第84話 魔法使い、王都を救う。
新年あけましておめでとうございます。
本年もまったり更新を続けて行くので、よろしくお願いします。
新年のお祭り騒ぎもようやく落ち着き始めた頃、ぼくは居間で新聞片手にティーブレイクをしていると、気になる記事を見つけた。
ライドーラ王国の王都が混乱し、暴動が起こっているという内容だった。
サマーノ王をはじめ、王子や王族は次々と処刑された。
さらにライドーラの重鎮や貴族たちもいなくなり、王様をやる人間がいなくなってしまったそうだ。
今は、王族の生き残りと旧大臣派に別れ、王都民を巻き込んでの内戦にまで発展してしまった。
「うーん。ぼくが悪かったのかな」
「ご主人様は悪くありませんわ。国民を無視した政策をとってきた王様たちが悪いと思います」
パーヤがそっと新しいお茶をサイドテーブルに置いてくれた。
暗い表情のぼくを勇気づけてくれる。
とはいえ、王都の人が可哀想だ。
王都にはうちの畑で働いている兵士さんの仲間や、親族が残っている。
その人たちだけでも助けてあげられないだろうか。
「ふふ……。ご主人様はお優しいんですね」
「そうかな?」
「普通の日常を送りたいだけといいながら、国のことを考えてくれているので」
確かに変な話だな。
ライドーラ――いや、アリアハルに来て1年も経っていないはずなのに、なんか愛着が湧いてしまっている。
たぶん、この街には家に住む3人以外にも、大切な人たちがいるからだろう。
「でも、ぼくが介入したら、もっとややこしくなるんじゃないかな」
すると、来客を告げるノックが聞こえた。
パタパタとパーヤが応対する。
居間に顔を出したのは、うちの畑で働く兵士長さんだった。
かつては敵同士だったけど、今では鍬の似合ういい農夫になっていた。
「トモアキ殿、折り入ってお話があります」
何やら深刻な話らしい。
ぼくは兵士長さんを客間に通し、話を聞いた。
少し話しづらそうにしていたので、ぼくから切り出す。
「もしかして王都で起きてる暴動の話ですが。やっぱり心配ですよね」
「確かに暴動のことも心配なのですが、行商の者から気になることを聞きまして」
やっと兵士長さんは事情を切り出し始める。
その内容に反射的に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「魔族の軍勢が王都に!?」
「はい。ヤツら、王都が混乱しているのをいいことに、軍勢を送りつけたようです」
「数は?」
「およそ3千。決して多くはないのですが、今の王都の状態ならあっさり制圧されてしまうでしょう」
兵士長さんは、椅子を蹴って立ち上がる。
床の上で膝をつき、頭を下げた。
「お願いです、トモアキ殿。王都を、我らの王都をお救いいただけませんか。兵士の任を降り、王都を捨てた我らですが、やはり心の故郷である街を魔族どもに潰されるのは我慢ならないのです。王に剣を向けられたトモアキ殿に、このようなお願いをするのは筋が違うことは重々承知しております。ですが、恥を忍んで――」
「わかりました。わかりましたから、兵士長さん。顔を上げてください」
顔をあげると、兵士長さんの頬は濡れていた。
ぼくよりも2回りほど年を取った大の大人が、泣いていたんだ。
よっぽど不安だったのだろう。
そして、刃を向けたぼくに頼み事をすることに、葛藤もあったのだろう。
それを一遍に吐き出し、一緒に涙まで出てしまったんだ。
乙女の涙なら、ぼくは2つ返事で答えていただろう。
でも、本気の漢の涙なら、ぼくは決して願いを無下にしたりしない。
ぼくは黙って頷いた。
兵士長さんは、信じられないという顔をして呟いた。
「では――」
「はい。行きましょう、王都へ」
「ありがとうございます!」
ぼくの手をがっしりと掴み、兵士長さんは何度も頭を下げた。
「トモアキなら、そういうと思ったよ」
すると、声が別の方向から聞こえた。
居間の扉枠にもたれかかるように立っていたのは、クレリアさんだった。
「勿論、あたしも加勢するよ。連れて行かないなんていわないよね」
「微力ながら、私も助太刀いたします」
「がーう゛!」
さらにパーヤとガヴまで加わる。
兵士長さんは3人の方を向いて、頭を下げた。
「皆さん、ありがとうございます」
「お礼をいうのは、あたしたちだけじゃないよ」
クレリアさんは窓の方をゆびさす。
そういえば、何か騒がしい。
窓を開ける。
冷たい風とともに、聞こえてきたのは、人の声だった。
「我々も行きます!」
「連れてってください、兵士長」
「水くさいですよ」
「我々からもお願いします、魔法使い殿」
「「「どうか。我らの王都を助けてください!」」」
屋敷の周りに集まっていたのは、アリアハルで働く元兵士たちだった。
みなの手に武具はなく、鍬や鶴嘴、あるいは金槌が握られている。
