第5話 レベルマになりました!
本日もよろしくお願いします。
唐突だが、ぼくは大学の時、レトロゲーム研究会に入っていた。
そこで専らやっていたのが、某有名RPGのユニークパスワードの探索だ。
セーブ&ロードを繰り返しながら、20文字もしくは50文字のパスワードの中から、意味が通じるものを選び抜く。
少し前に某有名俳優と女優の結婚を予言したものが、ネットニュースに流れていたが、ああいうものをぼくたちは探していた。
パターンの数は、20文字のパスワードだけでも、1350326852860866918505454791395905600通り。
まさに砂漠で砂粒程度のダイヤを探す行為に等しいわけだが、ゲームもプログラムである以上、規則性は存在する。それに則りながら、ぼくたちは探索を続けていくのだ。
人から見れば「何をやっているのか」と思われるだろう。
だが、見つけた時の喜びはひとしおで、面白ければさらに快感になった。
そんな学生時代を過ごしてきたから、ある程度の有名なレトロゲームのパスワードは頭に入っている。この記憶は、今もぼくにとってかけがえのない宝物になっていた。
以上、回想終わり。
★
拳に合わせて、カウンターで人を殴った。
すると、男はドラゴ○ボールの戦闘シーンみたいに吹っ飛んでいく。
店先に突っ込んだ男を見ながら、ぼくは今一度冷静になろうとした。
が、それは逆効果だ。
むしろぼくは混乱した。
「どういうこと?」
呟くも、誰かが解説してくれるわけではない。
ぼくが困惑する側で、輪を掛けて戸惑っていたのは、残った2人組だった。
冷や汗をだらだら垂らしながら、唇を震わせている。
「て、てめぇ! や、やってくれるじゃねぇか!!」
啖呵は切るものの襲っては来ない。
ぼくは事の真相を確かめることにした。
無造作に近づいていき。
「な、なんだよ……」
腰の引けた男を殴った。
再び吹っ飛んでいく。
また通り向こうの店に突っ込んだ。
「お前!」
残った1人が襲ってくる。
まただ――。
男の動きはひどくスローモーションに見えた。
ぼくは拳をかわし、華麗にアッパーカットを決める。
男は空へと打ち上げられた。
戻ってくると、路地裏に置かれていた空樽の中に突っ込む。
ぼくは自分の拳を見つめた。
さらに路地裏に溜まった水たまりに自分の顔を映す。
やはりぼくだ。
何か別人に変わったわけでもなく、ヒーローに変身したわけでもない。
だが、明らかに自分の能力が、さっきまで違う。
能力――?
あ、と声を上げた。
慌てて懐からステータスカードを取り出す。
マジマジと見つめた。
相田トモアキ
じょぶ まほうつかい
れべる 99
ちから 999
たいりょく 999
すばやさ 999
ちりょく 999
まりょく 999
きようさ 999
うん 999
「なにこれ!」
すべての数値がカンストしていた。
なんで? どうして? と考えるのだが、思い当たる節は1つしかない!
先ほどぼくが適当に唱えた呪文だ。
あの呪文が、超偶然にも魔法の効果を現したらしい。
つまり、ぼくは魔法を作ってしまった。
しかも、レベルカンストするという、超チート魔法を……。
「マジかよ!」
信じられない。
信じることができない。
ぼくは笑わずにはいられなかった。
薄暗い路地裏で、悪魔のように哄笑を上げ続けた。
翌日。
安宿のベッドから身を起こす。
気分がいい。
昨日、少し光明が見えてきたからだ。
ぼくは改めてステータスを確認した。
相田トモアキ
じょぶ まほうつかい
れべる 1
ちから 1
たいりょく 2
すばやさ 2
ちりょく 3
まりょく 4
きようさ 2
うん 1
あれ?
元に戻ってる。
もしかして、あれは夢だったの?
待て待て。
落ち着け、俺。
それだったら、この全身筋肉痛みたいな痛みはなんだ。
腫れ上がって、視界がおぼつかないまぶたは一体なんだというのだ。
夢であってたまるか!
ぼくは手を掲げた。
「ゆう○い――」
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。
昨日、開発した呪文を唱える。
もう1度、ステータスを見てみた。
相田トモアキ
じょぶ まほうつかい
れべる 99
ちから 999
たいりょく 999
すばやさ 999
ちりょく 999
まりょく 999
きようさ 999
うん 999
よっしゃ!
夢じゃない!!
