第68話 うらわざ発見!
間が空いて申し訳ない。
「うーん」
ある日、ぼくは首を傾げながら、屋敷を歩いていた。
すると廊下で何かにぶつかる。
「きゃっ!」
可愛い悲鳴が聞こえた。
パーヤだ。
尻餅を付いた彼女は、「イタタ……」とお尻をさすった。
「ごめん。パーヤ、ちょっと前を見てなくて」
「わたしの方こそ申し訳ありません」
「ほら。大丈夫? ――ん?」
先にぼくが立ち上がる。
手を差し出すと、頭の上にかかったものが、ぼくの視界の半分を覆った。
なんだろうと、摘まみ上げた。
レースが付いたブラジャー。
しかも、すごく大きい……。
これって……もしや…………。
慌てて、パーヤは引っ掴む。
恥ずかしそうに下着を隠した。
顔を赤らめるパーヤの側には、洗濯籠と洗濯物が散らばっている。
全部彼女の下着だ。
「ご、ごめん!」
慌てて顔を背ける。
でも、ちょっと薄目を開けて散らばる下着を見た。
ふわあ……。
やっぱ大きい。
時々、浴室でそのままのものが見えちゃうことがあるけど、下着の大きさを見ると改めて思ってしまう。
というか、また成長したのではないだろうか。
ごそごそと衣擦れの音が聞こえる。
パーヤが下着を拾っているのだ。
「もういいですよ、ご主人様」
「大丈夫?」
「はい。下着は籠の下の方に隠しましたから」
ぼくはホッと胸を撫で下ろした。
「ごめんね」
「いえいえ。それより何をお悩みなのですか? 朝からずっと難しそうなお顔されていますが」
「あ。ごめん。気付いてた?」
「わたしで良ければ相談に乗りますよ」
洗濯籠を一旦床に置き、彼女は立派な胸に手を置いた。
若干、昔支給したメイド服がきつくなっているような気がする。
やはり成長しているのだ。
「いや、大したことじゃないんだ。……あ。そうだ」
「え? なんですか?」
「ちょっとそのままね、パーヤ」
ぼくはパーヤに近づく。
狭い肩に手を置いた。
ぼくのメイドはピクリと身体を振るわせる。
顎を上げ、主人を見つめた。
「ご主人様……」
「じっとしてて……」
「は、はい。……でも、その……。嬉しいのですが」
「何?」
「まだ陽も高いですし……」
「太陽がなに? 関係ないでしょ」
「そんな関係ないなんて! ご主人様、意外と飢えているんですね」
「飢えてる。そうだね。飢えているといえば、飢えているかな」
「もしかして、朝からずっと……」
「そうなんだ……。朝からずっとなんだよ」
「申し訳ありません。ご主人様のメイドでありながら、主人の心中を見抜けず」
「気にすることはないよ。じゃあ、行くね」
「はい。いつでも……。この身を捧げる所存です」
パーヤはそっと目を閉じる。
ぼくに顔を近づけた。
ぼくは――――。
「とうきょ〇と たいと〇く こまが〇ばんだ〇の がんぐだいさんぶのほし」
呪文を唱える。
「え?」
パーヤは閉じた目をカッと開いた。
ぼくはステータスを覗く。
名前 メイド服
じょぶ ぼうぐ
レベル1
こうげきりょく 0
ぼうぎょりょく 3
たいきゅうりょく 15
めいちゅうせいど 0
まりょくほせい ±0
ぞくせい なし
うらわざ なし
やっぱりダメか。
ぼくは肩を落とした。
「えっと……。ご主人様、これは?」
「え? あ、うん。ずっと気になってたんだ。ステータスの最後に“うらわざ”って項目があってね。この項目で反応する道具や武器を探してたんだよ」
「へ、へぇ……。そ、そうだったんですか。わたし、てっきり……」
「てっきり……」
「いえ。何でもありません。家事があるので、失礼します」
パーヤは洗濯籠を持ち上げ、廊下を歩いていった。
えっと……。
ぼく、何か気に障るようなことをした?。
朝からいろんなものに鑑定魔法をかけてみたけど、“うらわざ”の項目に反応するものは皆無だった。
うーん。
これは手強いなあ。
なんせ裏技が一番ありそうなゲーム機すら無反応だし、買ってきたブラウン管にも使ってみたけど、ダメだった。
でも、何か見落としているような気がするんだよな。
ぼくは書斎でぼんやりと考えていると、外が騒がしいことに気付いた。
窓の外を見ると、煙が立ちのぼっている。
火事だ!
