第81話 王様、ザマーノ
暗闇の中で兵士たちの歓声が聞こえる。
おかしい、とライドーラ国王サマーノは訝しむ。
何故なら、王国の兵のほとんどが倒されてしまった。
あのアイダトモアキなる魔法使いに。
サマーノは瞼を持ち上げた。
眩しい陽光が目に入り、わずかに抵抗する。
広がった光景を見て、MAXまで開かなければならなかった。
爆炎にまかれ、光のようなもので五体を切り裂かれた兵士たちが、立ち上がり、声を上げていた。肩を組み、生きてることを謳っている。
「おお。我が兵が……」
奇跡だ。
サマーノは唸りを上げる。
これこそ大神のお導き。
その慈悲だと信じて疑わなかった。
自らの言葉によって、勇敢な兵士の生還を讃えようとしたが、不可能だった。
立ち上がろうとすると、その場でコテンとダルマのように倒れる。
たった今気付いたが、両手両足を縛られた状態だった。
「我が兵よ! この縄を解いてくれ」
命令するが、王の声は歓喜の中に埋もれてしまった。
代わりに気付いたのは、魔法使いの格好をした男だ。
魔法兵かと思ったが、違う。
この世でもっとサマーノが唾棄する存在だった。
「アイダトモアキ……」
憎々しげに睨むのだった。
◇◇◇◇◇
時間は王様が気付く少し前にさかのぼる。
ぼくは王様を聖剣で気絶させ、まず兵士たちを助けることにした。
街を壊そうとした不逞な輩だけど、彼らも命令されて攻撃しただけだ。中には、アリアハル出身者だっているだろう。心の底からアリアハルを潰したいと望み、戦った人は少ないはずだ。
それに兵士がいなくなったら、困ることもあるからね。
ともかく、ぼくはあらかじめロダイルさんに頼んでいた神豆を持ってきてもらった。きちんと、人数分揃えてくれた。これだけ用意するのは大変だっただろう。
「本当にいいのか、兵士を回復させて」
「彼らに罪はありませんよ」
ロダイルさんは息を吐く。
やれやれと首を振った。
「魔法使いは甘いな。……ま、それがお前の良いところなんだろうけどな」
褒め言葉なのかな。
ともかく、言葉通りに受け取っておこう。
ぼくと家族、ロダイルさんで手分けして、怪我人に神豆を食べさせた。
さすがは神豆だ。
生きていれば、多少の傷は治してしまう。
腕や足が吹き飛んでいても、治っちゃうから凄いよね。
問題は亡くなってしまった人だ。
「ご主人様、あまり気に病まない方が……」
「そうだよ。これは戦争なんだ」
「がーう゛」
家族は励ましてくれる。
そうだね。
戦うと決めた時は、仕方がないと思ってた。
でも、ぼくは彼女たちの家族なんだ。
あまり人殺しの汚名を被ってほしくない。
それが自分たちを守る戦いであってもだ。
「おーい」
戦場に小さな女の子のような声が響き渡った。
城門から走ってきたのは、とんがり帽子を被った魔法少女。
クレリアさんのお姉さん――ルーイさんだった。
手には何やら本を持っている。
「トモアキ、派手にやったのう」
あちこちに空いた穴を見ながら、こっちに近づいてきた。
実は、戦場に来る前にちょっと頼み事をしていたのだ。
「グッドタイミングです、ルーイさん」
「おだてられても1ゴルだってまけてやらんぞ」
相変わらず、商売っけが強い人だな。
期待はしてないけど。
すると、ルーイさんはぼくに本を手渡す。
反応したのは、パーヤだった。
「それってもしかして、聖書ですか?」
「神官の真似事をしていたパーヤならわかるじゃろう。そうだ。これは聖書。簡単に言えば、神官の魔導書じゃ」
魔法使いが魔導書を読めるようになって、魔法が使えるように、神官は聖書を読めるようになって、神託を唱えられるらしい。
「大変だったんじゃぞ。つてを辿って入手するのは。そもそもうちの店は魔導書なんじゃからな」
「わかってますよ。でも、ルーイさんなら揃えてくれると信じてましたから」
「な!!」
ルーイさんの顔が赤くなる。
プイッと顔を背けた。
「だ、だから別におだてても何もないといっておろう」
「おねーちゃん、なんでそんなに顔を赤いの」
「う、うるさい! クレリア! たまにはこっちにも顔を出せ」
話を変えようとする。
何を恥ずかしがってるんだろう。
ぼくはルーイさんの商魂なら、きっと揃えてくれると信じてただけなんだけどな。
「ご主人様、その聖書で何をするんですか?」
「兵士さんを生き返らせようかなって」
「そ、そんな神託はありませんよ」
一応、ルーイさんにも同じ事を言われた。
ハイミルドには人を生き返らせるような魔法や神託はない、と。
でも、ぼくならどうだろうか。
レベルマならあるいは。
可能性は〇に近いけど、やってみる価値はあると思うんだ。
「ゆう○い――」
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。
いつも通り、レベルマの呪文を唱える。
聖書を開いた。
読める。すらすらと難しい言語が、頭の中に入っていくようだ。
集中し、呪文を唱える。
「大慈神エパルよ。慈悲深き、宙を抱きしめる者よ、我が言ノ葉に耳を傾け、我が願いを届けよ。我は汝の御子トモアキ。其の光に宿る癒しを以て、傷つき戦士に愛をささげたまえ!」
慈しみ、永遠の愛を捧げよ《テルボーテル》。
世界が光に満ちあふれる。
天使の羽根が舞い上がり、可視化された人魂を包む。