思わずガッツポーズを取った。
どうやら、パッシブスキルではなく、アクティブスキルらしい。
ということは、制限時間があるということか。
これはきちんと確認しないとね。
ぼくは部屋の時計を見つめる。
前の世界と同じ12進法だ。
結果、効果時間は30分ほどだとわかる。
もうちょっとほしいけど、まあ及第点といったところだろう。
30分以上、このスキルを使うことなんて早々ないだろうし。
ぼくはもう1度呪文を唱える。
確認すると、またレベルマックスに戻っていた。
かけ直しは利くようだ。
これが1日1回だったら、少々使いづらい。
そういえば、MPとかないのだろうか。
今度、魔導書専門店の子供店主に聞いてみるか。名前と一緒にね。
すると、ノックが聞こえた。
入ってきたのは、宿の女将ルバニさんだ。
相変わらず大きなお腹と、くしゃっとした皺を眉間に寄せている。
「あんた、今日も泊まるのかい?」
「は、はい。一応、そのつもりです」
「お金は?」
「あります。あと1泊ぶん」
昨日、男たちから無事お金を取り戻していた。
宿泊費を支払ったから、残り12ゴル。
宿賃8ゴルだから、あと1泊だけ泊まることが出来る。
「仕事は見つかったのかい?」
「いえ。それがまだ……」
ますますルバニさんの皺が増えていった。
「金が払えなかったら、出ていってもらうからね」
凄い勢いでドアを閉め、部屋を出ていってしまった。
問題はないはずだ。
この力を使って、スライムにリベンジしてやる。
ぼくはギルドでもらった棒を片手に、宿を出た。
再び街の外に出る。
門兵は心配してくれたが、今度は大丈夫だからと振り切り、ぼくはフィールドに出た。
一応、念のため薬屋で回復薬を買った。
1個4ゴル。なかなかいい値段だ。
残り8ゴル。
ここでモンスターを倒して稼がないと後がない。
もう何も怖いものがなかった。
それはレベルマに出来る魔法を使えるからではない。
今日、成果を出せなければ、どっちみちのたれ死ぬのだ。
失敗しようと、成功しようと、やるしかない!
そんなポジティブともネガティブとも取れる思考に揺れながら、ぼくは再びスライムと対峙する。
「ゆう○い――」
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。
呪文を唱えた。
ペカッと光るわけでもなく、大気が渦巻くわけでもない。
魔法を使ってるという感覚が薄い気がするが、この際演出なんてどうでもいい。
目の前のスライムを狩るだけだ。
スライムはこちらに気付く。
ゆらりと動いた。
だが――。
――見える。
あれほど早かったスライムの動きが今ははっきり視認できる。
ぼくはあっさりとモンスターの行く手を回り込んだ。
相手は急ブレーキを掛けるが、もう遅い。
「おりゃああああああ!!」
自分でも驚くぐらい声が出た。
一気にスライムに棒を振り下ろす。
ベコンと音を立て、スライムはひん曲がった。
すると、黒い煙を上げて消滅する。
やった! ついにスライムを倒した。
しかも一撃だ!
ぼくは飛び上がって喜ぶ。
つと胸元が光っていることに気付いた。
ステータスカードが輝いている。
そこに文字が刻まれていた。
どうやら魔物を倒すと、自動的に表示されるものらしい。
世界観はレトロなのに、スマホ並の性能を秘めているようだ。
そこにはこう書かれていた。
【レベルが上限のため経験値を取得出来ませんでした】
なるほど。
どうやら魔物を倒して、経験値をもらい、レベルを増やしていくシステムらしい。
魔法使いの仕事は、「魔法を使って魔物を倒すこと」だったはず。
きっと自分の職業にあったシチュエーションをクリアすることによって、経験値がもらうシステムなのだろう。
本当にゲーム世界みたいだな。
しかもVRMMOとかじゃなくて、レトロゲームよりだ。
ぼくとしてはそっちの方がいいけどね。
ということは、レベルマにする魔法を使う限り、一生レベル1というわけだ。
自然と口角が上がる。
これでいい。
下手にレベルが上がって、目立つよりも、レベル1のままで侮られる方が総体的には便利かもしれない。まかり間違って、この方法が見つけられ、同僚みたいに勇者と祭り上げられることの方が、ぼくにとっては何倍も厄介だ。
幸い勇者という職業は別にいて、魔王もそいつが倒してくれる。
ぼくはぼくで楽をさせてもらおう。
なーに、贅沢なんて望まない。
朝ベッドから起きて、慎ましい食事をして、適当に仕事をし、身の丈にあった余暇を楽しむ。
ぼくの幸せはそれでいいのだ。
絶対この異世界では、スローライフを楽しんでやる!
いきなり日間総合160位でした!
ブクマ・評価・感想をいただいた方ありがとうございます。
頑張ります!
今日は1日外出しているので、次は夜になると思います。
よろしくお願いします。