とても兵士には見えなかったけど、精悍な国を守る者の顔をしていた。
「お前たち、ありがとう」
再び兵士長さんの瞳から涙がこぼれ落ちる。
兵士たちからも啜り泣く声が聞こえた。
やがて、ぼくの方に振り返る。
「トモアキ殿……」
「はい。行きましょう、王都へ!」
◇◇◇◇◇
ぼくは宇宙船を使って、王都へ向かう。
船にはぼくと3人の家族、兵士長さんと30名ほどの兵士を連れてきた。
この10倍以上の志願者がいたけど、さすがに人数オーバーだ。
兵士長さんが選抜した精鋭だけを乗せ、あとはアリアハルの防衛をお願いした。
王都上空へ辿り着く。
情報通り、王都に広がる平原に魔族の軍勢が迫っていた。
「パーヤ、ガヴ。宇宙船をお願いするね」
「お任せください!」
「がーう゛!」
ぼくは外へと出る。
クレリアさん、兵士長さんと続いた。
眼前にいたのは、見たこともない魔族の軍勢だった。
オーガ、サイクロプスなどの巨人系を先頭に、ワイトやスケルトンの死霊系、空をワイヴァーンやキメラが固めている。
圧巻の光景だ。
兵士長さんは少ないといっていたけど、さすがに足が竦む。
でも、そんなことはいってられない。
約束したんだ、兵士長さんやその兵士の人たちを。
王都を救う、と――。
ぼくは手を掲げる。
復活の呪文を唱えた。
「ゆう○い――」
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。
レベルマ状態にする。
さらに呪文を唱えた。
「精霊の一鍵イフリルよ。其の力、我の手に宿りて、紅蓮を示せ!」
火の弾!
紅に染まった一条の炎が、戦場を切り裂く。
分厚い魔族の壁に、大きな穴を穿つ。
突然の巨砲に進撃し続けていた魔族の動きが止まる。
よし! 足を止めたぞ!
「兵士長さん、兵士の皆さん、ぼくの周りに集まってください」
指示を出すと、兵士の皆さんは大人しく従ってくれた。
ぼくは再び呪文を唱える。
ほりい○う じえにつ○すど ら○くえす とだよ
「これで皆さんのレベルが50まで上がりました」
一応鑑定の魔法を使ったけど、間違いなくレベル50になっていた。
兵士さんたちから驚きの声が漏れる。
「ご、50!」
「なんか、凄い力が上がったような気がする」
「おお! 今なら、魔王だって倒せそうだ!」
「魔法使い殿、ありがとうございます」
「効力は1時間だけなので、気を付けてくださいね」
「よし! 行くぞ! かかれぇぇええええ!!」
兵士長さんの指示の元、選ばれた30名の兵士たちは気勢を上げて、魔族に襲いかかる。
アリアハルで用意してもらった剣や槍を使い、次々と魔族を打ち倒していく。
一般兵とは思えない鬼神のごとき戦いだった。
きっとみんな、王都を守りたかったんだろう。
「あたしも負けてられないね」
“死と炎、破壊を司るものよ!”
得意の爆裂魔法をクレリアさんは、軍勢の中心に撃ち込む。
一瞬にして、魔族たちが蒸発していった。
「王都は落とさせませんわ」
「がーう゛!」
空ではパーヤとクレリアさんが奮戦していた。
魔族の空の部隊を次々と打ち落としていく。
「これで20匹! 次はどなたですか!!」
気合い十分だ。
まるでエースパイロットのような活躍だった。
ぼくも負けてられないな。
「ふ!」
連続魔法。
でも、想定していた炎は手から出ない。
あ。そういえば、レベル50にする魔法を使ったんだっけ。
カッコ悪い……。
戦場でちょっと気恥ずかしくなりながら、ぼくは改めて魔法を唱えるのだった。
◇◇◇◇◇
3000匹の魔族の軍勢は、1時間も待たずに駆逐された。
王都は守られたのだ。
背後から歓声が聞こえる。
王都の民が、城壁に上り、ぼくたちの活躍に賛辞を送っていた。
ホッと胸を撫で下ろすものがいる一方、虚ろな目で光景を見つめている子供の姿もいた。
あまり食べ物を食べていないのだろう。
混乱が続いて、満足に食事が出来ない状況が続いているのかもしれない。
自分が引き金になったかと思うと、少し心が痛んだ。
そんな折り、兵士長さんがぼくの方にやってくる。
再び膝をつき、頭を下げた。
「トモアキ殿、ありがとうございます。王都都民を代表しお礼を申し上げます」
「いえ。みんなの力があったからこそですよ」
「トモアキ殿、もう1つ我らの願いを聞いてもらえないでしょうか」
次々と兵士さんたちが、兵士長さんの後ろに居並ぶ。
真剣な目をぼくに向けた後、額を地面に付けた。
「どうか。我らの王になっていただきたい!!」
……え?
えええええぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!!
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