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異世界最強魔法が、“復活の呪文”なんだが!? ~ぺぺぺ……で終わる?異世界スローライフ~  作者: 延野正行
第7章 鑑定スキル発見編

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第64話 魔法使い、逆襲する。

思いの外、長くなってしまったため話を2つに分けます。

(回答編は次話)


 チンッ……。


 乾いた音を立てて、私と部下はグラスをあわせました。

 グラスには赤い――もちろん葡萄ジュースですよ。

 さすがに祝杯をあげるには、早いでしょう。


 思いの外、うまくいきました。


 さすがに、最初天和と四槓子で挙がられた時はびっくりしましたが、序盤は仕方ありませんね。

 トモアキ殿には、おそらくステータスとは別に、何か強い運の作用があるような気がします。どういうからくりか想像も付きませんが、間違いはないでしょう。


 だから、私は運に左右されない勝ち方を目指すことにしました。


 遊び人(ギャンブラー)として、運を捨てることは屈辱的な選択かもしれません。

 しかし、もっと耐え難いことがあります。


 それは負けることです。


 たとえ、遊戯であっても、私の人生において2度敗北はあり得ないのです。

 半分ほど飲み、私はグラスを置きました。


 そろそろ時間です。


「頼みますよ」


 私は部下の腕をそっと叩きました。




 会場に行くと、すでにトモアキ様がやってきていました。


 クレリア嬢にまたマージャンを教えているようです。

 牌を開き、待ちの考え方や、捨て牌から見る相手の配牌などを教えているようです。


「なかなか興味深いですねぇ。私も教えていただけませんか、トモアキ様」

「マティスさんに教えるなんて滅相もないですよ」


 ふむ……。


 先ほどよりも余裕を感じますね。

 何か嫌な予感がします。


「ねぇねぇ。マティス様。次の局から私が打っていい?」

「クレリア嬢が……。タケオ殿との交代であれば、私は構いませんが」

「やった! マティス様が許してくれたよ、トモアキ」

「良かったね、クレリアさん」

「しゃーねー。嬢ちゃんに託すか」


 タケオ殿は頭を掻きます。

 打ち手を変えて、流れを変える戦法でしょうか。


 しかし、トモアキ殿がすることです。

 何らかの意図はあると見ていいでしょう。


 すると、横合いから柔らかな感触が腕に絡まりました。


「ありがとう、マティス様」


 見ればクレリア嬢が、私の腕に胸を押しつけているではありませんか。


 むほぉ……。柔らかい。


 さすがにパーヤ嬢と比べれば、物足りない気はしますが、悪くはありません。

 漂ってくる色香。

 そして、子猫のように甘えてくる上目遣いの瞳。


 ああ……。ほしい。

 この絶世の美女が、私はほしい!


