く こまが〇ばんだ〇の がんぐだいさんぶのほし」
鑑定魔法をかける。
ぼくの脳裏に聖剣のステータスが浮かんだ。
名前 モモ
じょぶ K2
レベル50
こうげきりょく 1
ぼうぎょりょく 1
たいきゅうりょく ∞
めいちゅうせいど 1
まりょくほせい ±0
ぞくせい 無
うらわざ おんせいにんしき
やっぱり裏技が出てきた。
なんか嫌な感じだなあ。
王様になれない理由を、ぼくが嫌うハイミルドのシステムにかこつけて断ろうとしたけど、なんか出来そうな流れだぞ。
でも、まあ……王様云々は置いて、聖剣の裏技には興味がある。
ぼくはさらに鑑定した。
おんせいにんしき
1.「ヘイ! K2」と話しかけてください。
2.簡潔に命令をお願いしてください。
注意事項 仕様により、よく聞き取れない場合があります。
S○riかよ!!
なんでスマホの音声認識の使い方みたいなのを書いてんだよ。
てか、K2ってなに?
名前が変わって、なんか未来感出してるけど、ようは「けつ」っていわせたいんだろ!
あっちは「尻」で、こっちは「尻」かよ!
駄洒落にもなっとらんわ!!!!
「落ち着けよ、トモアキ」
ずずぅ、といい音を立てて、ゴールドドラゴン(人)はお茶を飲む。
これが平静いられるか!
というか、ぼくのお茶を勝手に飲まないでほしい。
粗方ツッコミまくったぼくは、一旦気持ちを落ち着ける。
再度、剣を向き直った。
大いに気が進まなかったけど、聖剣ルールブレイカー改めK2に話しかける。
「へ、ヘイ! け、K2!」
「スイマセン。ニンシキデキマセンデシタ」
おお。本当に喋った。
さっきまで、裏技のセンスのなさに怒り狂ったぼくだったけど、単純に驚く。
改まって、話しかけた。
「ヘイ! K2!」
「スイマセン。モットカワイクイッテクダサイ」
なんでだよ!
もっと可愛くってなに?
てか、AIが「可愛く」なんて要求するなよ。
ああ、そうか。AIじゃなくて、聖剣だった。
「ヘイ! K2ちゃん!」
「ウザイノデ、ちゃんヅケヤメテクレマセンカ」
ウザイのはお前の方だよ!!
はあ……。
ヤバい。ツッコミすぎて、ぼくのキャラ崩壊しそう。
「ヘイ! K2!」
「モットジョウネツテキニ!」
「ヘイ! K2ぅ!」
「ぱっしょんヲモッテ! アナタノナカニアルスベテハキダスノ!」
「ヘイ! K2ぅぅ!!」
「ソウソウ! ヨクナッテキタYO!」
「お前は舞台の演出家か!!」
「イイエ、チガイマス。K2デス」
やたら冷静なツッコミが返ってきた。
「ゴールドドラゴンさん。この剣、壊していいですか?」
「気持ちはわかるが、まあそれぐらいにしておけ。どれ……。我が、聖剣に聞いてみようではないか」
ゴールドドラゴン(人)が試してみる。
「ヘイ! K2! ……転職の書【デューダ】がどこにあるか教えてほしい」
「テンショク ノ ショ でゅーだ ノ バショヲまっぷデヒョウジシマス」
聖剣から光ると、プロジェクションマッピングのように天井に地図が表示された。
本当に聞けば、わかるんだ。
賢いんだな、K2は。
って、なんでぼくの声には反応しなかったんだ。
そりゃあ、昔の車載ナビの音声認識とかは、声の質によって認識されなかったって聞いたことがあるけど。
ぼくはもう1回尋ねる。
「ヘイ! K2! なんでぼくの声に反応しないんだよ」
「マダマダ! マダトモアキハ、ジブンヲダシキレテナイヨ!」
だから、そのエクササイズのインストラクターみたいなノリはやめろ!
そんなこんなで、ぼくたちは転職の書【デューダ】を探しにいくことになった。
最近知ったのですが、グーグル翻訳で「pe pe pe……」と日本語入力し、ソマリ語に出力した後、ソマリ語で出てきた言葉を日本語に翻訳しなおすと、凄い言葉になるそうですね。
つまり、エニックス(チュンソフト)の社員は「ぺぺぺ……」という言葉の重要性に開発当時から気づいていた!
な、なんだ(ry




