第72話 守護竜降臨
連休中なんとか間に合ったぜ!
おれは勇者だ。
この世界を救うため、異世界から転移してきた。
よくわからんが、ギルドというところでステータスカードってやつを引いたら、勇者になってた。祭り上げられたといってもいいだろ。
ぶっちゃけ、面倒だと思った。
モンスターだの、魔王だのを倒さなければならんらしい。
そのために徒歩で旅をしなきゃならんのだそうな。
勇者なんだからさ。そこは魔法でバシッと魔王のところまでいけないもんだろうか。
勇者になってメリットはあった。
ともかくモテる。モテまくる。
町へ行くたびに歓迎されるし、タダ酒タダ食いは当たり前。
ついでに女もタダだし、ある程度の犯罪は許されていた。
それにおれには優秀な部下がいる。
こいつらに任せておけば、たいてい丸く収まるし、おれのレベルも自然と上がっていく。
魔王討伐なんて楽勝じゃないか。
現に本当に楽勝だった。四天王と呼ばれる強力な幹部も、なんか知らない間に倒されていたし、一部はおれが倒したことになっている。
だが、ここに来ておれは躓いていた。
理由は簡単だ。
魔王討伐の道程において、めちゃくちゃ強いモンスターに遭遇したからだ。
いや、モンスターといっていいものか。
ともかくそいつは、魔王討伐に必要な『聖剣』とやらを守っているらしく、そいつを倒さないと手に入らないんだそうだ。
めんどくせぇなあ、おい。
おれは勇者なんだから、ちゃっちゃと渡せばいいのに。
ところが、そのモンスターは頑として譲らない。
何度か部下を突撃させているが、全く歯が立たない状態だった。
もしかして、こいつ。魔王よりも強いんじゃね。
どうすっかなあ。
ここいらで、おれの勇者伝説を終わらせたら良いじゃないの?
そろそろ飽きてきたし。
いい女でも見つけて、適度に静かなところで暮らしたいわ。
「勇者、ライドーラ王国の王より、このような密書が」
部下の1人がおれに手紙を預ける。
なんだよ。またあそこの王様かよ。
勇者保護法とか色々感謝してるけどさ。
ぶっちゃけ人使い荒くないか。
保護してるんだったら、もうちょっとそれらしいアクションがほしいもんだぜ。
目を通さないわけにはいかないか。
やれやれとおれは辟易しながら、文面を読んだ。
どうやらアリアハルで反乱の兆しがあるらしい。
アリアハルっていやあ、おれが最初に訪れた町だ。
懐かしいな。
そこでおれは勇者になったんだっけ。
そんなことを考えながら、内容を読むと、思わぬ名前が出てきた。
アイダトモアキなる首謀者を討て。
アイダトモアキ?
――ってあいつか?
おれの同僚の名前じゃないか。
あいつ、生きてたのか。
どっかで野垂れ死んでのかと思ったけど。
しかも、あいつ魔王の幹部クラスを倒せるほど強くなっているらしい。
その上、王国の兵をのしちまったそうだ。
なにやってんだ、あいつ。
相変わらず、要領悪いな。国を相手にするなんて。
適当に相づちを打っときゃいいのによ。
いや、待てよ。
これ……。結構使えるんじゃないか?
おれは至急部下を集めた。
今から聖剣を守るモンスターを倒すため討伐に向かうことを伝える。
若干士気が下がり気味だが、こいつらは単純なヤツなので、ちょいちょいと勇者っぽいことを呟けば、すぐにのってくる。
おれがいた世界も、この世界の人間も、大して変わらないな。
はは……。
やっぱおれは勇者のうえ、天才らしい。
こんなこと、大神だって思いつかなかったはずだ。
◆◆◆
窓が激しく揺れる音に、ぼくは目を覚ました。
寝ぼけ眼を窓外に向ける。
街路樹が今にも吹き飛んでしまいそうなほど曲がっていた。
強風がまるでアリアハルを包むように渦を巻いている。
巨大な竜巻の中にでもいるようだ。
砂を巻き上げ、朝だというのに真っ暗になっていた。
何が起こってるんだろう。
ぼくは空へ顔を向ける。
何かが飛んでいるのが見えた。
「ご主人様!」
パーヤがぼくの部屋の扉を開ける。
後ろにはクレリアさんもいた。
何か焦っている。ガヴだけが眠たい目を必死に擦っていた。
「おはよう、パーヤ。クレリア。ガヴ」
「あ。おはようございます、ご主人様」
「がーう゛」
「ちょ! トモアキ。呑気に挨拶してる場合じゃないってば」
みたいだね。
一体何が起こってるんだろ。
なんかアリアハルの上空で何かが飛んでるみたいだけど。
「ドラゴンだよ」
え? またぁ!?
