第61話 魔法使い、マージャンに誘われる。
はじめに言っておくと、この回ではまだマージャンしませんのでよろしくお願いします。
ぼくたちはなるべく商品は見ずに、目当てのものだけを探した。
変に目がいって、また偽物を掴ませられたらたまらないからね。
鑑定呪文があるといっても、いちいち店主に掴みかかれたりしていたら、テレビを見つけるまでもなく、闇市が終わってしまうかもしれない。
「お! あったぜ、兄ちゃん」
先に見つけたのはタケオさんだった。
テレビが見つかったかと思ったが、タケオさんの手にあったのは、コードと端子がついた白いスイッチだった。本体の部分に書かれた名称を見て、ぼくは思わず唸りを上げる。
「ああ!! RFスイッチだ!」
「おうよ。これがなけりゃ、テレビを買ったって、ゲームできないからな」
そうだ。忘れてた。
昔のゲームって、3色端子とかでつなぐんじゃなくて、こんなスイッチを使ってたんだった。
「そういえば、入力端子じゃなくて、1CHか2CHを使ってたんですよね」
「そうそう。で、このコードがよく接触不良とか起こすんだよなあ」
「子供の頃は父親にやってもらったんですけど、慣れてくると自分で直してました。それでなんかちょっと機械に強くなった感があるんですよ」
「うはははは……。まさか異世界に来て、こんなにレトロゲームの話をすることが出きるとは思わなかったぜ」
「ACアダプターも必要ですね」
「ああ。あれは電源が必要な時だけだろ」
あ。そうか。
エルドラドに電気がなかったんだ。
そもそもこいつは、電気がなくても動くみたいだし。
ACアダプターは必要ないか。
「トモアキ、楽しそう」
「ごめんごめん。クレリアさんにはわからないよね」
「ううん。いいよ。トモアキの顔が輝いているところを見るだけで、なんか楽しいから」
クレリアさん、いい子だなあ。
時折、こういう発言する時が一番ぐっとくるんだよね。
さっきせがまれた時も、ぐっと来たけど……。
ぼくはRFスイッチを購入する。
一応、鑑定呪文を使って確認したけど、問題なく動作するようだ。
「あとは肝心要のテレビですね」
「ねぇねぇ。トモアキ、あれじゃない」
クレリアさんは指さした。
本当だ。
値札にテレビって書いてある。
ぼくたちは早速店に近づいていった。
一見、大きめの電子レンジにも見えるごつい筐体。
真紅のカラーリングに、グレーの画面。
モノラルのスピーカーが前方についているところも、なかなかノスタルジックだ。
間違いない。
昔懐かしのブラウン管テレビだ。
しかも、リモコン式でも、ボタン式でもない。
ダイヤル式だ。
「あの触っても大丈夫ですか?」
「いいですよ」
若い店主はきさくに返事を返してきた。
テレビではよく見たけど、実はダイヤル式なんて初めてだ。
早速回してみる。
カタカタという小気味よい音が返ってきた。
いやー、なんかいいなあ。
ゲームじゃなくても、私室とかに置いて、1日中眺め回してみたい。
貴族が道楽で買っていく気持ちがわかるかも。
エルドラドはもちろん、ぼくが住んでいた時代にない趣が、このテレビにはあるんだよね。
「ふむ。ゲームとして使う分には問題なさそうだ」
タケオさんがテレビの裏側を見ながら、報告してくれた。
ぼくは一応、鑑定呪文を使う。
「とうきょ〇と たいと〇く こまが〇ばんだ〇の がんぐだいさんぶのほし」
名前 ぶらうんかんてれび(だいやるしき)
じょぶ ごらくひん。げーむができる。
レベル1
こうげきりょく 2
ぼうぎょりょく 4
たいきゅうりょく 8
めいちゅうせいど 0
まりょくほせい ±0
ぞくせい なし
うらわざ なし
結構、攻撃力高いぞ。
確かに重たいもんなブラウン管テレビは。
鈍器に使えそう。
『にせもの』も『こしょう』という表示もない。
どうやら使えるらしい。
よし。決めた。
「すいません。これ、おいくらですか?」
さすがに、さっきの精霊原石よりは安いだろ。
なんていっても、エルドラドに人にとって置物にしか使えないからね。
すると、眉をハの字にして店主は頭を下げた。
「申し訳ありません。そちらの商品は売約済みでして」
「ええ! そうなんですか?」
弱ったな。
高いならまだしも、まさか先客がいたなんて。
「実は、俺たちにはどうしても必要なんだ。先客よりも倍払うからさ。売ってくれないか?」
「た、タケオさん!」
「いいじゃねぇか。ここで退いたら、ゲーマーが廃るぜ」
廃る廃らないの前に、ぼくが支払うんですけど、そのお金。
店主はますます困った顔を浮かべた。
「すいません。そういうのはうちでは……。なんだったら、お客さん同士で相談してください」
「そのお客さんって誰かわかりますか?」
「ああ。あのお方ですよ」
「お方?」
ぼく、タケオさん、クレリアさんは、同時に振り返った。
店と店の間。
狭い廊下の間に、仁王立ちしている1人の男が視界に入る。
大きく口を裂け、金歯を剥き出し、まるで道化師みたいに笑っていた。
ポンと太鼓腹を鼓打つと、ぼくたちの方に近づいてくる。
マティスさんだ。
げぇっ、とぼくが顔を歪めたのはいうまでもない。
そんなげっそりとした表情をしっかりと紫の瞳で受け止めつつも、マティスさんはスマイルを崩さなかった。
「どうされました、トモアキ様。おや。もしかしてそこにある遺跡物がほしいのですか?」
「いえ……。そういうわけじゃ」
「いやいや、今のあなたの目は、その遺跡物がほしくてほしくてたまらない野獣の目をしていらっしゃいますよ」
どんな目だよ、それ!
