第71話 魔法使い、固持する。
相変わらずお待たせしてすいません。
「はあ!? 断っただと!!」
ライドーラ王国国王サマーノは叫んだ。
前のめりになり、ついには玉座から転げ落ちる。
王の無様な様子を、内務大臣は内心で笑ってしまった。
顔に出てしまったのか、サマーノにムッと睨まれる。
慌てて取り繕い、畏まった。
「誠に恐れながら……」
サマーノは大臣の声を聞きながら、衛兵に身体を支えられ玉座に座り直す。
腰の辺りを叩く。サマーノはこのところ腰痛を患っていた。
王冠の位置を正すと、大臣に尋ねる。
「理由は?」
「『ここの生活が気に入ってるから』と」
「そやつは今、どんな生活をしているのだ?」
大臣は簡単にトモアキの現状を話した。
ますますサマーノの眉間に皺が寄る。
「魔法使いという職業は、そんなに安定するものなのか?」
大臣は首を振る。
「いえ。どちらかといえば、外れ職業だといわれています。魔力は強いですが、他がからっきしなので。肝心の魔法も、高額な入学金が必要になる魔法学校に通わなければ習得できません」
とうとうサマーノは腕を組み考え始めた。
そんな王の姿を見るのは、最近ではあまりないことだ。
「では、どうやって生計を立てておる」
「他の冒険者と同じくモンスターを倒して生計を立てているようです。衛士の話によると、一瞬のうちにスライムコアをわんさか持って帰るのだとか」
「それだけか?」
「農地も持っているようであります。そこで採れる不思議な豆が、どうやら冒険者を中心に爆発的な売上になっているようです」
「不思議な豆?」
王の疑問を予想していたのだろう。
大臣は指を鳴らして合図する。
給仕の女がそそと謁見の間に進み出てきた。
その両手には、蓋をされた銀皿を抱えている。
大臣自ら中身を確認した後、王の前に差し出される。
仰々しい銀の蓋を上げると、出てきたのは小さな緑豆だった。
サマーノの眉間の皺がますます深くなる。
「これは?」
「【シンズ】とヤツらが呼んでいる食べ物です」
「食べられるのか?」
「はい。私も先ほど召し上げましたが、何も問題ありませんでした。それどころか、不思議なことに、それ1つでお腹1杯になるのでございます」
「誠か?」
「はい。またどんな傷もたちどころに治してしまうとか」
「にわかに信じられん」
サマーノはふんと鼻をならしつつ、マジマジと神豆を眺めた。
「良ければ、お召し上がりください」
大臣が言う前に、サマーノは口にしていた。
ガリガリと音をさせる。
老体には少々硬かったが、なんとか飲み込んだ。
「お。おおおおおおお……」
サマーノは叫ぶ。
王の反応に、大臣は少し慌てたが、サマーノの血色はむしろよくなっていった。
やがて「げふ」とゲップを吐き出す。
膨らんだ腹をパンパンと叩いた。
「なんと……。本当に腹が1杯になってしまった。げふっ」
「はい。私も最初は疑っておりましたが、効果は誠のようです」
「それになんだか、元気になったような気がするぞい」
王はすっくと立ち上がった。
手を借りなければ、座れもしなかったサマーノが溌剌とし、その場で屈伸まで始める。
王の変容に、さしもの大臣も驚いていた。
「大臣!」
「は、はい!」
「その神豆を買い占めよ」
「は、はあ……」
「シンズを我が国と独占契約するのだ。金には糸目を付けるな。国の財政力を見せつけるのだ」
「は! ははあ!!」
大臣は下がっていく。
それを見計らうと、サマーノは「うひっ」と笑った。
「よっしゃぁぁぁあああ!! 腰が治ったぞ! とりあえず、王妃から行くか! いや、まず後宮で遊んじゃおうかなあ。今日は寝かせないぞ!」
両手で脇裏を叩きながら、サマーノはハッスルしにいくのだった。
◆◆◆
また来たよ。
ぼくは屋敷の脇に止まる馬車を見ながら辟易した。
先日来た王都から馬車だ。
出てきたのは、前回激昂して返った勅使だった。
どかどかと入ってくる。
追い出したいのは山々だけど、あんまり事を荒立てるのもめんどくさいしなあ。
仕方なく客間に通す。
そこまでの一連の動作が、前回の録画を見ているかのようだ。
勅使はバッと書状を広げる。
「相田トモアキ殿。その方が作るシンズを国家戦略作物とし、今後王国との独占的な取引を命じる。ライドーラ王国サマーノ・ムーブル・ローラジア・ライドーラ」
