第79話 魔法使いですが、何か?
無双回です!
ぼくはアリアハルの門付近に行くと、人々が集まっていた。
城壁に多くの人が登り、城外へと視線へ向けている。
皆がぼくの到着を見つけると、声が上がった。
「魔法使い様だ」
「魔法使い様が来てくれたぞ」
歓迎する人もいれば。
「魔法使いは早く出て行け!」
「お願いですから、出て行って下さい」
罵声を浴びせる人もいる。
比率でいうと半々といったところだ。
けれど、誰も殴りかかろうとはしない。
ぼくの強さをよく知っているからだろう。
こういう時、名声があって良かったと思う。
望んだわけじゃないけどね。
ぼくは手を掲げた。
「ゆう○い――」
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。
レベルマになる。
軽く跳躍して、城壁の上にのぼる。
おお、と歓声があがった。
物見小屋の屋根に降り立つ。
後から、クレリアさん、ロダイルさんもついてきた。
「おお……」
思わず声を上げてしまった。
腰にショートソード。
手には長槍、身体にはライトアーマーを纏い、頭にはサーリットを被っている。
歩兵たちは横に並び、その後ろを騎馬や弓兵、黒いローブを纏った如何にもという魔導士軍団が控えていた。
その最奥。
一際堅牢な武装が施された部隊があり、何かを守るように円陣を組んでいる。
おそらく王様の部隊だろう。
アニメや映画でしか見られない光景。
それが今まさに、ぼくに向かって牙を剥いている。
はっきりいって、恐ろしい。
ふっと沸いた怒りが鎮んでいくのを感じる。
けれど、それ以上にぼくは感動していた。
これこそ――この光景こそ、異世界という感じがしたからだ。
「トモアキ、あれ」
感動に震えるぼくの横で、クレリアさんは指をさした。
白旗を持った騎馬がこちらにやってくる。
あれ?
もしかして、降伏するのかな。
それはそれで構わないけど。
でも、どうやら、ハイミルドでも抗戦の意志がないものは、白旗を上げるらしい。ロダイルさんが教えてくれた。
なるほど。そういうことか。
使者ってことだね。
その使者は城壁の手前で止まる。
「アイダトモアキとはお前のことだな」
「そうです」
ぼくは深く頷いた。
「最終警告だ。降伏し、我が王の前に跪け」
「お断りします」
きっぱりと即答した。
降伏しろだって!?
相変わらず上から目線だな。
王様だからって、なんでも思う通りになると思ったら大間違いだ。
使者は当然怪訝な表情を浮かべた。
「良いのか。お前が降伏しなければ、ライドーラ王国軍――2000が相手をすることになるぞ」
恫喝する。
昔のぼくなら、その一言で怯んでいたかもしれない。
けれど、レベルマのぼくは違う。
「あなたこそいいんですか?」
「なに?」
「ぼくは魔王の幹部を倒し、四天王の一部すら倒しました。そして、かの守護竜も認めてくれた。そんな人間相手に|たった2000の兵でいいんですか――って尋ねたんですよ」
使者は表情が変わる。
沸き上がった恐怖を飲み込むように、喉を鳴らした。
馬の腹を蹴ると、くるりと馬頭を翻す。
「その言葉、覚えておくぞ!!」
砂煙を上げて、自陣へと戻っていく。
いや、逃げ帰ったというべきだろう
「こういう時ってぼくの世界ではこういうんだよね」
ぼくは側のクレリアさんに囁く。
ロダイルさんも耳をそばだてた。
1度、大きく息を吸い込む。
「一昨日来やがれ!」
ぼくの声が戦場となる平原に広がった。
◇◇◇◇◇
「あくまで我らと一戦交えるというのか!!」
ライドーラ王国国王サマーノは、豪奢な輿の上で立ち上がった。
真っ白な顔は赤くなり、額に青筋を立てて怒りを露わにする。
地団駄を踏み、足を上げた瞬間、側にいた軍司令官が慌てて止めに入った。
「陛下、お平らに。輿の上で暴れては、万が一のことがありますゆえ」
いさめたもののサマーノは、怒りは留まらない。
奥歯を噛むと、ギリギリと歯ぎしりさせた。
「ヤツは阿呆なのか! 見ろ、この2000の勇猛な兵を! それをたった1人で相手をするというのか、ヤツは!!」
考えられるのは、トモアキという男がすでにアリアハルにいる独立派と結託し、武器と兵を揃えているかもしれないというシナリオだ。
しかし、例えそうだとしても、2000以上の戦力を揃えられるとは思えなかった。
叩けば叩くほど、トモアキなる人物がわからなくなる。
怒りに震える一方、サマーノはその阿呆と1度会ってみたいと思った。
「自ら死罪を言い渡してくれる」
拳に力を込めた。
あなたが、王様ですか?
不意に声が聞こえてきた。
その時、司令官が指をさす。
示した方向は直上だった。
「な――!」
いたのは、魔法使いだった。
少なくともそういう服装をした人間だ。
1人は飛翔魔法をコントロールした女。
その女に男が抱えられている。
先ほどの言葉は、男が発したもののようだ。
男は着地する。
砂埃が舞い上がった。
女もまた後ろに控える。
「貴様、何者だ?」
サマーノは目を細める。
だが、その顔を見て、知らなかったのは王だけだったらしい。
軍司令官が戦き、周りにいた近衛兵も「おお!」と驚声を上げた。
「陛下、申し上げます」
「なんだ、司令官」
「こいつです」
「なに?」
「こいつがアイダトモアキです」
「この冴えない男がか!」
サマーノはトモアキなる人物をゆび指すのだった。
◇◇◇◇◇
久しぶりにいわれたな。
“冴えない男”って単語。
ぼくってそんなに普段からぼうとしてるだろうか。
今日は特に怒ってる方だと思うけど。
まあ、いいや。
今はどうでもいいし、そんなこと。
けど、これがライドーラ王国の王様か。
なんか如何にも愚王って感じだな。
背も小さいし、ちょび髭が生えてるし、目は細くて陰険そう。
あと、王冠でカモフラージュしてるけど、あの髪って絶対ヅラだよね。
性欲強そうだな~。
ええっと、名前なんだっけ?