「マティス様?」


 部下に肩を叩かれ、我に返ります。

 気がつくと、クレリア嬢もトモアキ様もすでに卓についていました。


 いけませんねぇ。


 自分の欲望に酔いすぎて、意識を失っていたようです。

 私は大きく深呼吸し、卓に尽きました。


 席は私から見て、左回りにクレリア嬢、部下、トモアキ様という順番になりました。最初の親は私。今日はサイコロの出目は完璧です。


 もちろん、私の意図通りの数値を技術的に出しているのですが、それでも成功率は6、7割といったところでしょう。


 完全に流れは、こちらに向いています。

 一気に勝負をつけましょう。


 山は私の部下から。

 相変わらず、うまい積み込みです。

 自牌を開き、思わず口角を上げそうになったのを無理矢理抑えました。


 好形の二向聴(リャンシャンテン)――和了まであと3枚。

 ドラもすでに2つ。上手くはまれば、倍満が狙えます。

 ただし、あくまで狙いはトモアキ様です。


 私は部下に合図を送ります。


 言うまでもなく、私たちはコンビ打ちをしています。

 鳴きに必要な牌を送ったり、意図的な放銃を起こしたりする行為のことです。

 そして、もう1つは相手の和了牌や、欲しい牌を教え合うこと。


 私の部下は元プロ雀士だった男です。

 付け加えるなら、私の師匠。

 基本的なルールから、積み込み、サイコロまで教えてくれた人間。

 本来は冒険者として働いていたのですが、今は専属トレーナー兼私のコンビを務めてもらっています。


 マージャンに戻りましょう。


 配牌から二向聴だった私ですが、その後なかなか手が伸びません。

 現在は、トモアキ様の山。

 クズ牌ばっかりです。


 どうやら向こうも積み込んできたのかもしれませんね。

 厄介ではありますが、私の思惑通りです。


 なぜなら、積み込みのような技術(インチキ)は、運の領域ではないからです。


 私からすれば、単純に運勝負をされる方が怖い。

 サイコロのミスがあれば、たちまちトモアキ様有利になる可能性だってある。


 しかし――。


 トモアキ様は自らご自身の可能性を潰した。

 豪運を放棄したのです。


 策士、策に溺れるとはこのことですね。


 何とか一向聴で私の山に来ました。

 私の山には財宝がザクザクと眠っています。

 一気にテンパイして、トモアキ様の息の根を止めましょう。


「ポン」


 可愛らしい声が響きます。

 トモアキ様が捨てた「中」に反応したのは、クレリア嬢でした。

 「中」を3枚、丁寧に端に並べます。

 捨て牌を考え出しました。


 私の山になってから、すかさず鳴いてきましたか。

 しかし、今の席順では上段と下段のズレはおきませんよ。


 私たちは今、コンビ同士で向かい合っているという状態になっています。

 ですから、ポンではズレはおきません。

 私の手番は飛ばされた事になりますが、次の上段の牌を取るのは、私の部下だからです。


「ん?」


 おかしい。

 私の部下が固まっています。

 視線の先は、トモアキ様……?

 何かあったのでしょうか。


 軽く咳払いをします。


 すると、部下はハッと意識を取り戻し、上段の牌を取り、切りました。

 何か動揺しているように見えましたが……。


 トモアキ様が切り、私の番。


 よし……入った。


 リーチしたいのは山々ですが、トモアキ様を狙うためにも我慢です。


「あたしの番ね」


 白い腕を伸ばした直後、ちょっとした事件が起こりました。

 クレリア嬢の肘が自牌に当たり倒してしまったのです。


「わわわ……」


 慌てて戻します。

 時すでに遅し。3枚萬子の順子が見えてしまいました。


「ご、ごめんなさい」

「罰金だね、クレリアさん」

「え? 罰金? ウソ?」

「良いですよ、トモアキ様。クレリア嬢は今日が初めて。不慣れなこともあるでしょう」

「マティスさんが言うなら」

「マティス様、ありがとう!」


 ニッコリと私に微笑みかけます。

 女神だ。

 心が癒やされます。

 ああ……。ほしい


 待て待て。


 まだ対局中でした。

 集中しましょう。


 とはいえ、美人の笑顔というのは、なかなか忘れられないものです。


 対局中でありながら、私は時折、思い出し笑いをしてしまいます。

 今からでも遅くはない。

 トモアキ様にお願いし、クレリア嬢を賭けの対象にしてもらってはどうだろうか。


 そうしよう。

 そうでなければ、今すぐにでも、クレリア嬢に飛びかかってしまいます。

 もう私の良くは、下腹部の疼きは限界に達しようとしていました。


「ロン」


 は――――。


 私は顔を向けました。

 ゆっくりと上家(左手)の牌を開かれていきます。


「タンヤオ、ドラ2。3900(ザンク)です」


 静かにトモアキ様は言いました。

 私を見ると、笑みを浮かべます。

 彼には珍しく、とても邪悪な笑顔でした。


 私は視線を切り、振り込んだ張本人を見つめます。

 部下であり、師――そして今は相方をです。


 驚愕の表情を浮かべて、固まっていました。

 私の視線に気付くと、ばつの悪そうに少し浮き上がった腰を下げます。

 乱れた心を落ち着かせるため、深く座り直しました。


 どういうことでしょうか?


 説明を求めた(ヽヽヽヽヽヽ)いところですが(ヽヽヽヽヽヽヽ)、今は対局中です。私は目で部下に叱りつけるに留めました。


「マティスさん」


 トモアキ様は手の平を上にして、差し出してきました。

 点棒のことに気付くのに、私は2拍ほど必要でした。


「失礼しました」


 点棒を渡します。

 ダメージは軽微ですが、それよりも折角の親番が流れてしまいました。


 この状況でトモアキ様がどうやって上がったのでしょうか。

 たまたまだといいんですがね。


「あたしの親番だね」


 クレリア嬢は勢いよくサイコロを転がします。

 山牌はトモアキ様から。

 しかし、誰もテンパイせず、流れてしまいました。


「うわー。一向聴まできてたのに」


 初めての親番が流れてしまい、クレリア嬢は座ったまま地団駄を踏みました。


 次の親番は私の部下。

 見事サイコロを操作し、私の山牌に当てます。

 むろん、六間積みを仕込み済みです。


 配牌は上々。

 また二向聴ですが、高めが狙えそうです。


 クレリア嬢の山を自摸(ツモ)ります。

 さすがに積み込みはしていないみたいですね。

 牌に傾向を感じません。

 ただ良牌は私と部下の山が抱えているため、なかなか手が伸びませんでした。


 一方、トモアキ様は手を伸ばしているようです。

 クレリア嬢の山の傾向に、運が絡んでいるからでしょうか?


