第76話 魔法使い、魔竜を屈服させる。
本当なら昨日、更新予定だったのですが、色々とトラブルがあって、今に至ります。
クロムドラゴンを倒す方法
① 対象に近づく。
② ゲーム機を起動し、コンテニュー画面を表示。
③ パスワードを打ち込めば、討伐可能。
――って、書いてないじゃないか!
前回の振りは一体なんだっただよ。
謎解き系のお話じゃないんだから、そこ引っ張る必要ないでしょ!
「前回? お話? トモアキ、なんのこと?」
「な、なんでもないよ」
あまりに我を忘れすぎて、思わずメメってしまった。
全部行き当たりばったりで優柔不断なヤツが悪い(すいません)。
これ、明らかに振りだよな。
ゴールドドラゴンに、クロムドラゴンと来れば、あの無理ゲーしか思い当たらないし。となると、あのパスワードぐらいだろ。有名な方であることを祈るけど。
幸いなことにぼくの道具袋には、例のゲーム機が入っている。
問題はどうやって近づくかだ。
明らかに、ゴールドドラゴンの時よりも強くなっている。
身体も大きくなったし、正直にいうと怖い。
でも、ぼくがやらなくちゃ。
他はともかく、ぼくのユートピアを潰させるわけにはいかない。
「クレリアさん、クロムドラゴンの気を逸らすことが出来る」
「トモアキがやれっていうなら、頑張るけど……」
珍しくクレリアさんが弱気だ。
だよな。気を引くだけっていっても、相手がクロムドラゴンじゃあいくら“爆撃の魔女”でも分が悪い。
せめて、クレリアさんがもう1人いれば、安全なんだけど。
『ご主人様!』
空から声が振ってきた。
パーヤだ。
宇宙船の影がぼくたちを覆い尽くす。
『すいません。ご命令に背いたことを深く反省しております。それでもわたしは、ご主人様が心配で――』
『がーう゛!』
ガヴの声まで聞こえた。
パーヤと同じく心配して戻ってきてくれたらしい。
危険なことはしてほしくなかったけど、今はグッドタイミングだ。
「ありがとう。パーヤ。グッドタイミングだよ!」
『ご主人様!』
怒られると思っていたのだろう。
パーヤの声が弾んだ。
ぼくはクレリアさんをお姫様だっこして、飛び上がる。
宇宙船に乗り込んだ。
「ご主人様、よくご無事で」
パーヤの瞳に涙が浮かんでいた。
ぼくはそっと拭う。
ガヴもぼくの腰に飛びついた。
2人を慰めた後、船内からクロムドラゴンを窺う。
レベル50にする魔法の効果時間は、約1時間。
感覚的にあと30分といったところだ。
それまでにパスワードを打ち込まないと。
ぼくは作戦を伝える。
ちょっと危険な任務だったけど、みんな了承してくれた。
操船をパーヤ。
2門のレーザー砲をクレリアさんとガヴが受け持つ。
ぼくは再び船外へと出た。
激しい気流に流されないように踏ん張る。
「よし! パーヤ、頼むよ」
作戦が開始される。
パーヤは船首をクロムドラゴンに向けた。
イオンエンジンが白く光り、唸り上げる。
一気に加速すると、ドラゴンの懐を目指した。
クロムドラゴンもマヌケではない。
ぼくたちを補足する。大きく顎門を開けた。
黒い闇の塊が口内から濃厚なソースのように吹きだし始める。
ブレスだ。
「させないよ!!」
クレリアさんがレーザー砲を撃ちまくる。
同じくガヴも。
ダブルレーザーがさらに大きな的となったドラゴンに着弾する。
如何にステータスの値が増加しようとも、遠宇宙の兵器が効かないわけがない。
事実、クロムドラゴンは壊れたバイオリンのような吠声をまき散らす。
それでもタフだ。
体勢を崩しながらも、ブレスを放ってきた。
パーヤは反応し、飛んできた黒い塊を回避する。
うまいうまい。
もしかしたら、パーヤってシューティングゲームが得意かもしれない。
ぼくが感心してる間も、船は得点でも溜めるかのようにギリギリかわしていく。クレリアさんとガヴもレーザー砲を撃ち込み続け、クロムドラゴンの動きを止めた。
とうとう接敵する。
満を持して、ぼくは船から飛び降りた。
真下にはクロムドラゴン。
ぼくの接近に気付いたのか。
顔を上げ、真っ黒な口内を見せる。
またブレスか。
1発ぐらいならレベルマのぼくなら耐えられるかもしれないけど。
覚悟を決めたその時、竜の口内が爆発した。
クレリアさんが銃座でガッツポーズを取っているのが見える。
うまくレーザー砲を口内に撃ち込んだのは、彼女だった。
クロムドラゴンは初めて大きく身をよがらせる。
好機に乗じて、ドラゴンの背に降り立った。
どれぐらい接敵すればわからなかったけど、ここなら文句ないはずだ。
竜の背中なら、攻撃も加えることも出来ない。
ともあれ、早く作業をしないと。
ぼくはゲーム機を取り出す。
起動させると、すぐにコンテニュー画面が映し出された。
コントローラーのボタンを押し、カーソルを動かす。
懐かしいという気持ちは一瞬だった。
はっきりいって、めんどくさい。
覇邪のふうい――うっ、頭が……!!