ぼくは書斎を飛び出した。
廊下にパーヤが立っている。
「ご主人様!」
「わかってる! パーヤも手伝って」
「はい!」
ぼくはパーヤを伴って、火事の現場へ行く。
屋敷から1つ通りを挟んだ貴族の屋敷が燃えていた。
すでに現場には野次馬で埋まり、バケツリレーが始まっていた。
今日は風が強い。
火の手が収まる気配はなかった。
火の粉が飛び散る。
このままではぼくの屋敷も危ないかもしれない。
「ご主人様……」
パーヤは心配げにぼくを見つめた。
「大丈夫。パーヤはけが人の手当を」
「わかりましたわ」
彼女はさっと走る。
その背中を見送り、ぼくは呪文を唱えた。
「ゆう○い――」
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。
レベルマになる。
からの――。
「精霊の一鍵ウェーダルよ。水を操りし、尾を持つ乙女よ。我が声に耳を傾けよ。其の湖より静かなる力以て、我が前に立ちふさがる騒乱を鎮めよ!」
静かなる水の反逆
ぼくの手から大量の水が迸る。
猛火に揺れる貴族屋敷にぶつかると、あっという間に火の勢いは消えていった。
「おお!」
野次馬から歓声が上がる。
水の上位魔法。
クレリアさんに教えてもらっていて良かったよ。
ぼくの手によって、火は消し止められた。
屋敷は全焼してしまったけど、延焼を防げたからこれで良しとしよう。
ぼくは額の汗を拭う。
「おお! なんということだ! しっかりするんだ、マルコ、ウォーロ」
男の叫び声が聞こえる。
側には奥さんらしき人がいて、泣き崩れていた。
ぼくは人波をかき分け、現場に向かう。
ちょうどパーヤがいて、必死に回復魔法をかけていた。
その対象は2人の子供だ。
髪が縮れ、全身にひどい火傷を負っている。
意識は浅く、いつ事切れてもおかしくない状態だった。
「ご主人様……」
助けて、というようにパーヤは顔を上げる。
彼女の回復魔法では、この火傷から完全回復させるのは難しいだろう。
けれど、ぼくにも打つ手はない。
回復魔法は専門外だ。
「そうだ。神豆なら」
魔法袋を漁った。
あった!
けど、1粒しかない。
「パーヤ、屋敷に神豆は残ってない」
「申し訳ありません。屋敷にはもう――」
今から畑に行くか。
いや、でも今日は収穫日じゃない。
なっているかどうか疑わしい。
販売店は遠すぎる。
それまでこの子が持つかどうか。
最後の頼みとして、神豆の呪文を唱えてみた。
「くり○んう○ろん○くうてん○んはんやむ○やひつ○ろかめせ○にんたお○い○いふ○ま」
反応はない。
やっぱりダメか。
この魔法で増やせるのは、7つまで。
おそらくぼくが持っているというよりは、世界に7つ以上あると発動しないらしい。
くそ! こんな時に使えないなんて……。
もう1粒!
もう1粒増やすことができれば。
「増やす?」
ぼくはカッと目を見開いた。
つと先ほど神豆を獲りだした魔法袋を見つめる。
まさか――。
ぼくは咄嗟に呪文を唱えていた。
「とうきょ〇と たいと〇く こまが〇ばんだ〇の がんぐだいさんぶのほし」
名前 魔法袋
じょぶ どうぐ
レベル1
こうげきりょく 0
ぼうぎょりょく 0
たいきゅうりょく 20
めいちゅうせいど 0
まりょくほせい ±0
ぞくせい なし
うらわざ なし
あれ? ない!
いや、落ち着け。
まだ希望は捨てるな。
なら、これでどうだ!