「ポン」


 トモアキ様が捨てた牌に、部下が反応します。

 こちらの手が進まず、トモアキ様の方が進んでいることに違和感を覚えたのでしょう。鳴いて、ずらすつもりです。


 正しい判断かもしれませんが、少々警戒しすぎだと私は感じました。


 そもそも、もうすぐ部下の山です。

 良牌を取るには、もう1度鳴いて、ずらさなければなりません。


「チー」


 今度、クレリア嬢の牌で部下は鳴きます。

 これで戻りました。


 依然として二向聴。早くしなければ和了られてしまいます。

 私が筒子の9を置いた瞬間。


「ロン」


 宣言は、私の右隣から聞こえました。

 クレリア嬢です。


「やった! 和了れた。ドラ1のみ?」



 索子の1、2、3 5、6、7。萬子2が3枚と筒子1が3枚。雀頭(あたま)は筒子9(ドラは索子の2)。



「ドラは役じゃないよ、クレリアさん」

「え?」

「リーチをかければ、よろしかったのですが……」

「え? ダメなの?」

「うん。それどころか、罰金だね」

「ま、またぁ……。折角、揃ったのに」


 クレリア嬢はしゅんと項垂れる。

 おお。なんと尊い……。

 思わず肩を抱きしめて、慰めてあげたいぐらいですね。


「もう! タケオさん、ちゃんと見ててよ」

「お、俺かよ!」


 後ろで対局を眺めていたタケオ殿に八つ当たりします。

 罰金は支払ってもらいました。さすがに2度目はダメです。


 対局は続行。

 私は早々に頭を抱えることになります。


 おかしい。


 部下の山なのに、牌が伸びません。

 視線を対面に動かします。部下の顔が冴えません。

 長考する時間も増え、合図を送っても答えが返ってこないのです。


 何が起こっている。それは確かです。

 しかし、何が起こっているのか検討も付きませんでした。


 そして、その時はやってきました。


「ツモ」


 パタリと牌を倒したのは、またトモアキ様でした。


「ツモのみです」


 ゴミ手――。

 しかし、私が受けた衝撃は絶大なものでした。

 点数などよりも、次の親番がトモアキ様だということです。


「どういうことですか!?」


 私は椅子を蹴って立ち上がりました。

 怒りをぶつけたのは、トモアキ様でもなく、恨めしいゴミ手でもありません。


 私の対面で頭を抱える部下でした。


「も、申し訳ない」


 一言――声を絞り出しました。

 謝罪の言葉を聞いても、私は気が収まりません。

 思わず牌を握り、卓にぶちまけました。


「マティスさん、落ち着いてください」

「落ち着いてなど――」

「まだ対局は終わっていません。……対局が終われば、すべてをお話しますから」


 まるで冷や水をかけられたようでした。


 すべてを話す……?


 まさか絡繰りを見抜いたということでしょうか。


 一瞬、目の前に火花が散りました。

 回転しそうになった意識をなんとかつなぎ止めました。


 私は忠告通り椅子を元の位置に戻し、落ち着いて座り直しました。


 淡々と洗牌を進め、山を積みます。

 私はまだ諦めません。

 遊び人として、最後まで戦い抜くと決めたのです。


「じゃあ、ぼくの親番ということで」


 サイコロを振ります。

 山はクレリア嬢になりました。

 配牌が終わり、自牌を見つめながら、ため息を吐きます。


 なんとも無邪気な山だと思いました。


 一片の思慮も、インチキもない。

 傍若無人――無法地帯もいいところです。

 しかし、目一杯に遊びを楽しんでいるような気がしました。


 私は果たして、マージャンを楽しんでいたでしょうか。


 クレリア嬢が作ってくれた山のように、私ももっとマージャンを楽しむべきだったのではないでしょうか。


「ツモ」


 トモアキ様は牌を倒します。

 天和――。

 さらに……。


「こ、国士無双……」


 皆の声が震えていました。

 トモアキ様は「はは」と苦笑いを浮かべます。


「ダブル役満ですね」


 トモアキ様を除く全員が飛び終了しました。


 教訓です。

 豪運の持ち主とは、どんなゲームをやっても楽しめそうにありません。


回答編はこの後すぐ!


※ 感想の返しはもう少しお待ち下さいm(_ _)m

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『ゼロスキルの料理番』
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