ぼくは以前、魔王四天王の1人サラマンダーという竜を撃破してる。
もしかして、その部下が仇討ちにでもやってきたのかな。
その割には随分時間が経ってるけど。
「はい。ですが、今回のドラゴンは魔王とは関係ないようです」
「あれは恐らくだが、聖剣を守る守護竜様でしょう」
「守護竜!」
しかも聖剣を。
そんなドラゴンがどうしてここに?
てか、聖剣を守護するのどうしたの。
この世界では役割が決まってるんじゃないのか。
「それよりも、トモアキ。よく耳を澄ましてくれ」
クレリアさんに忠告され、ぼくは耳をそばだてた。
出てこい……。
出てくるのだ、アイダトモアキ。
げっ!
なんかぼくの名前を呼んでる。
うわー。このパターンって絶対なんかあるよ。
朝からぼくはげんなりする。
でも、気落ちしてばかりもいられない。
よく聞くと、ぼくが出てこないと、このアリアハルをバラバラにするといって、脅しをかけてきた。
ちょっと……。仮にも守護竜なんだからさ。
善人側なんでしょ。
町の人を人質にとってどうするんだよ。
行かないとダメかな。
ダメだよな。
あまり気乗りしないけど、この町にはお世話になっている人が結構いるし。
町を救うとか柄じゃないんだけど。
ぼくは静かに暮らしたいだけなのに。
渋々外に出た。
凄い風だ。
1歩、玄関を出ただけで、吹き飛ばされそうになった。
ぼくはレベルマにして挑む。
「トモアキに何かあったら、あたしも加勢するよ」
「私もです!」
「がーう゛!」
心強いエールだった。
ぼくはクレリアさんとガヴをレベル50の状態にして、万全の態勢で挑んだ。
「おーい。ドラゴン。ぼくはここだよ」
砂煙でなんも見えないけど、ともかく手を振って呼びかけてみた。
大きなドラゴンの影が転進する。
こちらに向かってきた。
どすん……。
地響きを起こし、ぼくの家の庭に降り立った。
途端、風が止んでいく。
嘘のようにアリアハルの空は晴れ渡り、静かな朝の喧騒に戻っていった。
ぼくはドラゴンを見上げる。
大きい。
そして身体は金色に光っていた。
ドラゴンはいわゆる西洋風だった。
長い首に、大きな翼。
獰猛な牙と爪を生やし、咆吼を上げている。
首を動かし、ドラゴンはぼくを睨めつける。
蛇のような目が、何度も開いたり、閉じたりしていた。
何だか値踏みされてるみたいだ。
「お前が、アイダトモアキか?」
個人的にドラゴンというか、モンスターとかが人間の言葉を喋るのって違和感があるんだよね。
特に大きいとさ。どうやって発声してるんだろ、とか思っちゃうんだ。
「ええ……。まあ……」
「勇者の部下の――?」
「勇者の部下?」
はあ? なんのこと?
「違うのか?」
少なくとも部下ではない。
友人でもないね。
前の世界の同僚ってだけだ、あんな薄情なヤツ。
「だが、勇者よりもお前は強いと聞いたぞ」
最近会ってないからわからないけど、多分強いと思う。
レベルMAXだし。
こくりと頷く。
ドラゴンは翼を広げた。
「ならば、我と戦え。アイダトモアキ! そなたが我が聖剣にふさわしい相手かどうか見極めてやろう!!」
そういって、ドラゴンはいきなり戦闘モードになった。
作者の別作品の守護竜とは特に関係はありません。