「ほりい○う じえにつ○すど ら○くえす とだよ」
対象を強制的にレベル50にする魔法を、袋にかける。
ぼくはもう1度、鑑定した。
名前 魔法袋
じょぶ どうぐ
レベル50
こうげきりょく 0
ぼうぎょりょく 0
たいきゅうりょく 30
めいちゅうせいど 0
まりょくほせい ±0
ぞくせい なし
うらわざ アイテムぞうしょく
よしっ!
ぼくは思わずガッツポーズを取った。
一か八かだったけど、勘が当たった。
待て待て。
まだ喜ぶのは早い。
裏技の項目が変わっただけで、どうやって使うかわからない。
試しに神豆を入れてみたが、変化はなかった。
落ち着け。まだ、何か試していなかったことがあるはずだ。
「ご主人様……」
祈るようにパーヤはぼくを見つめる。
子供の息がどんどん浅くなってきている。
側にいる子供の両親は、ぼくに縋り付き、涙ながらに助命を請うた。
そうか。
たぶん、こうだ。
「とうきょ〇と たいと〇く こまが〇ばんだ〇の がんぐだいさんぶのほし」
また魔法袋に向かって、鑑定呪文を唱える。
けど、対象は魔法袋じゃない。
魔法袋のステータスに書かれた「アイテムぞうしょく」という項目だ。
アイテムぞうしょく
1.対象アイテムのステータスを表示しながら、魔法袋に入れる。
2.十字キーの↑とAを同時押しする。
3.1度、ステータスを表示する(なんでもいい)
4.魔法袋の中でアイテムが、増殖していれば成功。
文言が箇条書きで並んでいた。
鑑定呪文ってこういう使い方も出来るんだ。
勉強になるなあ。
感心してる場合じゃない。
これって多分、ゲーム機が必要なんだな。
「パーヤ! 回復魔法で少しの間だけもたせて」
「ご主人様は?」
「1度、屋敷に帰るだけだから」
パーヤに2人を任せて、ぼくはゲーム機を取りに帰る。
すぐに戻ってくると、コントローラーを握った。
周囲は固唾を呑んで見守る。
ぼくは衆人環視の中で、裏技を始めた。
まず神豆のステータス画面を鑑定呪文によって開く。
名前 神豆
じょぶ ばんのうかいふくまめ
レベル1
こうげきりょく 0
ぼうぎょりょく 0
たいきゅうりょく 2
めいちゅうせいど 0
まりょくほせい ±0
ぞくせい なし
うらわざ なし
そのままの状態で神豆を魔法袋に入れる。
十字キーの↑とAを押しっぱなしにする。
さらに、適当に辺りにあったものを鑑定した。
すると、神豆のステータスが消え、別のステータスが浮かぶ。
この状態で、袋の中の神豆を取り出せば、増殖しているはず。
コントローラーから手を離した。
袋の中を漁る。
祈るような気持ちで、慎重に袋の中をまさぐった。
「あった!」
ぼくは手を抜く。
自分の手の平を見ると、2つの神豆があった。
「やった!」
思わずパーヤは諸手を挙げて喜んだ。
ぼくは神豆を噛み砕き、2人の子供に口移しで食べさせた。
すると、みるみる子供の顔色がよくなっていく。
焼けただれた肌も癒え、元通りに戻っていった。
子供の瞳が開く。
2人ともだ。
「ぱ、パパ……?」
「ママ……。どうして泣いてるの」
「「奇跡だ(よ)……」」
両親は声を揃えた。
ひしっと子供を抱きしめる。
一瞬の静寂の後、爆発的な歓喜が広がった。
「すげぇ!」
「火傷が一瞬で治ったぞ」
「また魔法使い様だ」
「さすが魔法使い様だ」
「おお! 我らの守り神よ」
口々にぼくを讃える。
少し照れながら、賞賛に答えると、両親はぼくの手を取った。
「ありがとうございます、魔法使い殿」
「なんとお礼をいえばいいか」
「いえ。人として当然のことをしたまでです」
「なんと謙虚な……。いずれお礼をさせて下さい」
貴族の人は頭を下げた。
子供たちが助かったのはいいけど……。
またぼくの名声が上がってしまうな。
ぼくはただゆっくり暮らしたいだけなんだけどなあ。
顔を上げる。
ご褒美のような晴天の青空が広がっていた。
最近、変化球のお話が多かったので、久しぶりにストレートな話を書いてみました。