パーヤから聞いたんだけど、ザマーノだったかな。
忘れちゃった。
王様っていっとけば、なんとかなるか。
「こんにちは、王様。ぼくの名前は相田トモアキと申します」
「貴様がアイダトモアキか。よく余の前に現れたものだな」
いきなり喧嘩腰だ。
なるほど。もうすでにお怒りのモードなのか。
「よくも、余の勅命に1度ならず、2度までも背きおって。万死に値するぞ!」
「なしくずしとはいえ、ぼくもライドーラ王国の国民です。国の命令といわれれば、従うこともあるでしょう。けど、ぼくは国民である前に人間です。拒否する権利はあっていいと思います」
「勅命とは王の命令だぞ! それを背くこと自体、罪なのだ。そしてその罪は即ち死なのだ」
「勝手に人を転居させようとしたり、勝手に独占販売しろと要求を突き付けたり、挙げ句竜をけしかけたりする方が、よっぽど罪でしょうが!!」
思わず怒鳴ってしまった。
鎮まりかけていた感情が、再び溶岩のように溢れ出す。
気付かぬうちに、息が荒くなっていた。
静まり返る。
周りにいる兵も、ぼくの後ろに控えたクレリアさんも口を噤んだ。
1人――ぼく以上に怒りを爆発させたのは、当の王様だった。
「余が罪人だというのか、貴様! 一体、どれだけ余をこけにすれば、気がすむのだ、貴様は!!」
輿の上で、とうとう地団駄を踏む。
それを担ぐ兵士は一切表情を変えなかったが、少し輿が傾いた。
ぼくは王の発言を冷静に受け止める。
こけ、か……。
まったく――。
異世界に来てまで、ぼくは人の顔を窺わなければならないのか。
メンツとか、人を立てろとか。
上司を敬え、とか。
ハイミルドは剣と魔法の西洋風ファンタジーじゃないのか。
なのに、ぼくがいた世界とちっとも変わらない。
あなたがあなたのわがままを通すように。
ぼくも自分のわがままを通してるだけなんだ。
それも国を治めるとか大胆なものじゃない。
慎ましく、ゆったりとした生活を送りたい。
ただそれだけが望みなのに。
そんな小さな願いすら叶えられないなら、王様などやめてほしい!!
「戦争だ!」
といったのは、ぼくではない。
人差し指を向けた王様だった。
「全兵に命じる。こやつを召し――いや、殺せ!!」
近衛兵の槍が一斉にぼくの方へと向けられる。
後ろに控えたクレリアさんが杖を構えた。
ぼくはそれを制する。
「クレリアさんは退ってて」
「トモアキ、でも――」
「ぼくが強いってわかってるでしょ? 信じて」
「うん。わかった。でも、無茶しちゃだめよ」
それは保証できないかな。
なんせ、相手は2000の兵だからね。
クレリアさんは飛翔魔術を唱え、空へと退く。
その間、兵は何もしなかったし、王も何も命じなかった。
どうやら、用があるのはぼくだけらしい。
「優しいですね。彼女は見逃してくれるなんて」
「余は女子には弱いのでな。それになかなかの美人だしの」
舌で唇を舐める。
なるほど。そういうヤツか。
ますますこの王様が嫌いになった。
近衛兵たちは一斉に飛びかかってこなかった。
ゆっくりと近づき、円を狭めてくる。
なかなかじれったいな。
ぼくから行くか。
「“ふ”」
連続呪文でぼくはレベルマ状態を維持する。
すると、おもむろに近衛兵に近づいた。
無造作に槍を掴む。
そのまま兵ごと持ち上げると、ボールでも投げるかのように放り投げた。
激しく地面に叩きつけられると、昏倒した。
「おお……」
声が挙がる。
近衛兵の動きが止まった。
ぼくは次々に槍を掴んでいく。
雑草でも抜くようにポイポイと兵を投げて、投げて、投げまくった。
兵もぼさっと見ていたわけじゃない。
槍を突きだし、襲いかかってくる。
しかし、レベルマの肉体は刃物を全く通さない。
金属のような音を出して弾く。
これにはちょっとぼくも驚いた。
こんなにも硬くなってるんだ。レベルマ状態って。
戦く兵を尻目に、ぼくはまたポイッと投げる。
いつの間にか、近衛兵は半数までに減っていた。
そこまで来て、ようやく力量の差を知ったらしい。
誰も、ぼくに近づいてこなくなっていった。
「な、何者なのじゃ。お前」
異様な光景に、王は輿の上で震えていた。
先ほどまで怒髪天を衝かんばかり勢いで怒っていた元首の姿はない。
顔を真っ青にし、内股になった膝はかくかくと震えていた。
「単なる魔法使いですよ。ちょっと強いですけど」
ぼくは事も無げに言い放った。
まだまだ無双回は続くぜ。
※ 感想にてネタに関する説明がほしいとご指摘受けました。
時間があれば修正したいのですが、今のところ難しそうです。
少し落ち着きましたら、都度修正させていただきます。
ご了承ください。