「よろしければ、お譲りしてもかまいませんよ」
「え? いいんですか?」
ぼくは控えめに尋ねた。
すでにこの時から嫌な予感はしていたのだ。
「はい。折角、我が主催の市に来ていただいたのです。坊主で帰ってもらうわけにはいきませんよ」
一応、RFスイッチは買ったんだけどなあ。
「じゃあ、おいくらで譲ってもらえますか?」
「タダでかまいません」
「え? それは――」
「ただし、私とまた勝負していただけませんか?」
「やっぱりそう来ますか……」
「ほほほ……。そんな楽しそうな顔をしないで下さい」
そんな顔に見えますか、ぼく!?
むしろ嫌で嫌でたまらないんですけど!
「一応、聞くんですけど、勝負はまたポーカーですか?」
「トモアキ様がお望みというならばやぶさかではないのですが、それではちと芸がないでしょう」
「気を遣う必要はないですよ」
「トモアキ様は異世界から来られたと聞いていますが」
「まあ……」
「なるほど。あなたが闇市に来られたのは、その関係ですね」
ぼくは頷いた。
「では、マージャンというゲームを知っておられますか?」
「――――!」
ぼくは眉を動かす。
まさかマティスさんから、マージャンなんて言葉を聞く日が来ようとは思わなかった。
「え、ええ……。まあ?」
「ルールは?」
「一通りは……って、まさかマージャンで勝負をするつもりですか?」
「不服ですか?」
「……そもそも牌が」
ぼくが言い終える前に、マティスさんは指を鳴らした。
部下らしき男がやってくると、鞄に入った麻雀牌を見せた。
間違いなく、日本式の牌だ。
「最近、発見されましてね。興味をそそったので、あなたのような異世界の人間にルールを教えてもらったんです。そしたら、はまってしまいまして。実は、今日で3徹しておりまして、頭が……」
はは、と笑うのだが、とても3日も眠っていない人間とは思えない。
ぼくなんかよりも溌剌している。
「部下とやるのも飽きていたところです。如何です? 打ちませんか?」
「俺もやりたい!」
手を挙げたのは、タケオさんだった。
「マージャンなんて久しぶりだ。混ざらしてもらうぜ」
「た、タケオさん」
弱ったな。
タケオさんはやる気満々だ。
確かに異世界でマージャンが出来るのは良い。
正直、やってみたい。
学生の時、よく友達と徹夜で打っていたから、それなりに腕には覚えがある。
ただなあ……。
相手が悪いんだよなあ。
絶対何か企んでる。
そもそも運999のマティスさんと打つなんて自殺行為みたいなものだ。
ぼくが首を傾げて困っていると、クレリアさんが質問した。
「ねぇねぇ、トモアキ。マージャンって何?」
「ぼくの世界のテーブルゲームだよ」
「それって練習したら強くなる系?」
「うーん。確かにそうなんだけど、運要素も強いかな。経験者でも、素人に負けることもあるよ」
「じゃあ、私もやりたい?」
「え? でも――」
「いいじゃない。どうせトモアキが勝つんだし」
「ちょっとちょっと! クレリアさん」
時すでに遅し。
ぼくの横でメラメラと炎が燃え上がった。
こめかみの辺りをピクピクさせながらも、マティスさんはスマイルを崩さなかった。鉄壁のスマイルだなあ。
「ほ、ほほう。それは聞き捨てなりません。勝負というのはやってみなければわかりませんよ、クレリア嬢」
結局、ぼくはマージャンをやることになってしまった。
中途半端ですが、次回から麻雀パートです。
明日か(奇跡が起これば)今日の夜に更新します。
ちなみに麻雀放浪記みたいな麻雀小説は、絶対に期待しないで(大苦戦中)