打ち込んでいる間も、ドラゴンは大人しいわけじゃない。
とにかく激しく揺れる。
ぼく、結構乗り物酔いする方だけど、気分が悪くならないのはレベルマ状態だからだろう。やっぱ便利だな、「ゆう○て」パスワードは。
「よし! これでいいだろ」
何度、見直しをした後、ぼくは「END」にカーソルを合わせた。
かみなるめよりつかわれしひかりのうろこもつものしめいはたしこのちにねむる
瞬間、ぼくたちは光に包まれる。
頭の中で声が響いた。
“滅ぶ! クロムドラゴン”
続いて、ドラゴンの吠声が聞こえる。
長い長い嘶き。
どこかもの悲しさを感じさせた。
やがて、光が晴れる。
現れたのは、元に戻ったゴールドドラゴンだった。
雄々しく立ち上がり、ぼくに敵意をむき出しにした竜はいない。
長い首と、大きな腹を地面に横たえ、疲れた様子だった。
「これ、勝ったのかな?」
ぼくは首を傾げる。
様子を見に、パーヤたちが乗った船も降りてきた。
ドラゴンはようやく瞼を上げる。
けだるげな声でぼくに話しかけた。
「見事だ、相田トモアキ」
ぼくの名前を呼ぶ。
ということは、勝ったのだろう。
心の中の質問が聞こえたらしい。
ゴールドドラゴンに戻った守護竜は、ふーと息を吐いた。
「お主の勝ちだ。よもや、お主が“極意者”だったとはな」
「マスター?」
マスターって店の?
それとも使い魔的な意味かな。
ゴールドドラゴンを使い魔にした覚えはないんだけど。
「今はわからなくてよい。いずれ、お主の本来の役目を知るであろう。――いや、どうやらお主は気づいているようだがな」
「は、はあ……」
「そうだ。これを渡しておこう」
ゴールドドラゴンはべろりと口から何か吐き出した。
剣だ。それも凄い立派で綺麗な両刃の剣。
でも、竜の唾液まみれになっていた。
あとちょっと臭いんだけど。
歯を磨いてないでしょ、この竜……。
「なんですか、この剣」
「わからぬか、聖剣だ」
「は?」
ちょっと待って。
確か聖剣って、勇者が勝手に持っていったんじゃ。
「本物を渡すほど、我がマヌケだと思っていたのか?」
すいません。
すっごく思ってました。
「勇者に渡したのは偽物だ」
「それはいいんですけど、なんでぼくに?」
「そなたは我に勝った。ならば、聖剣の持ち主として認めて当然であろう」
「いや、困りますよ。使う予定もないし、置くとこないし」
取引先の上役からもらった土産物みたいに、ぼくは迷惑そうに顔を顰めた。
凄いとは思うんだけどさ。
聖剣をもらえるって聞いて、ちょっとテンション上がったよ。
でもさ。
これ持ってたら、絶対なんかトラブルに巻き込まれるよね。
ぼくは穏やかなスローライフを送りたいんだけど。
「もし勇者がここを訪れ、聖剣を持つにふさわしいとお主が判断すれば、渡してやればいい」
それも微妙だなあ。
他はともかく、あいつにだけは一生渡したくない。
すると、竜は立ち上がった。
翼を大きくはためかせる。
「世話になったな。といっても、お主自ら招いた事態だがな」
そもそもゴールドドラゴンがふっかけてきた喧嘩が、原因でしょうが!
ぼくの心の抗議も虚しく。
ゴールドドラゴンは中空へと飛び上がった。
「さらば!」
といって、西方へと旅立っていく。
くそ! もう一生くんなよ!! 迷惑ドラゴン!!!!
また迷惑なものをもらってしまった。