そして「これは勅命である」という一言を添えた。
これには、ぼくも呆気にとられる。
言ってる意味がわからなかったのだ。
側にいるパーヤに小声で尋ねる。
「国家戦略作物ってなに?」
「国の利益になると思われる作物を、優先的に国が買い取るというシステムですわ。
たとえば、長距離の輸送にも耐えられ、保存の利く作物や、戦略的に優位を築くことが可能な貴重な魔草などが、対象になります」
へー。
確かに神豆は食糧にもなるし、回復薬にもなる。
おまけに保存も利く。
欠点と言えば、味ぐらいなものだ。
何にせよ、戦線での食糧事情や医療事情を一片に解決できる魔法の食べ物であることは間違いない。
国が目を付けないわけがないとは思ってたけど、随分早く気づかれたな。
あ。そうか。
先日、ぼくが楯突いた時に、調べてわかっちゃったんだな。
素直にいうことを聞いておけば良かったなあ。
「国に売るってことは、一般人には行き渡らない可能性があるって事だよね」
「国がそういう方針であるなら問題ありませんが、魔族と戦っている現状を鑑みますと、それは難しいかと」
「国に独占的に販売するということは、他の人には販売できないってことですよね」
ぼくは勅使に尋ねる。
「当たり前だ。だが、王は寛容である。言い値で良いと仰っているそうだ」
太っ腹だな、王様。
でも、国のお金はみんなのお金だ。
ぼくが今の3倍の単価を要求したところで、税金が3倍にでもなったりでもしたら、本末転倒だ。
ただでさえこのアリアハルとライドーラ王国は、税率を巡って争っているらしい。
穏便が1番と考えているぼくとしては、火にガソリンをくべるようなことはしたくなかった。
「うーん。考えたんですけど、やっぱお断りします」
神豆を作って、売って、生活を安定させる。
そして、ゆっくり暮らすのが、ぼくの夢だ。
でもさ。国なんて絡んだ日には、横柄な態度の官吏がやってきて、馬車馬のように働かされるのは目に見えている。
それはきっとぼくがかつていた世界と、この世界も変わらないだろう。
適度に作って、適度に儲ける。たまに慈善事業もしてあげる。
それぐらいでいいんだよ、人生って。
とまあ、そんなことを端々に匂わせつつ、勅使を説得したのだけど、結局怒り出してしまった。
「王の命令を2度も無下にするなど、不届き者め。国家反逆罪で召し捕るぞ」
国家反逆罪なんてそんな大げさな!
だが、向こうは本気だ。
勅使が命じると、護衛のものが剣を抜いた。
「やれ! 王に手向かう者など、斬ってしまえ」
2名の護衛がぼくに迫る。
その間に踊り出たのはパーヤだった。
「やめなさい! ご主人様に手を挙げるなど許しません!」
「どけ! 女!」
護衛はあっさりとパーヤを突き飛ばす。
あ! ちょっと!
よくもパーヤを!
久しぶりに頭に来た。
「ゆう○い――」
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。
ぼくはレベルマ状態になる。
「なんだ、その間抜けな呪文は!」
間抜けで悪かったね。
ぼくはたんと床を蹴った。
「消えた!」
勅使も護衛も、ぼくを見失う。
こっちですよ、とその肩を叩いた。
「な――!」
勅使は絶句する。
瞬間、ぼくは3人を蹴り飛ばす。
そのまま窓を突き破り、庭の芝生へと落下した。
2階から見下げる。
残念ながら生きているらしい。
まったく……。人の家で剣を抜いた上、家内の人間を怪我させるなんて。
一体、王様は家臣にどういう教育をしているんだか……。
「パーヤ、大丈夫?」
「はい。ありがとうございます、ご主人様」
「ごめんね。窓を割っちゃった。あとで、ガラス屋さんを呼んでくれる」
「それは構わないのですが、よろしかったのですか?」
割れた窓の方を見る。
どうやら勅使のことが気になるらしい。
「別に構わないよ。王様だからって何でもかんでも従わなければならない法律はないんだし。そもそもぼくは、国の味方じゃなくて家族の味方だからね」
「ご主人様……」
パーヤの頬がポッと朱に灯る。
嬉しそうだ。
だが、この行動がのちの一大事件につながっていくとは、さしものぼくも予想出来なかったんだ。
きな臭い香りが漂って参りました。
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