第66話 魔法使い、ゲーム起動。
お待たせして申し訳ありません。
マティスさんにマージャンで勝ち、ぼくはようやくテレビを手に入れた。
レトロな感じのテレビは、屋敷の居間に置くだけで雰囲気がある。
いっそ畳とか、ふすまとか、掛け軸とか揃えてみようかな。
異世界に来て、古き良き日本の生活に憧れるというのも変だけど、なんか趣があるんだよね。
屋敷に持ち帰った次の日。
タケオさんと朝から接続作業をしていた。
コードをRFスイッチにつなぐのはなかなか楽しい。
電気屋さんになったような気分になる。
「これで良いはずだ」
タケオさんは汗を拭った。
現在、エルドラドも夏真っ盛りだ。
日本の夏に比べるとまだからっとしていて涼しいのだけど、暑いものは暑い。
特に今年のエルドラドは気温が高いそうだ。
日本の地獄のような暑さに比べたら、涼しい北国で過ごすようなものなんだけどね。
「これでゲームが出来るの?」
魔法で作った氷を直接、額に当てながらクレリアさんは尋ねた。
本当なら目を輝かせるところなんだろうけど、今好奇心よりも暑さの方が勝っているらしい。
ただちょっと困るのは、クレリアさんの格好だ。
髪が鬱陶しくて、アップするのはいいんだけど、格好が破廉恥きわまりない。
おへそ丸出しのタンクトップに、ホットパンツという出で立ちが、最高に目の毒だった。
作業するタケオさんも、時々振り返っては鼻の下を伸ばしている。
注意しても「暑いから仕方がない」の一点張りで、宇宙船を使って絶対零度の真空にでも連れてけと言わんばかりだ。
格好こそいつものメイド服だけど、パーヤも夏バテ気味。
ガヴもクレリアさんに出してもらった氷の塊に飛びつき、自分の尻尾で仰ぐという始末だった。
それだけ今のエルドラドは暑いらしい。
ぼくはクレリアさんの質問に答える。
「とりあえず、必要な機材は揃えて、準備は出来たってことかな。ぼくの世界であれば、ここに電気を流せば、プレイ可能だよ」
ただエルドラドで使うのは未知の領域すぎる。
一応、魔導具って扱いだからね
もしかしたら、プレイできないかもしれないし、別のことが起きるかもしれない。
「よーし。兄ちゃん、カセットをセットするか」
ふーふー、とカセットの端子部分を吹きかけた。
いやー、なつかしいなあ。
接続が悪い時、よくやったな。
その行動が奇妙な儀式のように見えたらしい。
クレリアさんは眉間に皺を寄せた。
「タケオさん、何をしてるの?」
「こうやって、埃を取ってるんだよ」
「それって、唾とか飛ばない」
タケオさんのテンションが一気に下がる。
やめて、クレリアさん。
タケオおじさんは色々とアレなお年頃なんだよ。
そんな汚物を見るような目で見ないで上げて!
気を取り直す。
タケオさんは入念にふーふーしたカセットを、ゲーム機に入れた。
「スイッチ押すぞ」
「あたしにさせて」
「クレリアさんのおかげでマージャンに勝ったようなものだからね。良いじゃないかな」
「やった! トモアキ、大好き」
てれ……。
ぼくは思わず赤くなってしまった。
弱いんだよな。
特にストレートに言われると。
「トモアキ、呪文呪文」
「あ。そうか」
「ほりい○う……」の呪文でレベル50にしないと、ゲームが出来ないんだっけ。
ぼくは早速、呪文を唱える。
「ほりい○う じえにつ○すど ら○くえす とだよ」
これで大丈夫。
一応、ステータスを確認しておこう。
「とうきょ〇と たいと〇く こまが〇ばんだ〇の がんぐだいさんぶのほし」
名前 ファ〇コン(まどうぐ)
じょぶ ゲームがあそべる。
レベル50
こうげきりょく 0
ぼうぎょりょく 0
たいきゅうりょく 50
めいちゅうせいど 0
まりょくほせい ±0
ぞくせい なし
うらわざ なし
よし。これで大丈夫ははずだ。
「スイッチを押していいよ、クレリアさん」
タケオさんに説明を受け、クレリアさんはスイッチを上げる。
パチッ!