魂に羽根がまとわりつくと、徐々に人間の骨格を為していった。
1人の兵士が再生する。
いや、1人だけではなかった。
地面に倒れ臥し、鼓動を止めた兵士たちが突如立ち上がり、あるいは自分の癒された身体を見て、驚いていた。
死んだ兵士が生き返ったんだ。
良かった。
魔法使いであるぼくが神官の神託を使えるかどうか自信がなかったけど、なんとかなったらしい。
本当にレベルマは便利だな。
いや、便利って次元を越えてるけど。
「すごい! すごいよ、トモアキ」
「ぱーぱ、すごい!」
「まさか回復の神託だけで、人を生き返らせてしまうなんて。さすが、私のご主人様ですわ」
ぼくが使ったのは、回復の神託だ。
ルーイさん曰く、第3階梯の神託ということだけど、ぼくには十分だったらしい。
あまりに回復の威力が強すぎて、人が生き返ってしまった。
一か八かだったけど、試して良かった。
すると、兵士たちはぼくの方にやってくる。
次々と膝を折り、地面の上に座った。
頭を垂れる。
額を土で汚す姿は、まさしく土下座だった。
「ありがとうございます、魔法使い様」
「ありがとうございます」
「まさか生き返ることができるなんて」
「これでまた子供を抱くことができます」
「この恩は一生忘れません」
口々に感謝した。
なんか変な感じだな。
彼らを殺したのは、ぼくなんだけど。
殺した相手に感謝されるなんて。
でも、ちょっとホッとする。
人を殺めるのって、あんまり良い気分じゃないからね。
さて、後はあの人だけだな。
戦場の奥で、鼾をかいてる王様に、ぼくは睨め付けるのだった。
◇◇◇◇◇
「というわけです」
ぼくは経緯を説明した。
王様はあんぐりと口を開けている。
まさに開いた口が塞がらないというヤツだ。
「人を生き返らせただと」
信じられないだろう。
ぼくだって驚いている。
でも、今王様の目の前で起こっていることは、紛れもない真実だった。
ふと王様の表情が素に戻る。
金色の歯を見せ、意地悪な笑みを浮かべた。
「我が兵を生き返らせてくれたことは感謝しよう。だが、お主と貴様を匿うアリアハルに制裁は加える」
な――!
この人、こりないなあ。
「兵士たちよ。何をしている! この者を殺せ! こいつは大神に逆らう不届きものだぞ!」
戦場一杯に響く声で叫んだ。
元気な王様だ。
いや、現金な王様だな。
その声は届いたらしい。
兵士たちは槍や弓、剣を持つ。ゆらりと近づいてきた。
王様の表情に喜色が浮かぶ。
ぼくの方を向いて、得意げに鼻を振る。
「今度こそ終わりだぞ、魔法使い」
「勝利に酔いしれるのはいいですけど、よく見た方がいいですよ」
「なにぃ」
王様はもう1度、兵士たちの方を見つめる。
憎々しげに赤くなった瞳は、自分に向いていた。
気付けば、ぼくを素通りし、王様を囲む。
兵士たちはポンポンと武器を弄びながら、ニヤリと笑った。
「な、何をする! 無礼者! 余の視界を妨げるなど」
叱りつけるが、声は弱々しい。
兵士たちの殺気を感じて、完全にびびっていた。
すると、1人の兵士がいった。
「どうする、このおっさん」
「おっさんじゃと! 無礼者! 余はライドーラ王国国王――」
「あなたはもう……。この国の王じゃないですよ」
ぼくは王様が持っていたステータスカードを見せた。
すべて白紙になっていた。
つまり、もう彼は「王様」というジョブではないのだ。
ぼくは聖剣の力を王様に使った。
人間に使うのは初めてだったけど、予想通りのジョブが剥奪されていた。
もう彼は王様じゃない。
いわば、単なる禿げで、ちょっと性欲が強そうなおっさんだった。
「火あぶりか?」
「絞首刑というのもいい」
「ともかく、ぶん殴らせてくれ! こいつが作った勇者保護法によって、俺の妹は――」
中にはアリアハルの住民までいる。
皆が口々に王の死を願う。
黒い空気が渦巻く中、最初は抵抗していた元王も次第に口を閉ざし始めた。
我慢しきれなくなった1人の住民が、王様を殴り付ける。
「な、何をする!」
「うるせぇ! お前はもう王様なんかじゃない!」
さらに殴りつけた。
1度ついた火を消すことは難しい。
人々が殺到する。
殴り、蹴り、踏みつけた。
死なない程度に斬りつけ、血が流れても、止血してまた殴った。
「やめ――。おねがい、やめてくれぇ」
歯がガタガタになっても、王様は許しを請う。
しかし、兵も住民も収まらない。
仮設の処刑台が設けられ、地面に引きずられながら運ばれる。
まず火刑――。
「ひぃいいいいいいいいやああああああああ!!!!」
それでも怒りは収まらない。
今度は斬首台を出してくると、元王を固定した。
すでに下半身は炭化し、ボロボロになっていたが、魔法によって、延命処置がされていた。
「やめ――。おねがいだぁぁ。もうじゅうぶんであろう」
「みんなに謝れ!」
「そうだ!」
「このおっさんが!!」
「あやまる。あやまるから。ごめんなさい。ごめん――」
涙ながらに謝った。
だが、もう遅い。
ライドーラ王国国王サマーノは、民衆に謝りながらも、その命を絶たれた。
サマーノ・ムーブル・ローラジアの王権は、終わりを告げたんだ。
王様の名前にあたって、サブタイにあるような台詞をどこかに入れておきたくて、ネーミングしたのですが、結局うまいシーンが見つからず、このような形となってしまった。
もしかしたら、書き直すかも。