気持ちのいい音が居間に響く。
今までグロッキー状態だったパーヤとガヴも反応し、テレビの前にやってきた。
サウジアラビアの砂嵐状態だったテレビの画面が移り変わる。
モノラルのスピーカーから、軽快な音楽が流れてきた。
「おお!」
「これは!!」
ぼくとタケオさんは、一斉にテレビに食らいついた。
黒地の画面に、青と水色で書かれた文字を2人で読み上げた。
「「アイ〇クライマー!!」」
ぼくたちは声を揃えて叫んだ。
「神ゲーきたああああああああああああ!!」
「うわーん。懐かしい。このピコピコ音にもうすでに泣ける」
「わかるぞ、兄ちゃん。気持ちすごくわかる!」
ぼくとタケオさんは抱き合いながらわんわんと泣いた。
それを横目でぼくの女の子達が微妙な目で見つめている。
「えっと……何が凄いの?」
「変わった音楽ですが、オーケストラの方が素晴らしい気がするのですが」
クレリアさんとパーヤは音を聞き、そう評した。
彼女たちから見れば、ゲーム機は未来の道具みたいな位置づけなのだろう。
しかし、流れてきたのは、なんとも拙い電子音。
ちょっとがっかりしたかもしれない。
「わかってないなあ、お嬢ちゃんたちは。この音はな。PSG音源っていって、たった4音でしか作られてないんだ」
タケオさんのファミ〇ン苦労話が始まろうとする。
ぼくは慌てて引き留めた。
ゲームの話をし出すと、この人止まらないからなあ。
「ともかく、今はゲームを楽しみましょう」
「そうだな。終わってから、みっちり嬢ちゃんたちに仕込むとしよう」
一体何を仕込むつもりなんだろう。
ともかくやろう。
ぼくがコントローラーを持った瞬間。
Pu――――――――――――――――――――。
ビープ音が流れる。
完全に画面が固まっていた。
うん。これも良くあるよね。
一旦電源を落とし、もう1回カセットを入れ直す。
今度は止まることなく、軽快なピコピコ音を流し続けた。
いつまでも聞いていたいけど、ぼくは音楽を聴きにきたわけじゃない。
ゲームをやりにきたんだ。
スタートボタンを押す。
瞬間、目の前が暗転した。
気がついた時、ぼくの前に広がっていたのは、氷に閉ざされた洞窟だった。
何を言っているのか、わからないと思う。
ぼくもはっきり言ってわからない。
1ついえるのは、ぼくたちがいつの間にか夏真っ盛りの屋敷の居間から、氷の洞窟に移動したらしい。
「ひゃー! 涼しい!!」
「生き返りますわ」
「がう゛がーう゛」
振り返ると、3人の女の子が立っていた。
氷の上で寝そべったり、景色を楽しんでいたりする。
適応力早いなあ。
結構いろんな経験をしてきたしね。
度胸もつくか。
どうやら動揺しているのは、ぼくだけみたいだ。
「こりゃあ。ゲームの中に迷い込んじまったらしいなあ」
とんでもない事をぼんやりとした口調で話したのは、タケオさんだった。
やや薄くなった頭皮をボリボリ掻いている。
「驚かないんですか?」
「驚いているよ、これでも。でも、魔法と剣の世界だぜ。魔導具の力でゲームの中に入るぐらいは出来るだろう」
そうかもしれないけど、みんな飲み込みが早すぎ!
すると、どこからともなく羽ばたき音が聞こえた。
突如、下の氷が割れる。
地下から現れたのは、プテラノドンに似た怪鳥だった。
「ぎぃいいいいいいいい!!」
大きな口を開け、鳴きわめく。
側にいたガヴに向かって滑空する。
器用に獣人少女の尻尾を掴んだ。
「ガヴ!!」
「が、がう゛ぅう」
ガヴは力なく項垂れる。
実は、ガヴは尻尾を掴まれると力が上手く出せないらしい。
大人しくなると、そのままプテラノドンに連れ去られた。
「この! ガヴを離しなさいよ!」
「クレリアさん、魔法はダメです。今撃ったら、ガヴちゃんまで落ちちゃいますわ」
「ちょっと待って! そもそも魔法が使えない! ……あれ?」
クレリアさんは何度も詠唱するが、小さな火ですら出せないでいた。
その間にもみるみるガヴとの距離は広がっていく。
ならば、レベルマ状態のぼくなら……。
「ゆう○い――」
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。
呪文を唱える。
踏ん張り、ジャンプしようとしたが、全然飛ぶことが出来ない。
おかしい。
レベルマ状態に出来ない?
ぼくは首を傾げる。
怪鳥はそのまま洞窟の天井を突き破り、上の方へと逃げていった。
とうとう見えなくなる。
「ガヴゥゥゥゥゥウウウウウ!!」
ぼくの悲鳴が、氷の洞窟に響くのだった。
2Pプレイで友達を氷山の下へと落とし、そしてリアルに友達をなくした青春を思い出す( ;∀;)
新作「3000年地道に聖剣を守ってきましたが、この度ダンジョンの邪竜にイメチェンすることにいたしました。」を投稿しております。
こちらもどうぞよろしくお願いしますm(__)m




